2009年 05月 11日
クライマーズ・ハイ
2008 日本 東映=ギャガ・コミュニケーションズ、「クライマーズ・ハイ」フィルム・パートナーズ 145min.
監督:原田眞人 原作:横山秀夫「クライマーズ・ハイ」
出演:堤真一、堺雅人、尾野真千子、高嶋政宏、山崎努、遠藤憲一、田口トモロヲ、堀部圭亮、ほか。
個人的にも衝撃的だった御巣鷹山日航機墜落事件。後日パイロット同志の会話の録音が公開されたり
ドキュメントとしての素材としても、恰好な(失礼)話題であった。それゆえ私としてもとても興味があり、
どういう風に描かれているのか、原作者が自らの壮絶な体験を元にした小説がベースだけに、「ローカル
新聞社」の活躍と葛藤を期待した。原作未読、傑作の評価高いNHKのドラマも未見だが・・・。
長い映画だったが、結果、間抜けな感じで終わった。出演者たちはみんな頑張っていたし、よかったと
思うんだが、結局脚本と監督がイカンのだろうな。
まず冒頭からの難点として、何を言っているのかセリフがよく聞き取れなかった。録音が悪いのか
役者の滑舌の問題なのか、イラつく。2002年の同じ監督の作品「突入せよ!あさま山荘事件」の
allcinema評には、この映画も、何を言っているのか判らないというコメントがいくつかある。この監督は
耳が悪いのか?それとも、専門用語を観ている人を無視して多用しすぎているのか?反省すべき点だろう。
それと、これは映画を通してなのだが、新聞業界の基礎知識が最低ないと、よく解らない部分がある。
たとえば、ローカル新聞がなぜ共同通信社の記事に頼ることが沽券にかかわるのか、とか、「連赤」という
言葉を音で「れんせき」と言われてもなんのことかわからない。私自身、しばらくしてからようやく
「連合赤軍」だ、ということが解ったのだ。群馬とか大菩薩峠とかのセリフから類推したのだが。
原作未読の人とか、解るのかね。そんなのが多数あった。
というような難点を抱えつつ、実話をもとにしたダイナミックな物語が進行していくのだが、だれもが指摘
できることだろうが、堤真一の家族の描き方が中途半端なので、現代に屏風岩を登山する時での
小沢征悦との絡みとか、さらに言えばエンディングのニュージーランドでの光景などが生きてこない。
これなら、初めから飛ばしてしまったほうがすっきりする。
加えて、山崎努の社主のえげつなさの描き方も中途半端。アクの強い俳優なので、あのくらいの
ボリュームならもう少し削って、重要なポイントで登場させても十分だったと思う。
「記者だ記者だと偉そうなこといってんじゃないよ!」という地方新聞の社主の思想は、このセリフだけでも
十分に意味を持つ。
それと高嶋政宏と堤真一の友情と、高嶋の不意のくも膜下出血も、解りそうで解りづらい。壮絶な事故
現場を目撃した記者が狂気を発して車に轢かれて亡くなる部分と葬式などはカットだな。だって、彼が
発狂する場面が、その理由として描かれてないんだもの。
以上のような不要な部分をそいで、群馬にジャンボが落ち、航空史上最悪の事故が自分たちの新聞の
エリアで起きたことを戸惑いながらも、踏ん張って記事にする。広告紙面を切って営業と対立しながら
記事にする。遺体対面所に配送部の反対を押し切ってただで撒く、など、面白いところは、内情を知って
いる原作者ならではのシーンがたくさんあるのだから、新聞記者たちの苦闘に集約させてしまったほうが
いい映画になったことは疑いがない。間口を広げすぎたもったいなさは残念だ。
結局隔壁の破壊という特ダネをつかみながら、裏が100%取れなかったことで記事にしなかった堤の
敗北感(その事実はその日の毎日新聞の特ダネとして掲載されるのだが)が強調され、尾野真千子の
記者が、「私は全権を支持します」というカタルシスで救おうとするのだが、徒労感は、それ以上に
見終わったあとに残る。彼らが地方新聞として、できるだけのことをやりった、というカタルシスを感じた
かったのだが。遺族と思しき母子が、新聞社に新聞を貰いに来るシーンなどは、ローカル新聞でなければ
ならない自分たちのレゾンデートルであり、いいエピソードなんだが。
一番迫力があっていいなと思ったのは、次長(蛍雪治朗)や局長、部長らがどなりあうシーンだった。
あるいは販売をだましてトラックを出さなくするところとか、記事をあちらこちらに埋め込む堤の戦術とか
社主が、ローカル新聞オーナーの本性をさらすところとか、良かった。だからもったいないんだよなあ。
もう一度編集しなおして100分くらいの映画にしたら、面白くなると思うのだが・・・。いい意味で言えば
原作に忠実に?悪く言えば、あれもこれもと欲張りすぎた結果だ。聞けばラストのニュウージーランドの
シーンは原作には無かったとか・・・。
この映画の情報はこちらまで。
『1985年8月12日 御巣鷹山に日航機墜落、死者520名―。 走り、叫び、書いた。 新聞記者たちの激動一週間』 コチラの「クライマーズ・ハイ」は、「半落ち」、「出口のない海」の横山秀夫が当時地元地方新聞社の記者だった自らの体験をモトに、日航ジャンボ機墜落事....... more