2009年 06月 13日
バンテージ・ポイント Vantage Point
2008 アメリカ Columbia Pictures,Relativity Media,Original Film,90min.
監督:ピート・トラヴィス
出演:デニス・クエイド、マシュー・フォックス、フォレスト・ウィティカー、ウィリアム・ハート他。
なかなか凝った嗜好で、面白かったですよ。90分ノンストップで見せてしまいます。しかも、何気に
豪華配役陣。大統領暗殺の様子を様々な目撃者、関係者の立場で描いて全体像を表現するという
手法は、そうびっくりするものではないのですが、映像的な手法と、判りやすいストーリー、テンポの
良い編集、そしてラストの壮絶なカーチェイスと、飽きさせない脚本と演出が素晴らしい。
単純に映画を楽しく観たい人にはお勧め、観終わって「あ~面白かった!」と感じたい人にもお勧め。
すっきりとしたカタルシスも味わえる。
舞台はスペインのサラマンカ。いましも歴史的なキリスト教世界とイスラム教世界の融合が図られる
首脳会談が開かれようとしていた。アシュトン米大統領(ウィリアム・ハート)も、この会議に参加する
ためにサラマンカを訪れ、街の中心の古城に設けられた演台で、市長から紹介されてスピーチを
始めた瞬間、厳重な警戒を破って狙撃される。
警戒に当たっていたのはバーンズ(D・クエイド)とテイラー(マシュー・フォックス)のSSコンビ。バーンズ
は半年前に大統領の狙撃を身を挺して防ぎ、重傷を負った。心の傷を抱えたまま、これが復帰の仕事
だった。幾重にも引かれた警戒網をくぐって犯人はどうして狙撃できたのか、会場では演台に仕掛け
られた爆弾も破裂して、多くの死傷者を出すことになった。
この事件を、最初はシガーニー・ウィーヴァーがディレクター役を務めるテレビ中継車の中の映像を
使って描き始め、その後、この事件に関係したバーンズ、大統領、会場に観光に来ていて偶然犯行を
ビデオに録画したハワード(ウィテカー)、市長を護衛に来ていた刑事、犯行に関係したテロリストらの
立場で描かれていく。最初の4回くらいは事件を別の角度からなぞる作業が続く。2歩下がって3歩
進む、という感じで、少しずつ新しい事実が現れていく。そして、ついに謎解きとラストへ向かう過激な
カーチェイスとなる。
テロリストに利用された、市長護衛の刑事と、結局演台にいたのは替え玉だったのだが、テロリストは
それを見破っていて(シークレットサービスに裏切り者がいたわけだが)、本物の大統領のいるホテルで
自爆テロを起こし、騒いでいる間に仲間がホテル内に侵入し、大統領を誘拐してしまう。
事件直後、ハワードのホームビデオを再生していて見ていると、なんとテロリストの女が、演台の下に
カバンを投げ込む様子が写っていて、その瞬間に、大爆発が起きる。バーンズはテレビ中継車に飛び
込み、録画を見せてもらうのだが、そこに映し出されたのは相棒のテイラーが地元の警官の姿に変装して
バーンズの電話に応答している衝撃な映像だった。
大統領を誘拐したテロリストたちは、救急車に乗って逃げるのだが、バーンズは市民のクルマを借りて
追跡を始める。これが、またものすごいカーチェイス。
弟を誘拐されて仲間に引き込まれたテロリスト、女の誘惑にだまされた市長警護の刑事らの事情も
次第に明らかにされ、前に見た謎っぽい映像も秘密も、ジグソーパズルのコマがハマっていくように
溶解していく。
ラストは、追跡を振り切ろうとする大統領を乗せた救急車が、母を探すアナという女の子が、道路に
飛び出てきたのを避けようとして横転、また、地元のパトカーに乗って逃げていたテイラーと弟を誘拐
されて仲間になったテロリストは、分離帯のコンクリートに激突、駆け寄ったバーンズに、テイラーは
「おれたちの戦いは終わらないのさ」と言って絶命する。
さらにバーンズは横転した救急車から大統領を救出し、テロリストたちは殲滅されたのだった・・・。
2005年にアカデミー作品賞を獲ったポール・ハギスの「クラッシュ」や、ロバート・アルトマンの傑作
群像劇「ショートカッツ」などに通底するような、偶然の出来ことがやがて必然になって1点に収斂して
いくストーリーは、見ていてダイナミックだ。本作は、偶然は関係ないし(アナの交通事故くらいか)むしろ
仕掛けられた謎が1点に収束していくわけであるので、不条理、という点はないが、感じるとことが
どこか似ていると思った次第。
デニス・クエイドは、トレーラーに押しつぶされたクルマから這い出てくるところなぞはターミネーターかよ!
と突っ込みを入れたくなるが、全般に好演。いずれにせよ、本作は、映画の構成を堪能するものであり
ましょう。90分という上映時間も適当だと感じた。まあ、しいて言えばテロリストたちの背景が一般論で
すまされている点や、バーンズの人間性の表現が薄味だったりするので、映画の厚み、という点は弱点
ではありますが・・・。
この映画の情報はこちらまで。
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