告発のとき In The Valley of Elah

●「告発のとき In The Valley of Elah」
2007 アメリカ Blackfriars Bridge Films,Summit Entertainment 121min.
監督:ポール・ハギス
出演:トミー・リー・ジョーンズ、シャーリーズ・セロン、スーザン・サランドン、ジョナサン・タッカー他
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「クラッシュ」で名を挙げたポール・ハギスが、現実に起きた話をベースに原案を作り、脚本を書き、
製作にもタッチした、イラク戦争に参加した若者の悲劇と、それに巻き込まれた家族の悲劇を
ミステリータッチで描く。どこかトミー・リー・ジョーンズがクリント・イーストウッドと重なる。

ベースがミステリーで、軍警察と地元警察の対立なども加わり、スピード感を持って映画が進む。
そして、にじみ出てくるような、戦争の狂気が、事件の全貌が明らかになるに従って明らかとなってくる。
なかなか秀作と見た。渋めの配役(シャーリーズ・セロンも地味目な役どころ)で、戦争の悲劇と言う
ものを、表層的、イベント的になるのを抑制しているように感じた。

2004年1月、元軍警察のハンク・ディアフィールド(トミー・リー・ジョーンズ)の元にイラクから帰還した
息子のマイクが無断離隊した、との連絡が入る。父を見習って陸軍に入り、祖国を守ることに情熱を
傾けていていた息子に限って、姿を消すなんていうことがあるはずがない、と思う。
まず、地元警察に行って捜索を訴えるが、それは軍警察の所管、と相手にしてくれない。続いて
軍に行き、同じ隊にいた仲間たちに会い、いろいろ尋ねるが、心当たりがない、という。ハンクはマイクの
机の中から携帯電話を黙って持ち出した。

携帯電話の住所録に何かヒントがあるか、とも考えて業者に中のチェックを頼む。だが出てきたリストから
は、何の手がかりも得られなかった。しかし、カメラでとらえた映像や動画には、熱で相当画が傷んでは
いたが、移動する軍車両の中とか、何かをハネたところとかが写されていた。
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息子の足跡を辿っていくと、やがてイラク戦争で起きた様々なことが明らかになってくる。そのころ
地元警察の女性刑事エミリー(シャーリーズ・セロン)が、ハンクの見方になっていろいろ調べ始めた。
と、直後に焼死体が発見された、との一報が入る。しかも、遺体は切り刻まれて、焼かれていた。

遺体が発見された場所が軍の敷地内なので、軍警察の管轄となり、何やら秘密めいた捜査が行われ
ていくが、マイクの指摘で、殺されたのは地元警察のエリアで、引きずられて軍の敷地に来て焼かれた
のだ、と判明、地元警察も捜査に乗り出す。
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父ハンクは軍警察や地元警察の協力を、元軍警察という立場も利用して引き出し、まずハンクの仲間
たちから、殺された夜の本人や仲間たちの行動を洗っていく。しかし、仲間たちはどうやら口裏を
合わせているようだ。そこで、ハンクは無理やり仲間の一人一人に事情を聴いていく。
すると、嘘を言っていたことが判り、殺したのは仲間の一人で、動機はケンカの果てであったことも
わかった。戦地では当たり前のことで、ケンカしてもすぐに仲直りしていたのだが、大麻をやっていたこと
もあり、仲間の一人はとっさにナイフでマイクを刺したという。(42か所も)
逆の立場だったら俺が刺されていたさ、と平然と言う。
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また写っていた写真から、マイクは運転していた軍用車でイラクの少女をハネてしまい、それを放置
してきたことを気にしていた、ということも判ってきた。
戦地では、車両は止まると標的になるので、何があっても止まるな、と命令を受けていた。マイクは
道に茫然と立っていた少女を避け様とクルマをとめようとするが、仲間から止まるな、と言われる。
結局、マイクは少女をハネてしまった。マイクはクルマを無理やり止め、ケイタイでハネた少女の姿を
撮影したのだ。それは自分に忘れるな、と言い聞かせる良心に突き動かされたかの様な行動であった。
そんなことがあってからマイクは戦地から父に電話し、あることが起きたんだ、父さん、僕をここから連れ
出してくれ、と話してきた。ハンクはそれを単なる泣きごと、と思い、「あること」について聴いてもやらな
かった上、しっかりしろ、おざなりに励ますだけで電話を切った。思えば、マイクはSOSを発信していた
のだ。父はそれに気づいてやれなかったことをいまさらながらに悔いたのだった。

母(スーザン・サランドン)は、すでに長男も戦死していて、次男まで殺され、父に憧れて軍に入った
次男が死んだのはあなたのせいだ、とハンクを責めるのだった。2人しかいない子供を二人とも戦死
させてしまった母の心痛はいかばかりか。こんな光景は先の大戦では普通にみられた光景だったのだ
ろう。しかし、今現在でも、こうした国家の英雄と称揚される陰で、悲痛な思いをしている親はアメリカ
にはたくさんいるのだろう。トム・ハンクスの「プライベート・ライアン」のストーリーを思いだした。
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それにしても、出来た息子、と信じていたマイクが、戦地では狂気の中で平常心を失い、大麻に走り、
(走らなければ戦争なんてやっていられなかったのだろう)、同じ状況の中の良かった仲間に殺された
状況を把握していくに従って、なんとバカな戦争をしているのだろう、ということが解ってきた。

ラスト、戦地のマイクが自分に送った封書を開けたハンクはそこにボロボロになった国旗と隊の仲間との
集合写真があった。写真の入った封筒には「dear dad」と記されていた。
ハンクは、国旗を地元警察の国旗掲揚ポールに天地さかさまにして掲揚した。国旗を天地逆にして
掲げることは、緊急の救助を要請しているときのサインだ。まさに、この国は、「緊急の救助」を必要と
するほどに病んでいるのだ・・・・。(この国旗の下りは、映画の前半にハンクが地元警察署の前を
通りかかると、国旗が逆になっていて、クルマを止めてプエルトリコ人だ、という係官に理由を話して
注意する、という光景があるが、これが伏線になっている)
ただし、日の丸では、出来ないし、三色旗の国は別の国の国旗になる恐れがあるな。

アメリカという国は、戦争が途切れないから、こんな映画は後を絶たないのだろうな。そしてこういう映画
を作れてしまう、という国でもあるわけだ。銃も自由だしなあ、不思議な国だ。

『原題のIn The Valley of ElahのThe Valley of Elahというのは、ダビデが古代イスラエルの
敵だったペリシテ人の巨人兵士ゴリアテを投石器で倒した場所で、映画でも(シャーリーズ・セロンの)
子供に教える形で紹介されている。
ペリシテはパレスチナの名称の由来であり古代イスラエルの敵だったから、ゴリアテとは、現代に言い
換えれば、イラク戦争開戦の大義名分となった、イラクが保有しているとされ、結局持っていなかった
大量破壊兵器のメタファーじゃないか、と思えてくる。とすると、原題自体がイラク戦争のメタファーという
ことになる。なのに邦題の訳分からなさは一体何なんだろう。』(by satolog)

この映画の詳しい情報はこちらまで。
by jazzyoba0083 | 2009-07-17 23:10 | 洋画=か行 | Comments(0)