鬼畜

「鬼畜」
1978 松竹 110分。
監督・製作:野村芳太郎  撮影:川又昂 音楽:芥川也寸志
出演:緒形拳、岩下志麻、小川真由美、大滝秀治、加藤嘉、田中邦衛、蟹江敬三、大竹しのぶ、ほか。
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<感想>
たまにこういう邦画を観たくなる。今年は松本清張生誕100年ということで、WOWOWでも特集が
組まれている。その中の一本が本作。野村監督は、同じ年にやはり原作ものでこちらは大岡昇平
原作の「事件」もものしていて、そちらでも日本アカデミー賞をいろいろ獲っている。
本作は、名作「砂の器」から4年後の作品。あちらには脚本に山田洋二が加わっていたり、橋本忍が
製作に入ったりして、それなりの厚みが出ていた。
さて本作も、監督、カメラ、音楽が「砂の器」と同じスタッフであるから、どことなく雰囲気が似ている。
話は全然違うが、根っこは親子の絶ちえない繋がりと愛情というようなものを描いていて、様々なことを
考えさせる。
松竹の映画はこうした問題作を作る会社としての認識がある。東宝は娯楽作に秀で、特撮ものや
「若大将」「社長漫遊記」などを提供、日活は、裕次郎や宍戸錠などでの活劇、ヤクザモノ、そしてロマン
ポルノが印象的だった。
こうした面での松竹を支えたのが緒形拳であり、岩下志麻であり、小川真由美であり、加藤嘉であり、
加藤剛であり、倍賞美津子らであった。いずれも日本人のメンタリティーを演じさせて秀逸であり、
彼らが出ている映画は安心して観ていられる。そして緒形は1979年に今村昌平のメガフォンで
やはり松竹作品の「復讐するは我にあり」に出演、数々の賞を獲得したのだった。
話が脇にそれたが、本作も、そうした流れの中にある秀作であり、日本映画の良い面が一杯詰まって
いる。子役の役目特に利一の役目は重要だ。だが、決して原代の子役のように上手くはない。しかし
痛々しいまでの必死さがそこにはある。それが、子捨てに走る緒形を見て「ちがうよお、この人は
とうちゃんなんかじゃないよお、 別の人だよ!」と目に涙を浮かべて言うところは、胸が熱くなる。
児童相談所に預けられることになる利一は将来どういう大人になるのだろうか。「砂の器」の和賀英了
とダブったところだ。

安定した川又昂のキャメラ。更に胸を締め付ける芥川也寸志のオルゴールミュージック。どれを取っても
あのころの日本映画の強さを感じる。
さらに若手として登場する婦警役の大竹しのぶは、このころから、実に上手い女優さんであったことが
良く解る。決して明るくない映画だが、原作と言い映画の出来といい、日本人なら必見でしょう。

<ストーリー>
そう難しい話ではない。小さな印刷会社を夫婦と職人(蟹江敬三)でやりくりする竹下宗吉(緒形)と
お梅(岩下)。ある日、3人の子供の手を引いて、菊代(小川)という女性が現れる。彼女は、割烹の
仲居で、宗吉と割無い仲になり、結婚しているにもかかわらず、3人の子をなした。
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生活に窮した菊代が宗吉のもとに来た、というわけだ。7年間の浮気生活に激怒するお梅であったが、
数日は菊代と子供らと生活したものの、菊代が子供を置いて出奔すると、子供らにきつく当たる
鬼婆となったのだった。

お梅にけしかけられるように、まず末っ子の赤ん坊が「落ちてきたビニール袋」で窒息死する。
次いで、長女の良子を、宗吉は東京タワーに連れて行き、展望台で遺棄してくる。さらに長男の利一を
連れ、福井県東尋坊に行き、眠っている利一をがけ下に落とす。「鬼畜」のような二人は、なさぬ子らを
始末したつもりだったが、利一は木に引っ掛かって一命を取り留める。警察に尋ねられても何も答えぬ
利一。もっていた石けりようの意志が印刷に使う石盤であったことから、宗吉の身元が判り、宗吉は
逮捕され、福井に連行されてくる。そこで利一と対面した宗吉は、利一にぬかづいて許しを請うが、
利一は、先のように、宗吉は父ではない、と言い張る。そして児童相談所に引きとられる・・・。

岩下志麻の鬼婆ぶりが凄い。圧倒的である。
この映画の詳細はこちらまで。
Commented by 台湾人 at 2011-01-28 23:17 x
日本の名優緒形拳と岩下志麻ですか。
この前緒形拳の訃報を聞いた時は大変驚きました。
by jazzyoba0083 | 2010-01-08 22:45 | 洋画=か行 | Trackback | Comments(1)