生きものの記録

●「生きものの記録」
1955 日本 東宝 113分
監督:黒澤明
出演:三船敏郎、志村喬、千秋実、清水将夫、三好栄子、千石規子、上田吉二郎、東野英治郎他。
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<評価:★★★★★★★★☆☆>
<感想>
音楽を担当した親友・早坂文雄の遺作として知られる本作、黒澤映画唯一の
反核作品である。フクイチを体験した私たちには、また同日性を持って迫る。
作られた当時はプリミティブな反・原水爆の作品(表現法は凝っているが)だが、
主人公中島翁の「死ぬのは止むを得ない。しかし殺されるのは嫌だ!」という
叫びと、ラストシークエンスでの精神科医(中村伸郎)の「今のこの世の中を
生きている私たちの方がおかしいのか・・・」というセリフは、まさに今の世の中に
突きつけられたセリフとして、残念ながら生きてしまっている。

大上段に振りかぶった(黒澤作品はその手が多いが)タイトルが皮肉を持って
迫るのだ。本作が作られた当時、「第五福竜丸事件」や「ビキニ水爆実験」など
東西冷戦構造から来る原水爆の恐怖というのが市民の間にも高まった時期で、
黒澤本来の反骨・反権力気質が作り上げたものであろう。当時の東宝首脳部が
良く製作を許したものだと思う。

35歳にして70歳の老人を演じた三船、頑張っていたがやはりどこか無理が漂う。
あえて若い三船に老人を演じさせた黒澤の魂胆、あるのだろうけど浮かび上がって
来なかった。脂ぎった移民への情熱の表現だろうか?(本作1番の売りだろうが
何故か私にはピンときませんでした・・・)
またブラジルからの客人、東野の色の黒さは何なのだろうか?
更に大きく残念だったのは、親子間の(妾の子も含め)葛藤相克を表現するパート
と、核に対する恐怖から常ならぬ行動に走る老人と家裁の調停員たちの苦悩とが
うまく両立しきれていないように感じたが、どうだろう。望み過ぎだろうか?
千石規子は、本当に目の演技、視線の演技ができる女優さんだなあ、とつくづく
感じた。
フクイチ前だったらまた別の感想もあっただろうが、それを体験してしまった後に
見た本作は、黒澤が意図しなかった別の命をもう一つ持つことになったのだ。
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本作のストーリーや詳細についてはこちらのWikipediaをご参照ください。
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by jazzyoba0083 | 2013-01-05 17:30 | 邦画・旧作 | Trackback | Comments(0)