終戦のエンペラー Emperor

●「終戦のエンペラー Emperor」
2012 アメリカ Krasnoff Foster Productions,Fellers Film,United Performers' Studio.107min.
監督:ピーター・ウェーバー  原作:岡本嗣郎 『陛下をお救いなさいまし』(集英社刊)
出演:マシュー・フォックス、トミー・リー・ジョーンズ、初音映莉子、西田敏行、羽田昌義、中村雅俊
    火野正平、夏八木勲、桃井かおり、伊武雅刀、片岡孝太郎他
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<評価:★★★★★★☆☆☆☆>
フェラーズ准将の視点から日本と天皇の関係を見つめた構成は面白かった。こういう人が
いたということを今回初めて知った具合。しかし、恋人アヤとの一件は、作品にメリハリを
着けたかったのだろうけど、描かれた内容の意味合いからみても、もっと長くして意味を出すか
止めて硬めに降った方が面白く映画もしまったのではないか、と感じた。

主演の准将を演じたマシュー・フォックスという俳優さんはあまり良く知らないけど、日本人俳優も
沢山出てきて、アメリカではどう受け止められたのだろうか。結局、マッカーサーの意見でもあった
天皇を戦犯として裁判にかけたときに日本はどうなるのか、という予測を、関屋貞三郎らに語らせ
天皇は軍部のやりかたに批判的でありなんとか戦争になることを避けようとしていたのだが、
最期には軍部に押し切られた、という説明をGHQは善意に受け止め、かつ天皇と日本人の
文化も研究し、裁判にかけることは止めたのだった。そのあたりの機微は概論的ではあるが
よく分かった。(というか昔からそういわれていたけど) マッカーサーと対面した天皇は「すべての
責任は自分にあるのだから、国民を助けてほしい」いうようなことを言うわけだが、
でもよく考えると、統帥権を持つ神聖にして犯すべからずの天皇が軍部に押し切られるという
のはおかしいのだけど。それこそ日本人と戦争という時代の気分を表していると言えるのでは
ないか。これは現代にも通じることだ。戦争を止めさせたのが天皇であったのは確かなこと。
なぜ始まってしまったか、については様々な検証がなされている。

近衛文麿が「インドシナは日本が攻める前はフランスが、シンガポール・ビルマはイギリスが、
フィリピンはアメリカ、アメリカはスペインから略奪したのではないか。日本はあなた方と同じ
ことをしたに過ぎない。」(いわゆる帝国主義の肯定。もっと言えばインドネシアはオランダ領
だったわけだ。香港はイギリス、マカオはポルトガル、中国本土もイギリスやドイツ、アメリカ
ロシアらの帝国主義列強に蹂躙されていたはずだが、なぜ日本だけが責められるのだ、と
いうような意味のことをGHQに対し語るシーンがあるが、考えさせられてしまった。
こういう論理は今の右翼の主張に通じるものだ。ただ、日本はやり方がまずかったわけだと。
その戦争の戦勝国の論理で回っている現代の世界って??と考えさせられてしまったのだ。
もちろん、あと付けの帝国主義肯定は不可能なのだけれど。

作品は上記のような大戦前の帝国主義について深堀するわけではなく、あくまでも日本と
天皇の関係を語っていく。が表層的ではある。
ラストで准将は大佐に降格された、と解説されるが、占領政策についてホワイトハウスあたりで、
あるいはGHQあたりでは面白くおもなわなった人がいたということなのだろう。
戦後史を意外な側面から描いた作品として、一度見ておくといいと思う。
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<ストーリー>
「1945年8月30日。第二次世界大戦で降伏した日本にGHQを引き連れたマッカーサー
(トミー・リー・ジョーンズ)が降り立つ。直ちにA級戦犯の容疑者たちの逮捕が命じられ、
日本文化の専門家であるボナー・フェラーズ准将(マシュー・フォックス)は“名誉”の自決を
止めるため、部下たちを急がせる。
その頃、前首相東條英機(火野正平)は自ら胸を撃つが、心臓を外して未遂に終わる。
マッカーサーはフェラーズに、戦争における天皇(片岡孝太郎)の役割を10日間で探れと
命じる。

連合国側は天皇の裁判を望み、GHQ内にもリクター少将(コリン・モイ)を始めそれを当然と
考える者たちがいたが、マッカーサーは天皇を逮捕すれば激しい反乱を招くと考えていた……。
大学生の頃、フェラーズは日本人留学生アヤ(初音映莉子)と恋に落ちるが、彼女は父の
危篤のため帰国。あれから13年、フェラーズは片時もアヤを忘れたことはなかった。
だがアヤの捜索を頼んでいた運転手兼通訳の高橋(羽田昌義)から、アヤが教員をしていた
静岡周辺は空襲で大部分が焼けたという報告が届く。

そんな中、フェラーズは開戦直前に首相を辞任した近衛文麿(中村雅俊)に会い、開戦の
3ヶ月前、戦争回避のため秘密裏に米国側と接したが、国務省がそれを拒否したという
事実を知る。調査が行き詰まり、宮内次官の関屋貞三郎(夏八木勲)に狙いを定めた
フェラーズは、マッカーサーの命令書を楯に強引に皇居へ踏み込む。

関屋は開戦前の御前会議で、天皇が平和を望む短歌を朗読したと語る。説得力のない
証言に腹を立てて立ち去るフェラーズだったが、深夜、天皇に最も近い相談役である内大臣、
木戸幸一(伊武雅刀)が現れ、天皇が降伏を受諾し反対する陸軍を封じるために玉音放送に
踏み切り、千人の兵士から皇居を襲撃されたという経緯を聞かされる、だがその話を証明する
記録は全て焼却、証人の多くも自決していた。
戦争を始めたのが誰かはわからない。だが終わらせたのは天皇だ。フェラーズはマッカーサーに、
証拠のない推論だけの報告書を提出する。マッカーサーは結論を出す前に、天皇本人に
会うことを希望。異例の許可が下り、社交上の訪問としてマッカーサーに会うという建前に
沿って、ついに天皇がマッカーサーの公邸に現れる。
しかし、天皇は周りの誰も知らない日本の未来を決めるある一大決意を秘めていた……。」
(Movie Walker)
by jazzyoba0083 | 2014-05-26 23:30 | 洋画=さ行 | Trackback | Comments(0)