蜘蛛女のキス  Kiss of the Spider Woman

●「蜘蛛女のキス Kiss of the Spider Woman」
1985 アメリカ・ブラジル 119min.
監督:ヘクトール・バベンコ  原作:マヌエル・プイグの『蜘蛛女のキス』(集英社)
出演:ウィリアム・ハート、ラウル・ジュリア、ソニガ・ブラガ、ホセ・リュウゴイ他
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<1986年度アカデミー賞主演男優賞受賞作品>

<評価:★★★★★★★★☆☆>
<感想>
その名前は前から知っていたものの、観る機会が無く、今回WOWOWで放映されたので
見てみた。独特の雰囲気を持った面白い映画だったと感じた。作られてから30年ほども経つが
作品に製作時代による古さは感じない。それは原作が普遍的なテーマをもっているからで
あろう。刑務所の二人房という密室で繰り広げられる原則会話劇であるが、そこにウィリアム・
ハート演じるモリナが語るナチス時代のレジスタンスと女が繰り広げる映画の話が挿入され、
物理的空間の狭さを感じさせない作りになっているところも作りとして考えられている。
タイトルは、彼が語る別の映画のタイトルから来ている。

映画化される前に舞台で上演されているけど、そういうタイプの作品であることは成程なんだ
けど、これを映画にアダプトしてこれだけ質の高い映画に仕上げたのは脚本も監督も演者も
みんなよくないと出来ない業だ。
そして、結果論だが主演の悲しい男の一部始終を演じきったウイリアム・ハートのための映画
だったという気がする。

革命家とゲイという組み合わせ、そこで語られるナチス時代の占領下パリでの歌手とナチ将校
の恋と悲劇。よ~く考えると、時代もシチュエーションも違うけど、モリナと歌手の悲恋が
モリナの運命をなぞっていくのだ。まるで自分の運命を自ら語るが如く。せまい空間で
繰り広げられる二人の様々な出来事を通して変わっていく心理が見事。悲劇的な最期という
映画は好きではないのだが、小さな愛情に忠実に生きようとしたモリナの悲劇的な最期は
心痛むが、どこか絶望にならないのがこの映画の不思議なところだろう。繰り返しの視聴に
耐えうるエバーグリーンの作品だ。
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<プロダクションノート&ストーリー>
ファシズムが台頭する南米のある国を舞台にテロリストとホモセクシュアルの交流を描く。
製作はデイヴィッド・ワイズマン。エグゼキュティヴ・プロデューサーはフランシスコ・ラマリオ・
ジュニア。監督はヘクトール・バベンコ。マヌエル・プイグの同名原作(集英社)を基にレナード・
シュレイダーが脚色。撮影はロドルフォ・サンチェス、音楽はジョン・ネシュリング、美術は
クローヴィス・ブエノが担当。出演はウィリアム・ハート(85年カンヌ映画祭男優賞/
86年米アカデミー賞男優賞受賞)、ラウル・ジュリア、ソニア・ブラガなど

南米の刑務所の監房の中。そこに二人の男が同じ房に入れられていた。ひとりは政治犯の
バレンティン(ラウル・ジュリア)で偽造パスポートを使おうとして現場を押えられたのだった。
もう一方のモリーナ(ウィリアム・ハート)はホモセクシュアルで風紀罪に問われて刑務所入り
となったのだった。
同房に居合せながらまったく別の世界をもつ二人。映画好きのモリーナは、いつか見た
映画の話をバレンティンに語り聞かせている。しかし、バレンティンはその話にうんざりして
おり、同志と全く連絡もとれず茫然とただ時を過ごす毎日だった。

第2次大戦ナチ占領下のパリ、美人シャンソン歌手レニ(ソニア・ブラガ)と青年ドイツ将校の
恋--それがモリーナの今語っている映画の内容だった。バレンティンにもかつては愛する
女がいた。政治家とゆ着する大資本家の娘(ソニア・ブラガ2役)で、反体制活動家の彼は、
活動を続けるために彼女を捨てて旅立ってしまったのだ。

ある日、モリーナは、所長の部屋に呼ばれた。実は、モリーナは、バレンティンの
地下活動を探るために同房に入れられていたのだった。うまくいけば刑をまぬがれることが
できるのだ。しかし機密を聞きだすためのバレンティンへの献身工作はいつしか愛情へと
変わりつつあり、バレンティンを騙しているという自責の念にかられていた。

そうとは知らないバレンティンも、次第にモリーナの愛情を感じるようになってゆく。
一方、向いの房に入れられていた顔をおおわれた男が、バレンティンには気になっていた。
たえず拷問をうけていた彼は遂に死んだ。バレンティンは、さらされた彼の顔を見て驚いた。
なんと、思想家のリーダー・アメリコ博士で、以前、偽パスポートでバレンティンが国外に
逃亡させようとして失敗したのは、このアメリコだったのだ。落胆するバレンティン。そのことを
所長に告げたモリーナ。そのためにモリーナの釈放が決まった。

バレンティンは、出てゆくモリーナに重大なメッセージを頼んだ。使命感に燃えるモリーナは
元の街に戻った。母親や友人たちとの久びさの対面のあと、彼は、バレンティンから頼まれた
電話番号を回した。約束の場所と時間に出むいたモリーナ。彼は、銃声のもとに倒れるのだった。
そのころ、房のバレンティンは、モリーナの語る映画の中にいた。南洋の海辺で愛する女と
ボートにのる彼……。」(Movie Walker)

最後のところを補足しておくと、娑婆に戻ったモリナはバレンティンの仲間と接触しようとし
あとを付けられていた警察に追われる。目の前に来たクルマに合流出来たモリナ、しかし
警察が駆けつけたため乗ることが出来ず、革命派は、モリナの口を封じるため、彼を射殺
してしまうのであった。一方、刑務所に残ったバレンティンもこの件で拷問を受け、医者から
痛み緩和のためにモルフィネを打たれるのだが、その眠りの中で、かつての恋人と
海辺からボートで漕ぎ出す夢を見ていたのだった。

この映画の詳細はこちらまで。
by jazzyoba0083 | 2014-06-02 23:30 | 洋画=か行 | Trackback | Comments(0)