2014年 08月 02日
グラン・ブルー 完全版 Le Grand Bleu:Version Longue
1988 フランス・イタリア Gaumont.169min.
監督・原案・脚本:リュック・ベッソン 製作顧問:ジャック・マイヨール
出演:ロザンナ・アークエット、ジャン=マルク・バール、ジャン・レノ、ポール・シェナー、グリフィン・ダン他
<評価:★★★★★★★★★☆>
<感想>
思い込みとは恐ろしい物で、私はこの映画をドキュメンタリーだと思っていた。
そのような要素はあるのだが、ここまで美しく作りこまれたフィクションだったとは・・
というわけでWOWOWで完全版の放送を機に鑑賞。地中海ということで下駄は履いて
いるのだが、ベッソンの作り出す映像がまず美しい。海の表面や中とかだけの話ではなく、
映画全編に渡り、画角、構図、配色、などが計算され尽くしていて素晴らしいと感じた。
本作はオリジナル版を含め3パターンあり、私が観たのは最長の完全版で、オリジナルを
観ずして、グラン・ブルーを語るなかれ、というファンも多かろうが、今回は完全版で感想を
書かせて頂く。この映画には「グラン・ブルー・ゼネラシオン」という熱心な(カルトな)ファンが
いるほどの作品なので、今更下手なことを言うと、石が飛んできそうなので、頭を低くして語らせて
もらうけど、いい映画でした、実際。
ストーリーはあるようなないような、全体が抒情詩のような独特の雰囲気を醸し出していて
これがまた映画としての魅力を発散しているのだと感じる。
実在のダイバー、ジャック・マイヨールがモデルの映画であるが、映画のクレジットは、彼に
恋してしまうNYの保険屋の調査員ジョアンナが一番上に来る。海=女性というメタファーを当て
はめるのはイージーに過ぎようが、しかしこの映画の主人公はラストに「私の愛を探しに行って
らっしゃい」とジャックを深海に送り出すジョアンナであったのだ。
さらに言えば、好敵手エンゾの影にはたえずマンマが付きまとっている。彼の行動の原点は
いつでもマンマであるのだ。そういう点からしても、この作品は女性が主人公であろう。
フランス語で海(la mer)は女性名詞であるが、タイトルはLeで男性名詞。その辺りの対比に
想いを致すと面白い構図が見えてきそうである。ジャックの海の友達であるイルカたちもある
意味女性のメタファーとも読める。また深海への挑戦もまたその深さが暗喩となっていると
思えてくるのである。ラストの解釈もまた多様であろう。イルカと共に深海に消えるジャックは
笑顔だったはずだ。しかし、現実は自分の子供を身ごもった女性を残しているのだ。
ジャックの行動の結末をあえて大自然の中で観客に委ねた瞬間、この映画は永遠の命を
得たともいえよう。
殆どのシーンに海が出てくるが、その描き方は多様であり、一番新鮮だったのは寝ている
ジャックの上に降りてくる海がそのままジャックを飲み込んでいくところ。後は陽を受けて
輝く海、漆黒の海と人工の灯りなど、冒頭で書いた映画の美しさを倍加させる要素となって
いるのだ。エリック・セラの音楽もまた素晴らしいことは衆目の認めるところだ。
本作は単なるジャックとエンゾのライバルの物語でないことは明らかであろうが、一方で
ジャックとジョアンナの愛の物語でもない。幼いころ潜水士の父を事故で失ったジャックの
トラウマと女性をまともに愛せなくなりジョアンナを愛するようになってからも真に心を許せる
ものはイルカだけだったりする事も含め、海を描いた抒情詩といえるのではないか。
機会があればオリジナル版を観てみたい。しかし、これだけ騒がれた映画なのに一つの
映画祭のノミニーにもなっていないのが不思議だ。
<プロダクションノート&ストーリー>
「潜水に取り憑かれたふたりの男が織りなす人間ドラマを華麗なる水中撮影もふんだんに
描いたアドヴェンチャー・ロマンのフランス本国のみで公開されたオリジナル・ヴァージョン
(132分)。
監督は本作で一躍売った「レオン」「フィフス・エレメント」のリュック・ベッソンで、
「グレート・ブルー」公開10周年を記念しての初公開。
ちなみに、全米公開版「グレート・ブルー」は日本公開は88年、英語版で120分。
ロング・ヴァージョン「グラン・ブルー グレート・ブルー完全版」は原語のフランス語版で
日本公開は92年、168分。
脚本はベッソンとロバート・ガーランド。撮影は「最後の戦い」「サブウェイ」のカルロ・ヴァリーニ。
音楽はベッソンとコンビを組むエリック・セラ。出演は「ヨーロッパ」のジャン=マルク・バール、
「レオン」「ロザンナのために」のジャン・レノ、「ライアー」のロザンナ・アークェットほか。
1965年、ギリシャのキクラーデス諸島で八歳のジャックはエンゾと出会った。そこで二人は
初めて潜りを競うが、翌日、ダイバーであるジャックの父の死を目撃し、大きな衝撃を受ける。
12年後の1987年、いまや一流ダイバーとなったエンゾ(ジャン・レノ)は、稼いだ金を
つぎ込んでジャック(ジャン・マルク・バール)の行方を探していた。
ジャックとダイビング選手権に出場して勝利すること、それがエンゾの夢だったのだ。
一方ジャックは水族館のイルカだけを友として静かに暮らしていた。そんなジャックと出会った
ニューヨーク生れのジョアンナ(ロザンナ・アークェット)は、彼の不思議な雰囲気にひかれていく。
やがてエンゾはジャックをシチリアの競技会に連れ出すが、そこでのダイビングでジャックに
敗れてしまう。ジャックへの対抗心に燃えるエンゾは、無謀なダイビングに挑み、命を落として
しまう。その魂にひかれるかのように、ジャックもまた大海原に一人乗りだしていく。彼を愛し、
彼の子を宿したジョアンナを残して。やがて、人間の限界を超える深海に達したジャックの目の
前に一匹のイルカが現われ、彼を底知れぬ深淵へと連れ去っていくのだった。」(Movie Walker)
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