テネシー、わが最愛の地 That Evening Sun

●「テネシー、わが最愛の地 That Evening Sun」
2009 アメリカ Dogwood Entertainment.110min.
監督:スコット・ティームズ
出演:ハル・ホルブルック、レイ・マッキノン、ミア・ワシコウスカ、キャリー・プレストン他
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<評価:★★★★★★★☆☆☆>
<感想>
一人の老人の話。「グラン・トリノ」とどこか似ているところがある。どうってことない
ような映画なんだけど、不思議と心を惹かれる。日本未公開の良作を放映する
WOWOWのジャパン・プレミアにて鑑賞。このシリーズはなかなか見逃せない作品を
チョイスしてくる。

長年住み慣れた家に、愛した妻と暮らした家に他人が住んでいる。それが許せない
老人アブナー(ハル)。苦労して育て上げた長男は弁護士になって町を出て活躍を
しているが、老父がもう独りで農場をやっていけないだろうと、老人ホームに入れる。
アブナーも同意して入ったもののどうしてもホームに馴染めず、出てきてしまう。

家に戻ってみると、ロンゾという男の一家が住んでいた。許せないアブナーは
出て行け、というが、長男と既に契約が出来ていると譲らない。
アブナーは納屋に住んで、何とかロンゾ一家を追い出そうとする。
ある夜、ロンゾの娘がデートに出かけて帰ってきたところを、ロンゾがホースで
打ち付けて暴力を振るったため、アブナーは銃で威嚇する。
それ以降、ロンゾの、アブナーを憎む心は増大していくのだった。しかし、頑固オヤジの
アブナーはアブナーで絶対に譲らない。ロンゾの嫌がらせはエスカレートしていく。

そもそもロンゾは、木材の切り出し作業中、重い木材が足を直撃し、両足の骨を折り
障害者となってしまったのだった。彼はそれ以来酒浸りになってしまい、農場を借りた
のはいいが、種も植えていないありあさま。家の中はだらしない状態だ。
そんなロンゾに農場の経営が出来るはずがない、と確信するアブナーだったが、
法律は法律で、どうしようもない。しかし、弁護士の長男が奔走し、何とかロンゾ一家を
出ていかせる手続きが進んでいた。
この長男と父との会話も観ものだ。老父をなんとか良かれと思う方法で長生きしてもらいたい
長男と、自分の土地で死ぬまで農業をしていたい父、なかなか人の心は他人には判らない
もの。ましてや家族となると、感情のもつれはややこしくなるものだ。

ロンゾはアブナーの愛犬を吊るしクビにする、ロンゾはこの犬を剥製にして、倉庫の前に
置く、と一触即発の状態は続く。ロンゾは「納屋に火をつけて、お前ともども焼いてやるからな」
と脅す。これを聞いたアブナーは、近くに住む友達に「やつは納屋に火をつけると言っている。
もし私に何かあれば、ロンゾに脅かされていたと証言してくれ」と頼んで置いて、
なんと自分で納屋に火を付ける。しかし、その途中で倒れてしまい、あわやのところを
ロンゾに助けられるのだった。やけどを負ったが九死に一生を得たアブナーは、老人ホームに
入ることを承諾した。退院して行ってみると、ロンゾ一家は既にいなく、部屋は綺麗に片付け
られていたのだった。ロンゾの娘は、父を嫌って、母の援護で母の姉の家に行っていた。

いずれにせよ、この土地に住むことはもう無いのだろう。誰の所有になったのか・・・。
複雑な思いが去来するアブナーだった・・・。「キズナ」という言葉が無縁な描き方で終わっていく。

そんな作品。アブナーを演じるハル・ホルブルックがいい演技だ。というか彼の独演の
ような映画だから。愛した妻を自分の不注意から死なせてしまったという自責の念を抱え、
苦労して耕作してきた農地から得た金で長男を弁護士にしてきた、そんな思い出と人生が
詰まった土地と建物に対する愛情、執着。 老人ホームに入ってみればその間に自分の
家に気分が悪い他人が住んでいる、そりゃ意固地にもなるというもの。

ロンゾも根っからの悪人ではないのだが、最後にアブナーを救う、という一点は、ちょっと
納得が出来ない描き方だった。 ロンゾの娘パメラがアブナーになついて、作品にアクセント
を付けている。人生の黄昏時に事情の違いこそあれ、誰にでも回ってくる、世代の繋ぎ方の
難しさや切なさが描かれていて、年齢が近い私らには身につまされる作品でもある。
冒頭で、落とした50 年使った懐中時計を探すシーンがあるが、あの懐中時計こそ
アブナー老人の人生のメタファーにほかならない。
原題の「あの夕刻の陽」が全てを語っているようだった。

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by jazzyoba0083 | 2014-08-23 22:50 | 洋画=た行 | Trackback | Comments(0)