2014年 12月 14日
ゴーン・ガール Gone Girl
2014 アメリカ 20th Century Fox Film Co.,Regency Enterprises.149min.
監督:デヴィッド・フィンチャー 原作:ギリアン・フリン「ゴーン・ガール」
出演:ベン・アフレック、ロザムンド・パイク、ニール・パトリック・ハリス、タイラー・ペリー、キム・ディケンズ他
<★★★★★★★★☆☆>
前作、「ドラゴン・タトゥーの女」に続く、傑作ミステリーの誕生。まあ、原作があるので
ストーリーの面白さはそちら側にあるのだろうけど、これを映像化して一級のサスペンス
(ホラーという人もいるが、これも頷ける)に仕立てあげたフィンチャー、お見事である。
おそらく、来年のアカデミー賞でいろんな部門でノミネートされるのではないか。特に
主役であるロザムンド・パイクは主演女優賞ノミネート確実じゃないかな。瞳孔が開い
ちゃった「イカレ女」の恐怖を実に上手く演じていた。
これは是非映画館で愉しんでいただきたい!!
冒頭からエンディングまで長い時間を思わせない、ジェットコースターサスペンス!
ただし、冒頭から45分くらいまでは状況説明が続くセリフ劇なので、混乱しそうな人は
吹き替えで見るのも手かもしれない。私もちょっと字幕についていけず意味が混乱する
ところがあった。
《以下結末まで触れています。ご注意!》
それにしても先述のようにロザムンド・パイクの、普通の主婦のような奥様が実はとんでも
なく怖い(頭もいいんだな)有り様は、エンディングあたりでは殆ど鳥肌モノである。
本作は、女って怖いんだなあ、と思うかどうかで、女性と男性では感想が変わるかもしれない。
ただ、「女って怖い」という単純な帰結ではなく、「愛情は与えるものである」ことを
忘れてはいけないとうことは男女に差はないのだけれど。
主人公夫婦、ニック(アフレック)とエイミー(パイク)。外から見ると幸せそのもののような
カップルだが、その内側は5年目にして憎悪に溢れている。だいたい夫ニックが働かない、
妻の信託財産を頼りにしている、浮気をする、というダメっぷりなので、これに対し妻が
復讐に乗り出しても無理はないとは思う。思うが、その仕方が、常人の考えではないところに
この映画の面白さと恐ろしさがある。そこまでやるか!という徹底ぶりというかさすがにライター
という職業だけあり復讐のストーリーの作り方が半端じゃないのだ。
結婚5周年に、愛妻エイミーが突然疾走する。リビングのガラステーブルがめちゃめちゃに
割られ、台所には血糊を拭きとった後が・・。事件に巻き込まれたのか、旦那に殺されたのか。
ボランティアも加わっての捜索が始まるが、次第に夫ニックの不貞や不実、だらしなさが
明らかになっていく。警察で事情を聞かれるニック、奥さんの血液型も友人も知らないのだ。
その辺りからニックという人間が、エイミーに対して本当に愛を感じているのかどうか、が
分かってくる。
途中で、エイミーによる事件の全貌の解説があるのが分かりやすい。しかし、最後に恐怖の
結末が待ち構えていることは当然明らかにされない。エイミーは不実が夫に復習するため
自ら失踪し、自分で血を抜いて床にぶちまけて、タオルで拭き、リビングのテーブルを破壊し
隣人の妊婦からトイレを細工して尿を採取し妊娠を装い、偽の日記をつけ、DVを訴え、
その日記を半分焼けたようにしてわざとみつかりやすいように暖炉に押し込み・・・その他にも
様々な細工を仕掛けて、夫がエイミーを殺してどこかへ遺棄した、という筋書きを書いたのだ。
国中のテレビを中心とするゴシップ報道は過激になり、下世話な話題に熱狂していくのだった。
イエロージャーナリズムの無責任な態度、金になればOKな弁護士の態度、それらにも
フィンチャーの鋭い視線は飛ぶ。
ニックの弁護士、双子の妹、エイミーの両親(作家でもあり、大金持ちでもある)、地元警察の
刑事らも巻き込みつつ、エイミーの復讐劇は続く。しかし、計画も設計どおりにはいかないのだ。
髪を切り、染め、体重を増やして逃亡中に、キャンプ地で知り合う男女にまとまった金を持っている
ところを目撃され、強盗されてしまう。これが次のシナリオを狂わす。本来は、エイミーは
失踪を装い、さらにニックに殺された、という筋書きを作り、死刑があるミズリー州で逮捕させ、
法的に夫を抹殺するという計画だったのだ。しかし、金を奪われて以降、計画に狂いが生じ、
高校の同級生でかつて振った元カレ(金持ち)の元に転がり込む。彼の元でどうするつもりだったか
は分からないが、こんどはニック側の反撃により、テレビのニュースショーでニックが「自分が
如何にバカで、思慮浅く、エイミーの愛情を裏切っていたか」を告白、それを猛省し、今でも
エイミーを深く愛しているから、戻ってきてくれ」と呼びかける。これもころりとヤラれてしまうのが
女心か。ここからが更にエイミーの怖いところで、すっかり心を許し、自分の女になったと思い
こんだ同級生のデジーは、エイミーにベッドに引っ張り込まれ、セックス?と思っていた所
エイミーが事前に枕の下に隠してあった刃物でクビを掻っ切られて殺される。
ここからがエイミーの更に更に怖さは加速する。血だらけになったエイミーはその姿のままクルマを
運転し、マスコミがしこたま待ち構えているニックの元に帰ってきたのだ!何と、エイミーは、一連の
事件はストーカー癖が治らないデジーの仕業で、軟禁されていた彼の別荘から逃げてきた、という
ことにしたのだ。テレビのインタビューを観た彼女はニックの元に帰ろうとしたのだった。
しかし、ニックは、自分を陥れようとする「イカレ女」と別れ(もともと別れようとしていた)、別の
暮らしをしたいと考えいていた。エイミーは、ニックから「お前とは別れるんだよ!」と頭を
壁に打ち付けられて言われるが、彼の本心を悟った彼女は、精子バンクを使ってかつての
ニックの精子で妊娠し、彼に「子供が出来た」と迫るのだった。事件から何ヶ月後かのテレビの
インタビューに「親になります」というニックの表情はひきつっているように見えた。
もう逃げられないニック。彼に待っているのは、恐怖に支配されたエイミーとの暮らしであった・・・。
簡単に書くと面白さが伝わらないが、以上のほかにもいろいろとエイミーの怖さを示す
プロットが用意されている。しかし、恐怖に支配された子供のいる生活は、子供にとっても
不幸だと思うのだが、すでにネジが一本外れてしまったエイミーには関係のないことなの
かもしれない。エイミーはデジーを殺しているわけだし。「結婚というものはこういうものよ」と
つぶやくエイミーの言葉がそれをもの物語っている。加えて、冒頭でニックがエイミーの頭を
撫でながら「君は何を考えているのか頭を割ってその脳の中を観てみたい」というのだが、
ニックの、エイミーに対する理解不能な面が提示されいた。つまり一緒になるべきでなかった
二人が結婚してしまった不幸の恐怖がフィンチャー流に表現されていた、ということなのだろうか。
再び復讐に燃えているエイミーの姿で映画は終わるのだが、カタルシスがあるわけではないので
見終わって、さっぱりとするものではない。引っ掛かりが残ってしまう人も多かろう。
<ストーリー>
「ギリアン・フリンの同名ベストセラー・ミステリーを「ソーシャル・ネットワーク」「ドラゴン・タトゥーの
女」のデヴィッド・フィンチャー監督、「アルゴ」のベン・アフレック主演で映画化。
妻の突然の失踪をきっかけに、妻殺害の嫌疑で渦中の人となってしまう主人公の秘密と衝撃の
顛末を描く。共演にロザムンド・パイク、ニール・パトリック・ハリス。
ミズーリ州の田舎町。結婚して5年目になるニックとエイミーは、誰もが羨む理想のカップル
だった。ところが結婚記念日に、エイミーは突然姿を消してしまう。部屋には争った形跡があり、
大量の血液が拭き取られていることも判明する。警察は他殺と失踪の両面から捜査を開始する。
美しい人妻の謎めいた失踪事件は茶の間の注目を集め、小さな町に全米中からマスコミが殺到
する。すると、次第にニックの不可解な言動が明るみとなり、いつしか疑惑と批判の矢面に立た
されていくニックだったが…。」(allcinema)
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