フォックスキャッチャー Foxcatcher

●「フォックスキャッチャー Foxcatcher」
2014 アメリカ Annapurna Pictures,Likely Story,Media Rights Capital.135min.
監督:ベネット・ミラー
出演:スティーヴ・カレル、チャニング・テイタム、マーク・ラファロ、シエナ・ミラー、ヴァネッサ・レッドグレーブ他
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<評価:★★★★★★★☆☆☆>
<感想>
「実話」「殺人」という以外、予備知識を持たずに鑑賞。今年のアカデミーに主演男優、監督
脚本など主要部門にノミネートされている上、すでにカンヌ映画祭で監督賞も受賞している
作品であるため、22日のオスカー発表前に観ておくべきかな、とシネコンに急いだ。
封切り直後ということもあったのか、小さい小屋なのに四分の一ほどの入りだった。

さて、本作は1996年にアメリカで実際に起きた大富豪デュポン氏による、レスリング金メダリスト
銃殺事件を描いたドラマである。私はこの事件を寡聞にして知らなかった。
物語は事実に基づいて淡々と進むし、レスリングというスポーツが地味であるので、映画全体が
平板な印象を受けた。

この映画を観て何を感じるだろうか。退屈な映画だ、と思う人もいるだろうし、そうでない
印象を持つ人もいるだろう。主演のデュポン氏を演じたスティーヴ・カレルはお馬鹿喜劇の
イメージが強い俳優だが、ここでは、(裁判では『統合失調症』と判断される)精神を持つ
キャラクターを終始抑えた縁起の中で、その恐怖を上手く演じていたと思う。が、事前に
オスカー候補とのバイアスがかかってしまっていたので、監督賞、脚本賞などとともに割り引いて
感想を言わなくてはならないだろう。

映画を見終わって色々と考えるのだが、カーネギー、メロンと並ぶアメリカの三大財閥にも
数えられる世界屈指の化学メーカー、デュポンの相続人である、ジョン・デュポンの、精神的に
壊れていく様(確かに恐ろしい。自分のお金で整えた立派なレスリング練習場で短銃を
ぶっ放したり、異常が進行していく。これが最後にはよく分からない理由で、デイヴ・シュルツ
(マーク・ラファロ)を射殺するのだが)は、尋常ではなく、その心の闇には何があるのか、
サラブレッドの生産に熱を上げ、レスリングを嫌う母との相克、マザーコンプレックスから
来るものか、お金持ち特有の、自分の思い通りに行かないと、その存在すら許さないという
心の狭小さを示したのか。一方で、兄弟で五輪金メダリストでありながら、デュポンにより
人生を狂わされてしまうシュルツ兄弟の悲劇に思いを致すべきであろうか。

腐るほどお金はあり、著名な鳥類学者、切手収集家、慈善家であり、自身も近代五種に
興味を持ち、歳を取ってからレスリングの試合に自ら出るようにもなる。母は広大な牧場で
サラブレッドを生産することに夢中で、息子の趣味を嫌っている。息子は逆に母の趣味を
嫌っている。作品中、母の死を受けて、厩舎から一斉に馬を解き放つジョンの姿は、
母に縛られ続けたことからの解放のメタファーと読み取れる。父は2歳の時に離婚し、
母に育てられたという点も、彼の性格形成に大きな影を落としたであろう。
ジョンは結婚にも失敗していて、その破綻の原因も、すでに彼の精神異常を示す点が
あった。

だが、上記の趣味を見ても粘着質っぽい制作のジョン。終始笑わない姿が更に恐怖を
呼ぶ。度を超えた金持ちで、彼に目を付けられたばかりに、人生をメチャクチャにされた
シュルツ兄弟。兄を籠絡するため、弟を大金でスカウト、コカインでスポイルする一方、
兄をチームリーダーとして迎え入れ、ソウル五輪に臨ませる。目指すところはもちろん
金メダル。特に弟のマークに対する期待は大きかった。しかしマークは金メダルを取る
ことは出来なかった。「必ず金メダルを取りますよ」と言った兄に対し、ジョンの態度は
おかしいことななかったが、ある日、拳銃を持ち出し、デイヴの家に行き、奥さんの
目の前で無表情のまま、無言で銃を発射し、殺害する。「なんで?」 自分の希望が
入れられなかったからか。(映画では表現されないが、彼はこの後自宅に立てこもり、
2日めに投降)裁判の結果、「統合失調症」と診断され、病院刑務所に入り、2009年に
獄死している。デイヴの弟、マークはプロレスに転向した。現在は教室を主宰している
らしい。

アメリカには金メダリストは沢山いるだろうし、地味なレスリングではそれだけで世の中で
成功するのは簡単ではないだろう。もがいていたシュルツ兄弟に前途の扉を開いたのは
ジョンであり、また閉ざしたのもジョンであった。その2つの人生の(大きく言えば3つの)
闇の部分を描き切ったのが本作、ということでいいのだろうか。
「カポーティ」「マネー・ボール」とも実在する人物を活写してきたベネット・ミラーは本作を
以って、描いた作品中の人物をして何を語ろうとしたのか。それが私には今ひとつ見えない
映画であったのだ。そうした点が分からなければカレルの演技がどんなに素晴らしい、と
言われても、具体的な説明が出来ないのである。
「フォックスキャッチャー」とは母の死後、父が所有していたサラブレッドの名前で、彼は
広大な牧場に「フォックスキャッチャー牧場」と名づけた。この名前が、自分の主宰する
レスリングチームの名前にしたわけだが、どこか、「狐を捉える人(動物・道具)」という
意味が、ジョンとシュルツ兄弟の関係を綴っているようで興味深い。

さて、本作、封切られたばかりであるが、そう長い間上映されているとは思えない。
見に行くなら早めに。是非、事前にジョン・デュポン事件の詳細をあまり詳しく予習せずに
ご覧頂き観た人が何を教えてもらいたいものです。
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<ストーリー>
「カポーティ」「マネーボール」のベネット・ミラー監督が、実在の殺人事件を題材に、
レスリング五輪金メダリストとそのパトロンとなった大富豪が悲劇の結末を迎えるまでの
心の軌跡を描き出した戦慄の実録人間ドラマ。
主演は、その鬼気迫るシリアス演技で新境地を見せ、高い評価を受けた「40歳の童貞男」
「リトル・ミス・サンシャイン」のスティーヴ・カレル。
共演にチャニング・テイタム、マーク・ラファロ。
 
 1984年のロサンジェルス・オリンピックで金メダルを獲得したレスリング選手、マーク・シュル。
しかし、マイナー競技ゆえに生活は相も変わらず苦しいまま。同じ金メダリストでマークが
頼りにする兄のデイヴも、妻子ができて以前のように付きっきりというわけにはいかない。
いまや、次のソウル・オリンピックを目指すどころか、競技を続けるのもままならなかった。

そんな時、アメリカを代表する大財閥デュポン家の御曹司ジョン・デュポンから、彼が結成した
レスリング・チーム“フォックスキャッチャー”への参加をオファーされる。この願ってもない申し
出を快諾するマーク。最先端トレーニング施設を有するデュポンの大邸宅に移り住み、ようやく
トレーニングに集中できる理想的な環境を手に入れたかに思われたマークだったが…。」

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by jazzyoba0083 | 2015-02-15 14:30 | 洋画=は行 | Trackback | Comments(0)