小さいおうち

●「小さいおうち」
2014 日本 松竹映画 「小さいおうち」製作委員会(テレビ朝日系テレビ局他) 136分
監督・共同脚本:山田洋次  音楽:久石譲 原作:中島京子著「小さいおうち」(文藝春秋社刊)
出演:松たか子、黒木華、片岡孝太郎、吉岡秀隆・妻夫木聡、倍賞千恵子、橋爪功、吉行和子他
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<評価:★★★★★★★★☆☆>
<感想>
 時々上質な邦画を観るとホッとする。もとより小津は好きな監督さんで、彼をリスペクト
する山田洋次作品を全部観ているわけでもないのだが、本作では、役者に付けるセリフ
回しなんかもどんどん小津っぽくなっていくような気がする。
原作は未読だが、原作に近いとはいえ、肝心な部分が描かれていなかったりするようだが、
山田洋次流の「脚色」は、それはそれでありかな、と思えた。
WOWOWで放映されたものを録画しておいて鑑賞したら、翌日地上波で放送されていた。

全部説明してしまうことを嫌った小津をリスペクトする山田監督の、「観念的」部分を補った
本作は「映画版・小さいおうち」として成功しているといえるのではないか。
大きな部分で言えば、「時子は後妻であり、息子は義理の関係」、「タキは鎌倉で時子と
板倉がデートしているのを目撃している」などだそうだ。映画ではそこはかとなく伝わる
程度で、中嶋朋子の存在でトピックス化しているレズビアンの関係なども、原作のほうが
濃くでているのだそうだ。タキが小児麻痺にかかったおぼっちゃまの体を長い間マッサージに
通ったり自宅でしたりする横で母である時子は相変わらずのノンシャランに自分の足を
マッサージさせたりするのも原作を読んでいる人は深い部分を読み取ることができるのかもし
れない。また逢瀬の証明となる帯のラインの左右入れ替わりは映像ならではの強みだ。

タキが時子の手紙を板倉に渡さなかった謎は、原作と同じでそこがこの映画の要になるのだが、
タキと大好きな奥様の、相互愛と恋敵、どちらだったからだろうか、というのは観客の判断に
任せている。そこが映画にいい余韻を与えていることも確かだろう。

また山田作品は、本作の特徴である、市民目線から観た反戦的なムードを今回も的確に
演出していた。「声の大きい威勢のいいやつがのさばる」と「英国を応援する日本はアメリカと
戦わない」などは当時の山の手の一般市民感情としてあったのだろう。
画面から伝わる強烈な昭和感、といったものは、細部に拘ったプロダクションデザインの
出来の良さがある。窓越しのショットが微妙に歪むのは当時のガラスを知っている人には
ドツボだろうし、旦那様の着替えや風習なども、山田監督の強い拘りを感じる。

さて、出演者である。松たか子は、ノンシャランな独特な山の手夫人を好演、これが一番
目立った。ベルリン国際映画祭で「銀熊賞」を獲った黒木華は、片方での本作の主人公であるが
テレビで観ないので、新鮮でありまた新人とは思えない演技で映画を支えた。この二人の
顔の並びを見ていると昭和10年代の東京山の手の市民という設定がすごくしっくりくるのだ。
片岡孝夫、吉岡秀隆、倍賞千恵子らお馴染みの「山田組」のキャスト陣も、安定した演技で
本作の出来の良さの大きな部分を負っている。

私がなぜ洋画を好んでしまうのか、ということを今回つくづく考えたのだが、ハリウッドの場合
テレビと映画とは出演者が基本的にはダブらないので、映画の中に日常を感じづらいと
思うのだ。一方日本はテレビも映画も歌舞伎も無く俳優が出演するので、映画に非日常を
期待するほうとしてはどうしても、馴染んだ顔がスクリーンにいると、それを感じづらいのだと
思う。「ポテチ」での演技で注目した(本作にも出ている)木村文乃とか本作の黒木華らは
テレビと距離を置いてほしいなあ。まあギャラが安いから二股かけないと稼げないという
ハリウッドにはない理屈が邦画にはあるのは理解するとしてもだ・・。
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<ストーリー>
「すべては、数冊の大学ノートから始まった。健史(妻夫木聡)の大伯母で、先日亡くなった
ばかりのタキ(倍賞千恵子)が遺した“自叙伝”だ。大学生の健史は、一人暮らしのタキの
身の回りの世話に来るたびに、執筆途中の原稿を読むことを楽しみにしていた。
 そこには、まるで知らない国のような、昭和初期の日本が描かれていた。物語は、タキが
山形から東京へ奉公に出るところから始まる。

小説家の屋敷に1年ほど仕えた後、タキ(黒木華)は東京郊外の平井家に奉公することになる。
赤い三角屋根の小さいけれどモダンな家には、玩具会社に勤める雅樹(片岡孝太郎)と
妻の時子(松たか子)、まだ幼い一人息子の恭一が暮らしていた。
 初めて会った瞬間から、若く美しくお洒落な時子に、強い憧れを抱くタキ。時子は気さくで
優しく、東京の言葉やマナーなど何でも教えてくれた。時子に尽くすことが何よりもうれしい
タキは、恭一が小児麻痺で倒れた時も、毎日おんぶして、日本橋の病院へ通った。

新年、正月の準備が整った平井家に雅樹の会社の社長と社員たちが集まり、日中戦争と
金儲けの話で盛り上がる。中に一人だけ、話の輪に入れない男がいた。デザイン部門の
新入社員、板倉正治(吉岡秀隆)だ。
 上司から逃げ出した板倉は、恭一の部屋で眠ってしまう。客が帰り、雅樹も寝た後、
ようやく目覚めた板倉は、タキの作った雑煮を食べながら、時子と映画や音楽の話で
意気投合する。その日以降、板倉はレコードを聴きに平井家を訪ねては、時子と楽しそうに
話していくのだった。

ある時、大きな台風が関東地方を襲った。藤沢に出張した雅樹は帰って来ない。不安に
震える時子とタキのもとを板倉が訪ね、激しい風雨も気にせず雨戸を打ちつけてくれる。
やがて一帯は停電となり、板倉は泊まっていくことになる。真夜中過ぎ、玄関の扉の音に
目が覚めた時子は、ソファで眠る板倉を揺り起こす。下駄箱で扉を押さえ、暗闇のなか
寄り添う二人。その時、雷の光が、重なる二人の影を一瞬だけ照らし出す。

次第に、時子と板倉の“密会”の噂が広がり始める。贅沢を戒める国の政策が、人々の目を
厳しくしていた。戦争は激化し、ついに板倉にも召集令状が届き、板倉は平井家に別れを
告げにやって来る。翌朝、ただならぬ様子で出かけようとする時子を見て、板倉に会いに
行くのだと直感したタキ。迷いに迷った末に、タキは時子を押しとどめ、ある一つの重大な
提案をもちかける… (松竹HPより)

山田洋次監督は海坂藩シリーズが好きなのだが、本作も私の好みの作品群に入ることに
なりそうだ。喜劇とサスペンス的心理劇の畑で育ってきた監督によるエンタテインメントとして
成功している作品といえる。
ちなみに、本作の元となっり映画の中でも、木村文乃が妻夫木にプレゼントする童話
「ちいさいおうち」はアメリカの童話作家バージニア・リー・バートンにより1943年に書かれ
私も幼いころ両親に買い与えられ、何度も読んだ童話の大名作。私にとってはこれと
「おさるのジョージ」は不滅の名作童話だ。

この映画の詳細はこちらまで。
by jazzyoba0083 | 2015-02-28 23:20 | 邦画・新作 | Comments(0)