鑑定士と顔のない依頼人 The Best Offer

●「鑑定士と顔のない依頼人 The Best Offer」
2013 イタリア Paco Cinematografica 131min.
監督・脚本:ジュゼッペ・トルナトーレ
出演:ジェフリーラッシュ、シルヴィア・フークス、ジム‥スタージェス、ドナルド・サザーランド他
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<評価:★★★★★★★★☆☆>
<感想>
良く練れた、隠喩、暗喩、伏線に満ちたストーリー、これに加えてジェフリー・ラッシュの
快演(怪演)。面白い映画であることは確かだ。しかし、後半の大どんでん返し(大ちゃぶ台
返しといってもいい)の程度があまりにもあまりなので、割引材料とした。

結論の捉え方も、ネットでいろんな人の意見が拾えるが、どれが正解なのか、また
ハッピーエンドなのか、バッドエンドなのか、それは観客に投げかけられているのだろう。
でも、私が捉えたような結末なら、カタルシスのない(救いがない)作品じゃないか、と
言わざるを得ない。

実物の女を愛せない、潔癖症の世界的に高名な老鑑定士オールドマンと、彼に
両親が残した家具や絵画などを鑑定して欲しいと依頼してくるクレアという女性。
オールドマンの主宰するオークションはカッコいい。その知識の高さと捌きの上手さ、
ラッシュは経験があるのではないか、と思えるくらいの迫力だ。
その客の中に、ビリー(サザーランド)という画家崩れの男が居た。彼は、オールドマンが
せりに掛けられる品にある言葉を付けるのを合図に、競りに参加し、オールドマンと組んで
不正に競り落としていたのだった。オールドマンは自分のものにしたい、と思った絵画を
ビリーに競り落とさせ、謝礼を払っていたのだ。
ビリーはオールドマンの手によって、画家の道を諦めざるを得ず(才能が無いと言われ)
オールドマンと組んで不正を働いていたのだ。

オールドマンが収集し、秘密の部屋の壁一面に飾ってあったのは、女性の肖像画ばかり。
彼はこれらの画を愛することで、実物の女性を愛する代償行為としていたのだ。

そんなオールドマンの高名な鑑定を聞いた、という女性は色々と理由を付けて正体を
表さず、ヴィラの骨董品の鑑定を依頼する。時として失礼な態度をとってオールドマンを
怒らせたり、後で思えば芸が細かい。オールドマンは結局鑑定を引受け目録を作ることに
なるのだが、どうしても実物を一目見たいと、ある日、帰ったふりをして部屋に隠れて
クレアを目撃した。大した美女で、14年だったか、家の外に出ず、両親にも誰にも
人に会っていないという。最後に外出したのはウィーンの「ナイトアンドデイ」というカフェ
だったという。この辺も芸が細かい。

オールドマンとクレアは次第に壁越しに話をするようになり、オールドマンは遂に人間の
女性に恋してしまうのだった。生身の女を好きになったことのないオールドマンは、機械
修理のロバートに相談するのだった。ロバートはあれこれと指示をしてやる。彼は
クレアの家から出てくるオートマタ(自動人形)の部品を貰い、復元に当っていた。

そうこうするうちに、再び隠れていたところ、電話を落としてしまい、彼女にパニックを
起こさせてしまい、あれは自分だったと白状したのだった。次第に二人の関係は
深まっていく。ある雨の夜、彼女の家に向かう途中、暴漢に襲われ大怪我を負う。
それを窓から観ていたクレアは、外に出たことがないのだが、勇気を振るって外へ出て
彼を救うのだった。

これを機にクレアは外にでるようになり、オールドマンは彼女に服や宝石を買い与え
ロバートやそのガールフレンドと食事を外で取るまでになった。
クレアとオールドマンの中はどんどんと深まっていき、遂に彼は鑑定士を引退し
彼女との生活に全てを打ち込もうと決意、最後のオークションを見事に取り仕切り、
家に帰ってくると、クレアの姿がない。そして秘密の部屋に行ってみると、壁中の絵画は
全部無くなっていて、クレアのヴィラにあった、「母の画よ」とクレアが言っていた
女性の肖像画が置いてあって、その裏には、ビリー(サザランド)のサイン入で、
皮肉な感謝の言葉が書いてあった。呆然自失のオールドマン。ロバートの店に行って
見るとそこはもぬけの殻。

オールドマンはヴィラの前にある喫茶店でいつも窓辺に座っている小人の女性に
クレアのことを聞いてみた。すると、驚いたことに、クレアと名乗る女は270回だか、この
ヴィラに出入りしているという。広場恐怖症の女とはウソだったのだ。荷物の出入りも
複数回あったという。小人の女は私はクレアよ、あのヴィラは私のもの。映画関係者が
かしてくれというので貸した。エレベータを付けた時の作業員はハンサムで優しかったわ。
(ロバートのことだ)ともいうのだ。この件はネタ明かしのパートだな。

老人施設、車いすに乗ってヒゲも伸び放題のオールドマンの元に、かつて鑑定士の頃の
秘書がやって来て溜まっていた手紙を置いていった。彼は夢想するのだった、彼女と
結ばれた日々を。彼はオーストリアの例のカフェに行ってみる。そこは時計や歯車だらけの
店で、座っているとボーイがやってきて、お一人か、と訊く。オールドマンは答える。
「いや、人を待っているんだ」と・・・。

さてさて、これはミステリアスな恋愛映画ということなのか。ビリーが、長い年月を掛けて
機械工作士のロバートやその恋人、ヴィラを本物クレアから借り、ニセクレアを配置し、
使用人を置き、オールドマンのせいで画家になりそこねた復讐を計画したわけだ。
そしてオールドマンの命ともいうべき絵画を全部奪い去っていった。本物のクレアだけが
カフェの窓からずっと観ていたわけだ。

しかし、オールドマンは真剣にクレアを愛した。しかしその愛は裏切られた。骨董品の
真贋を見分ける高名な鑑定士も、人間のウソは見破れなかったということか。いや
「偽物の中にも真実がある」と語ってもいたから、別の解があるのか。

疑問 その1=ビリーが仕込んだ大芝居とはいえ、クレアもオールドマンを愛してしまった
のではないか。であるから実はラストシーンはクレアとのベッドシーンであり、ナイトアンドデイ
での「彼女を待っている」姿ではないのか?(私にはそうは取れなかったが)
その2=雨の夜に3人の暴漢に襲われたのだが、あれは使用人とビリーとロバートか?
外に出てみようとするクレアの迫真の演技は、誰も観ていないのならアレだけのことを
しなくてもいいのではないか。
その3=ビリーはオールドマンの多数の絵画をどうやって盗んだのか。時間も手間もかかる
だろうし、さらにどうやって売るのか。(売るつもりもないかもしれないが)一味への謝礼は?
あの秘密の部屋にどうやって入ったのか。クレアが手引きしたとしても、目隠しして入った
はず。最新式のロックが掛けてあったはずだが。
その4=エンディングは回転する球体の中に入って転がるオールドマンが最新なのか。
つまり施設にいる彼が最新の姿か。いや、カフェでクレアを待つオールドマンが最新の姿か。
私は施設にいる廃人同然のオールドマンが最新の姿であり、あとは回想と妄想であろうと
思うのだが。 
その5=オートマタの部品をあちこちに散らしておいて、ロバートがオールドマンから受け取って
組み立てて復元し、画が無くなった部屋に持ち込んで、セリフを言わせるために仕組んだことか。

以上のような伏線やメタファーの数々は見る人をミスリードし、俄に謎解きをさせない世界に
迷い込ませる監督の一流の手法というべきなのか。さすが「ニュー・シネマ・パラダイス」の
監督だけのことはある、と唸るところなのか?手の込んだ映画ではあるが、何かどこか
スッキリとしない部分が残ってしまったのだ。
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<ストーリー>
「ヴァージル・オールドマン(ジェフリー・ラッシュ)は、世界中のオークションで活躍する
一流オークショニア。早くに親を亡くし、結婚もせず、友人もいない人間嫌いの彼の
楽しみは、自宅の隠し部屋の壁一面に飾った女性の肖像画鑑賞だった。
自分が仕切るオークションで、パートナーのビリー(ドナルド・サザーランド)が名画を
格安で落札するよう仕向け、自分のコレクションに加えていたのだ。

そんな彼の元に、クレア・イベットソン(シルヴィア・ホークス)と名乗る女性から電話が入る。
1年前に亡くなった両親が遺した家具や絵画を鑑定してほしいという依頼だった。
指示された邸宅に向かったものの、彼女は姿を見せず、後日再び訪問したところ、使用人の
フレッド(フィリップ・ジャクソン)が現れる。
やむなく1人で家の中を見て回ったヴァージルは、地下室の床に転がった何かの部品に
気付き、密かに持ち帰る。だが、鑑定が進んでもクレアは一向に姿を見せない。
フレッドによると、歳は27だが、奇妙な病気を患っており、11年の勤務中に一度も会った
ことがないとの事。やがて、修理屋のロバート(ジム・スタージェス)に調査を依頼していた
謎の部品が、18世紀に作られた機械人形の一部である可能性が出てきた。
数日後、“広場恐怖症”と呼ばれる病気により、“15歳から外へ出ていない”と告白した
クレアに同情したヴァージルは、壁越しのやり取りに同意する。自由な出入りを許され、
彼女が屋敷の隠し部屋で暮らしていることに気付くと、影に隠れて彼女の姿を目撃。
美しいその素顔に、恋に落ちてしまう。再度の覗き見を彼女に見つかった時、ヴァージルは
全てを打ち明け、遂に対面を果たす。互いに心を許してゆく2人。

ところが、外出に強い拒絶反応を示していたクレアが、ある日忽然と姿を消す。果たして、
鑑定依頼の本当の目的は?そして、クレアの過去に隠された秘密とは?謎はまだ、
入り口に過ぎなかった……。」(Movie Walker)

この映画の詳細はこちらまで。
Commented by 犬飼 at 2015-06-26 08:49 x
昨夜この作品を見て、大庭さんがどんな感想を持っていたのかが知りたくて覗いてみました。
僕的にはあのどんでん返しさえなければ、いい作品だと思うのですが、あのどんでん返しですべてを台無された気分です。
あのまま二人が幸せに暮らした方がよほど落ち着いていて、いいイメージのまま終えられてと・・・
あくまでも私の私見ですけど(笑

でも大庭さんもわりと同じ様な感想をお持ちだったので、なんとなくすっきりしました。
すみません、こんなところまで押しかけて!
でも誰かに聞いて欲しかった、というか愚痴りたかった。
Commented by jazzyoba0083 at 2015-06-29 10:35
犬飼君、レスありがとう。ブログにも書いたとおり、脚本が「策に溺れた」感があるよね。仕組みが多すぎで、結局、釈然としないまま映画は終わるという・・・。素材が面白いので「佳作」になり損ねたという感じかな。またの書き込みをお待ちしてますよ!返信が遅れたことをお詫びします。
by jazzyoba0083 | 2015-04-03 23:20 | 洋画=か行 | Trackback | Comments(2)