さよなら、アドルフ Lore

●「さよなら、アドルフ Lore」
2012 オーストラリア・ドイツ・イギリス Edgecity Films.109min.
監督:ケイト・ショートランド  原作:レイチェル・シーファー「暗闇の中で」
出演:ザスキア・ローゼンダール、カイ・マリーナ、レーネ・トゥレプス、ウィルシーナ・ラルディ他
さよなら、アドルフ Lore_e0040938_1125420.jpg

<評価:★★★★★★★☆☆☆>
<感想>
ナチス・ドイツによる迫害の映画は沢山あるのだが、敗戦国ドイツの、しかもナチス軍人を
父に持つ子どもたちの終戦直後を描いた作品というものを初めて観た。それだけでも
価値が有った思う。全編、粛々と物語は進むが、静かな中にも厳しさが上手く埋め込まれて
いる。子供心にも、両親の教育あり、ナチスの思想を叩きこまれ、ユーゲントの歌を勇ましく
歌う兄弟たちに、総統の死のニュースがもたらされるところから映画が始まる。

ナチスの幹部だった父親はもちろん、母親も拘束され、母に言われて、生まれて間もない
赤子と幼い兄弟3人を伴って、ハンブルグの祖母の家までの子供らだけの長い旅路が
スタートする。これまで特権階級の中で何不自由なく暮らしていた子供らは、農民らの
白い目の中を必死に歩く。そんな中で知り合ったというか、むこうから近づいてきたのが
ユダヤ人の青年トーマスだった。

母親から託された貴金属を食料と換えて、祖母の家を目指すのだが、すでにドイツは
共産国と自由主義陣営に分断されていて、森のなかで小さい弟、ギュンターが敵と
間違えられて射殺されてしまう。

ローレは長女として、兄弟らを叱咤激励し、食料を集め、苦難をなめ尽くして祖母の家を
目指すが、途中からついてきたトーマスが何くれと力を貸す。彼の出自は明らかにされない。
兄弟たちがユダヤだからといって戸惑いはするが、毛嫌いをするわけでもなかった。
ナチスドイツにひどい目にあって来たはずのトーマスも何故かドイツ人の子供らにやさしい。
その理由は明らかにされない。このあたりが隔靴掻痒な感じだった。兄弟が多いのだから
中にはもっとナチスに凝り固まった子供を配するとか、トーマスの出自に何かしらドイツ人を
助けなければ、という理由が明示されるとかしたほうが分りやすかったのではないか。

トーマスは実名ではなく、亡くなったトーマスという人物の身分証明書を持っていたのだが、
その経緯も、「死んだユダヤ人から奪った」としか説明されない。

原作未読だが、原作本ではもっと丁寧な説明がなされていたのではないか。作品全体を
流れる思想というか主張は理解できるのだが、また子供らに取って苛烈な旅路であり、
戦争という憎しみの装置に振り回される彼らの悲劇も伝わるのだが、今ひとつひねりというか
突っ込みが欲しかった所。全体に思索的な映像表現となっていて、内なる心を表現しようと
した観念的な作品に仕上げたかったのかもしれない。全てを説明せずに。小津映画みたいだ。

結局、子供らはトーマスとは別れて、祖母の家に無事に到着するが、祖母は相変わらず総統を
信じている。そんな大人たちを見ていて、ラストシーンでは母が大事にしていた鹿の置物を
足で踏みつけ壊すローレだった。彼女は、嘘で塗り固められた大人の世界に幻滅したのだろうと
個人的には感じたし、その行為によりローレは大人になった、ともいえると感じたのだった。
旅路の途中で、連合軍が張り出したのであろう、ユダヤ人虐殺の写真が掲示されていて、
「あなたがたにもこの責任がある」とか書かれていた。ローレはそれを見て、ヒットラーの
景気のいい言葉の裏にあるもの、信じていた父母の裏にあったものを見てしまったのだ。
これと同じような状況は、戦後の日本にも状況の違いはあれど、多数あったに違いない。
さよなら、アドルフ Lore_e0040938_11274291.png

<ストーリー>
「レイチェル・シーファーの小説『暗闇のなかで』を映画化。終戦後のドイツを舞台に、ナチ
親衛隊高官の子供たちが直面する過酷な運命を描く人間ドラマ。
監督・脚本は、「15歳のダイアリー」のケイト・ショートランド。
出演は、新星ザスキア・ローゼンダール。2013年アカデミー賞外国語映画賞オーストラリア
代表作品。

1945年春、敗戦後のドイツ。ナチ親衛隊の高官だった父と母が、連合軍に拘束される。
置き去りにされた14歳の少女ローレ(ザスキア・ローゼンダール)は、幼い妹、弟たちを連れ、
900キロ離れた祖母の家を目指す。
終戦を境に何もかも変わってしまったドイツでは、ナチの身内に対する世間の風当たりは
冷たく、たとえ子供であっても救いの手を差し伸べる者はいなかった。
そんな中ローレは、ナチがユダヤ人にしてきた残虐行為を初めて知る。さらに、ローレたちを
助けてくれるユダヤ人青年トーマス(カイ・マリーナ)が旅に加わり、ローレがこれまで信じて
きた価値観やアイデンティティが揺らぎ始める……。」(Movie Walker)

この映画の詳細はこちらまで。
by jazzyoba0083 | 2015-04-27 23:15 | 洋画=さ行 | Trackback | Comments(0)