セッション  Whiplash

●「セッション Whiplash」
2014 アメリカ Bold Films,Blumhouse Productions,Right of Way Films.107min.
監督・脚本:ディミアン・チャゼル
出演:マイルズ・テラー、J・K・シモンズ、ポール・ライザー、メリッサ・ブノア、オースティン・ストウェル他
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<2014年度アカデミー賞助演男優賞、編集賞、音響賞(調整)受賞作品>

<評価:★★★★★★★★★☆>
<感想>
<結末まで書かれていますのでご注意ください>
大学時代にジャズドラムをいじった経験のある身としては、大変期待もしたし、楽しみ
だった。結構人が入っていたなあ。ヒットしてるんでしょう。
で、本作、107分緊張しっぱなしで、凄い映画だった。良かった。でもジャズドラムの
経験者から見ると、J・K・シモンズ演じる鬼教師が、主人公アンドリューに教えようとして
いることは、ジャズの真髄ではないんじゃないか、と思えた。確かに狂いのないテンポ、猛烈な
早打ちを的確にという技術も、裏打ちがあったほうがいいのだが、ジャズという音楽は、
それだけではないのだな。「間」というか「楽器間の呼吸の阿吽」とでもいうような非常に人間臭い
ま、科学的に言うと「1/f」のゆらぎとでもいうような、えも言えぬ感覚こそ、スィングなんだ。

作品の中で教師フレッチャーがチャーリー・パーカーとドラムのジョー・ジョーンズの逸話を
披露する。つまり下手くそなパーカーのサックスに怒って、ジョーンズがシンバルを投げつけた、
というもの。パーカーはこれを恥じて、その日から猛烈な練習を重ね、ビバップの腕を磨き
「バード」が誕生した、という筋書きだ。さらにフレッチャーは言う、今の世の中「グッド・ジョブ」
という言葉がジャズをダメにしていいる、つまり厳しい批判がなければ、ダメなものはダメ、と
いう厳しい風潮がない現状では「ジャズは死ぬわけだ」とも批判する。だから自分は、徹底的に
教え子を追い込んで追い込んで、素質を出させるのだ、と。

彼の教え方は、もう「モラハラ」「アカハラ」「パワハラ」の世界そのもの。あの教え方が全能だ、
とは誰も思わないだろう。事実、作品中でも、フレッチャーが期待したサックス奏者が彼の
指導の元で「うつ病」を発し、自殺してしまう。そこまで追い込む必要があるのか。
個性(性格)を見抜く才能もまた教師には必要なのだ。

的確な猛烈テンポなら機械にヤラせればいいわけでね。閑話休題。それらを除いても
映画の出来としてはいい。これが28歳の監督作品というから驚きだ。しかもオスカーで
3部門を獲っちゃうという。特に編集にはビートに合わせたリズム感たっぷりのカット、
最後の9分強で繰り広げられるアンドリューのドラムソロのシーンでのワンカメぶん回し
ショットなど、若い才能が溢れている感じで、とても良かった。

アンドリューは、大事な演奏会に行く途中、バスがパンクするというアクシデントに会い、
レンタカーを借りて会場に駆けつけるものの、今度はバスにスティックを忘れてきてしまい、
また取りに戻る。あまりに急ぎすぎて交差点でトラックと激突、クルマは横転するが、
血だらけのアンドリューは、這い出して、会場に入り、血まみれで演奏、そして途中で
演奏が出来なくなってしまう。フレッシャーに言葉を極めて罵られ、ついに演奏会場の
舞台の上で、フレッチャーと取っ組み合いとなる。これが原因で彼は音楽院を退学となる。
しかし、学校のヒアリングで、アンドリューは、フレッチャーの「圧迫するような指導があったか」
という質問にはクビを横に振るのだった。例の自殺事件が、誰かの密告で学校にバレて
フレッチャーも学校をやめることになった。

ドラムを止めたアンドリューは、コロムビア大学に挑戦しようとするが、ある日街を歩いていると
ジャズクラブの看板にフレッチャーの名前を見つけ、入ってみる。そこにはジャズピアノを弾く
彼の姿があった。その後の話をする二人だったが、フレッチャーが学校を去った経緯も聞かされた。
で、フレッチャーから、JVCジャズフェスティバルに出るのだが、ドラムが今ひとつ。かつて
アンドリューとやった曲をやるから、キミがいてくれるとこころ強いと言われる。
アンドリューは仕舞ってあったドラムセットを引っ張りだして、再びドラムを叩くことを決意する。

そして演奏会の当日。レコード会社のスカウトも来ている会場で、いい演奏をすればプロの
道もひらけるかもしれない。そんな会場で、フレッチャーとその楽団の演奏が始まる。
しかし、指揮に登場したフレッチャーは、アンドリューに「タレこんだのはお前だな」と、言葉を
掛け、しかも一曲目の曲目に全く知らない曲の名前を挙げた。楽譜があればなんとかなる
のだが、彼の手元には楽譜が無い。もちろん演奏はメチャクチャ。呆然とする客席。

「終わったな」フレッチャーにそう言われ、アンドリューは納得行かないまま席を蹴るのだが、
思い直し再び席に戻り、フレッチャーの指示を待たず、ドラムソロを始める。「キャラバン」だ。
楽団も、仕方なくついてくる。猛烈なドラムが展開される。フレッチャーも認めざるを得ない
腕前だった。「キャラバン」が終わってもまだドラムを止めないアンドリュー、そのまま次の
曲に入ってしまった。その白熱のドラム演奏に、フレッチャーは思わずニヤリとする。
その顔に、笑顔を返すアンドリューだった・・・。

結末まで書いてしまったが、映画の中ではカフェで知り合ったニコルという女性と相思相愛と
なるのだが、ドラムの上達の時間が惜しい、と別れを言い出す。つまりニコルがじゃまだ、と
いうのだった。呆れたニコルは当然彼の元を去る。アンドリューは自信家であり、うぬぼれ屋
でもある嫌な性格の奴でもあった。それがフレッチャーとの「格闘」の中で自分を再発見して
いくのだ。フレッチャーはアンドリューの「高慢」な性格を徹底的に改革したかったのだろう。
そういう意味では「全人格否定的」教育は成功したのかもしれない。だがこれは特殊なケース
であったと思う。

最後の演奏会での「垂れ込んだのはお前だな」とか、アンドリューが全く知らない曲を演奏
し始めたり、あの当り、フレッチャーは何を考えていたのかよく分からなかった。そして
満場の客の前で赤っ恥をかかされたアンドリューが、なぜ最後に笑顔をフレッチャーに
返したのか?

しかし、全体として非常にテンションの高い、そしてアンドリューを演じたマイルズ・テラーも
相当の練習をしたのだろう、ドラム演奏の圧倒的なパワーと技術は見もの、聞きものである。
タグラインにもあるように、ラストの9分強はそれこそ息をつくのも忘れるほどの迫力を持って
迫る。刮目すべきシーンである。
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この映画の詳細はこちらまで。
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by jazzyoba0083 | 2015-05-07 15:35 | 洋画=さ行 | Trackback | Comments(0)