柘榴坂の仇討

●「柘榴坂の仇討」
2014 日本 松竹映画 製作委員会 制作プロダクション:デスティニー 119分
監督:若松節朗   原作:浅田次郎「五郎治殿御始末」より「柘榴坂の仇討」
出演:中井貴一、阿部寛、広末涼子、高嶋政宏、藤竜也、中村吉右衛門他
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<評価:★★★★★★★★☆☆>
<感想>
前日観た、「最後の忠臣蔵」が忠臣蔵外伝とすれば、本作は「桜田門外の変外伝」と
いえよう。浅田次郎の原作は未読であるが、おそらく原作が持つタッチというかニュアンスは
きっちり伝わっているのではないか、また映像化されたことで、さらに味わい深く
なったのではないか、と思った。

桜田門外の変は、これまでも何度か映画になって来たが、本作を鑑賞するについては
幕末の政治環境についてひと通り復習しておいたほうが、意味がよくわかって更に
面白いだろう。

開国を一方的に進めたと言われ、また尊皇攘夷の吉田松陰を刑死させた、時の
大老井伊掃部守直弼が桜田門外で水戸浪士らに暗殺された桜田事変。
最近、その剣の腕前を見込まれ殿様の近習を命じられた志村金吾(中井貴一)は、
道中警護に当たったものの、一人の男が列の前に現れ、大老に訴状を差し出した。
大老は「命をかけて訴えでたものを粗略に扱うな。書状は受け取り、身柄は評定所に
ひきわたしなさい」と命じた。しかし、その後、大勢の浪士らに囲まれて、近習は苦戦、
賊に奪われた家康下賜の槍を追いかけているうち、戻ってみれば、殿は討たれ、
警護のものは全滅。
当日の雪で、刀の柄に覆いをしていてそれを外すのに手間取ったこともあったが
近習としては万死に値する失態であった。彦根の両親は息子の不届きを恥じて
自刃、当人は切腹を許されず、下手人を追え、と命じられた。

世の中は井伊直弼の主張のように、開国となり幕府は大政奉還し、幕政は終わった。
志村は殿は何のために死んだのか、と自問するが、武士としての働きが出来なかったことを
恥じて、明治の世になっても侍の装束、ちょんまげ、二本差しを変えず、ひたすらに
人相書を眺めながら街をさまよう日々。そんな志村を支えていたのは事変の直前に娶った
ばかりの妻セツ(広末)であった。

一方、下手人の最後の一人になったのは、あの日、家宝の槍を奪って、志村と剣戟に
及んだが、辛くも逃げ出した佐橋十兵衛(阿部)であった。彼は早々に曲げを落とし、車夫と
なり長屋に一人住んで、身を潜めていた。彼とて水戸浪士の仲間と死ねなかった苦しみの
中で13年間生きてきた。

志村の仲間の努力で佐橋の行方が判明。新橋駅で、志村は佐橋の人力車に乗るのであった。
折しも空からは雪。行くあてのない人力車は、雪の中を進み、その道中、佐橋と志村の
会話が続く。佐橋は直吉と名乗っているが、それは井伊直弼から一字を採ったものであった。
自分のしたことの意義を失い、彼も生きる目的、死ぬ目的を失っていたのだ。
そして因縁の柘榴坂に差し掛かり、刀をすでに捨てた佐橋に志村は長刀を渡し、自分は
脇差しで戦う。佐橋は一旦は志村の前に座り、ぞんぶんに本懐をお遂げ下されと申し出た
が、(これは彼にとっての本懐でもあった) 一度は剣戟に及ぶものの、志村の心に変化が
出てきた。今更彼を殺したとて、報告するすべもなく、この日「仇討禁止」の太政官布告も
だされていた。佐橋を討って自分の心は晴れるのか、そして何より殿は喜ぶのだろうか、
そんなことが胸に去来したに違いない。志村は刀を納め、お互いに新しい時代を生きよう、
と去っていくのだった。価値観が大きく動いた時代に、自分の生きるところはどこか、必死に
なって探した二人に出た回答。決してこれからも住みやすいものではなかろうが、心は晴れて
折り合いをつけながら生きていくのであろう。
ラスト、志村は妻と手を取って歩く所(暖かくなったら彦根に帰ろうといっていた)、佐橋は
長屋に住むお千代ぼうの母親との間を深めるのだろう・・・。

時代の進歩の折りたたみ方も上手く、話は分かりやすい。綺麗に描きすぎ、という声もあるが
これが浅田次郎の世界なのだ。静かに進む物語であるが、とても興味深く見終えることが出来た。
なんだかんだいっても、上質な髷物、好きだな、オレ。
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<ストーリー>
歴史小説から現代劇まで幅広いジャンルを手掛ける浅田次郎の短編小説を、『沈まぬ太陽』の
若松節朗監督が、中井貴一&阿部寛主演で映画化した人間ドラマ。主君を失い、切腹する
ことを許されずにただ仇討を続ける男と、その最後のひとりの男との運命的な出会いが、
江戸から明治へと移り変わる激動の時代を背景に描かれる。

安政七年三月三日、江戸城桜田門外で大老の井伊直弼(中村吉右衛門)が襲撃され殺害される。
主君を守り切れなかったことを悔やんでも悔やみきれない彦根藩士・志村金吾(中井貴一)の
もとに、仇を討てとの藩命が下る。
明治の世になり時代が大きく変わっても武士としての矜持を持ち敵を探し続ける金吾。
一方水戸浪士・佐橋十兵衛(阿部寛)は井伊直弼殺害後、俥引きに身をやつし孤独の中に
生きていた。そして明治六年二月七日、仇討禁止令が布告される……。」(Movie walker)

この映画の詳細はこちらまで。
by jazzyoba0083 | 2015-08-10 23:20 | 邦画・新作 | Comments(0)