日本のいちばん長い日

●「日本のいちばん長い日」
2015 日本 松竹 アスミック‥エース 製作委員会 136分
監督・脚本:原田眞人  原作:半藤一利
出演:役所広司、本木雅弘、松坂桃李、堤真一、山崎努他
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<評価:★★★★★★★★☆☆>
<感想>
封切られてしばらく経つが、シネコンの比較的小さい小屋は、私くらいの初老のご夫婦で
ほぼ満員。もっと若い人に観てもらいたいものだ。

さて、本作は1967年に橋本忍~岡本喜八の組み合わせで東宝オールスターにより
製作されたものの別バージョン。東宝は当時「東宝8・15」シリーズと称して、6本の
大東亜戦争ものを製作した。その意義は当時、深いものがあったろう。
私も、WOWOWなどでほとんどは観ている。本作も当時は原作が大宅壮一名義で
あったが、もちろん半藤一利の作品の映画化である。

本作だが、おそらく大判レンズを使った陰影とボケ味のある独特の映像の中に
軍服のカーキ、宮内省役人の黒、など、モノトーンの色彩が強調され、バストショット
以上を多用しているように思える迫力、など映像へのチカラの入れようが良く
分かった。8月15日の玉音放送に至るまでの数日を時系列に追いかけていくのは
ドキュメントの性格上まぬがれぬところだが、岡本版に比べて、取り上げる人物を絞り、
その人間性を深く描くことにより、大東亜戦争とは何であったか、を短時間の出来事で
描ききる。原田眞人監督の代表作に入る映画だと思う。

特に昭和天皇と鈴木首相、阿南陸相の思いに更に重点が置かれ、二時間強の
映画の中で、先の大戦に対する個人的な思いがさまざまに去来する。
阿川弘之の「米内光政」「井上成美」を読んでいたので、陸軍と海軍の対立も
理解しながら観ることが出来た。陸軍の作戦に米内が黒板を叩いて抗議する、
という理屈も知っていればこそなのだ。というわけで、大東亜戦争に至る経過を
ひと通りおさらいしてから観ると、更に映画の深みが理解できるだろう。

個人的に印象的だったのが、帝国陸軍の戦地の経験のない若い参謀たちの精神論のみで
突っ走ろうとする一見純粋に見えて、浅はかな行動、彼らを感化した(当時の若者の殆どは
そうであった訳だが)皇国史観という「洗脳」の恐ろしさ。
天皇自身が一日も早い終戦を主張するのに、「日清日露以来負けたことのない帝国陸軍」の
面子や体面に拘り、「一億玉砕」「七生報国」というカルトな世界から抜けられない彼らの
恐ろしさを思った。その点、阿南が「軍を廃して、国を残す、ということさ」という見識は
天皇の考えと同じであったわけだ。

半藤もその後何度も指摘しているように、2度まで聖断を仰がなくては決められない
軍人や政治家、そして誰も責任を取らないままに、ずるずると同じような人が国政に
携わるという悲劇。

上記のことどもを思うとき、今の状況と極めて近いということができよう。だからこそ
今観て欲しい、今観るべき映画だと思う。

一度走りだすと「熱狂した狂気は止まらない」ということ。参謀本部に「一億玉砕」と書かれた
幟があったが、日本人を全部滅ぼして、何が「國體護持」(天皇制維持)か、ということだ。
天皇を始めとした国政に関る人物を通して観るとき、戦争を終わらせるのがどのくらい
難しいか、ということがよく分かる。あと数日終戦が早ければポツダム宣言を早く受け入れて
いれば、せめて東京大空襲で覚悟を決めておけば、広島も長崎も無かったのだ。
終戦のタイミングは沢山あった。
最終防衛線であるサイパンが陥落した段階で、和平に持ち込むべきだったと
思うのだが、何でそれが出来なかったのか、沖縄までめちゃくちゃにせずに済んだのにと、
国民が思考を停止し、マスコミが体制の宣伝部隊と成り果て、政治が暴走を始める事の怖さを
改めて思う。あの熱狂に身をおくと、恐らく私でも何も出来なかったのだろう。
(歴史に、タラレバは無いのだが、歴史に学ぶことは出来る。「ポツダム宣言は詳らかに読んで
いない」と悪びれず国会で言ってのけ、しゃあしゃあとしている総理大臣がいることに背筋が寒くなる。

出演者では、77歳の耳の遠い宰相を演じた山崎努が出色。役所と本木はやや持ち上げて
描かれすぎな感じ。反乱部隊の中心人物、畑中参謀を演じた松坂桃李も狂気を良く
演じていたと思う。

全体として、テンポも良く、描く人物を絞ることでストーリー(歴史そのもの)も追いやすく、
映像も演者も良かった。大東亜戦争を予習して、是非観ていただきたい作品だ。
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<ストーリー>
混迷極める太平洋戦争末期の日本において国の行く末を模索する人々の姿を描いた、
半藤一利のノンフィクション小説を映画化。陸軍大臣、天皇陛下、総理大臣など閣議に
参加した人々の姿と、クーデターを企む青年将校たちの姿が描かれる。
監督は『駆込み女と駆出し男』など、人間ドラマに定評のある原田眞人。

1945年7月、戦局が厳しさを増す中、日本に無条件降伏を求めるポツダム宣言が
発表された。連日閣議が開かれ議論に議論が重ねられるが、降伏かそれとも
本土決戦か結論が出ないまま8月に突入。
広島、そして長崎に原爆が投下され『一億玉砕論』の声も上がる中、日本最大の決断が
くだる。しかし降伏に反対する若手将校らは玉音放送を流させまいとクーデターを企て
皇居やラジオ局占拠に向け動きはじめる……。」(Movie Walker)
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by jazzyoba0083 | 2015-08-23 12:05 | 邦画・新作 | Comments(0)