ヘイル、シーザー! Hail, Caesar!

●「ヘイル、シーザー! Hail,Caerar!」
2016 アメリカ Mike Zoss Productions,Working Title Films.106min.
監督・脚本・編集:イーサン&ジョエル・コーエン
出演:ジョシュ・ブローリン、ジョージ・クルーニー、オールデン・エアエンライク、レイフ・ファインズ
    ジョナ・ヒル、スカーレット・ヨハンソン、フランシス・マクドーマンド、ティルダ・スウィンドン
    チャニング・テイタム。
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<評価:★★★★★★★★☆☆>
<感想>
コーエン兄弟、今回はこうきたか!という感じ。映画好きには、特に「ザッツ・エンタテインメント」
の頃のハリウッドが好きな映画好きには堪らない一作となった。私もその口である。
タイトルから類推するに、古代ローマを舞台にしたものなのか、コメディなのかどうなのか
分かり辛いが、作中で作られる映画のタイトルがそのままタイトルになっているという具合。
それにしても名が体を現さないから日本でヒットするのは難しいだろう。

加えて、アメリカの社会風土と思い切りシニカルに笑い飛ばしているところがあるので
まあ、それなりには面白いけど、ウディ・アレンの作品と同様、宗教、ユダヤ人、赤狩り、
ハリウッドスターという人たちの社会におけるポジションなど(特に1950年代における)が
理解されていないと面白さも半減、という仕掛けからすると、日本でのヒットは望めない。

またコーエン兄弟らしくないなあ、と感じる人も多いかもしれない。身もふたも無い不条理な
暴力や、観念的な構成などがここでは身を潜めているからだ。筋を追う分には分かりやすいと
思う。けど、コーエン兄弟が言いたかったことの深い部分をしっかりと受け止めようとすると
難しいかもしれない。

ジョシュ・ブローリン演じるスタジオのトラブル処理係エディ・マニックス氏が、オプ風に登場
する。まあ、彼の登場で、この映画は真面目にはすまないな、と感じる。
彼が解決しなくてはならない問題は、所属するキャピトル映画が製作中のローマ時代の
大作「ヘイル、シーザー」でシーザー役を演じる大スター、ベアード・ウィットロック(クルーニー)が
誘拐されてしまい、身代金を要求されるのだが、それを解決し映画を完成させることに
ある。
一方で、エディ自身も当時花形企業となりつつあったロッキード社からヘッドハントを受けて
いて、先方と接触するなどしていた。 この二つのストーリーが縦軸で、
これにハリウッドスターたちのスキャンダルや、トラブル、製作者側と現場との考え方の違い
などなどのエピソードが横軸として織り込まれていく。
その一つ一つがコーエンらしいアイロニーやシニカルな視点が加えられ進むのだ。
「ヘイル、シーザー!」はキリスト復活の下りが出てくるため、宗教的にバランスは取れているか
を、ユダヤ教、正教、カソリック、プロテスタント、などいろんなキリスト教系の聖職者を
呼んで意見を聞いたり。その場でのユダヤ教ラバイとの問答がなかなか味わい深いものだったり。

人気女優ディアナ・モラン(ヨハンソン)は、エスター・ウィリアムズ張りの水着の女王。でも
だれだかわからない男の子供を妊娠したり、かなり蓮っ葉な口の聞き方といい、スカーレット
本人の当てこすりか、はたまたエスターが実際そういう人物だったのか、などと思ってしまう。

更にセリフがまるでダメな西部劇専用のイケメン俳優ボビー・ドイル(エアエンライク)を
製作者側が興行的成功を狙い強引にラブストーリーの主役にキャスティングする。
しばらくは我慢をしていたローレンス・ローレンツ監督(ファインズ)の激怒ぶり。
そしてボビーの能天気ぶり。

そのラッシュを見ていたエディ、女性編集者(マクドーマンド)のスカーフがフィルムリールに
からんであわや窒息死!という珍場面も。

さらにジーン・ケリーと思しきミュージカルスター、バート・ガーニー(テイタム)らによる
タップダンスと50年代MGM風ミュージカル場面、あ、主人公エディが禁煙を破ってしまい
ました、と教会で懺悔するのだが、これが映画で数回、いろんな懺悔をしているのだが、これが
エディという人間の個性を引き立てている。

そして最大の見所は誘拐されたベアード(ジョージ・クルーニー)。誘拐するのが結構金持ち風の
共産主義者たち。彼らはベアードを洗脳して、映画を通して共産革命を成功に導く助けと
したい、と目論むのだが、ベアードはあっけなく感化されるものの、救出後に映画に戻ると
なんのことはない、唯物主義者には敵のはずのキリストの復活に心を打たれるという役柄を
見事に演じてしまうという軽さを発揮してしまう。ご存知の通りクルーニーはハリウッドでも有名な
リベラルなのだが、そうした彼がこのような役柄を演じている(狙いだろうけど)ことに笑えて
くるのだ。
また、ミュージカル俳優だったテイタムがソ連の潜水艦でモスクワに渡り革命に命をささげる
という(身代金の10万ドルは海に消えたけど)あたり、コーエン演出らしく観念的ではある。

なんといってもスカヨハのエスター・ウィリアムズばりの映画のワンシーン、テイタムが水兵の
衣装でジーン・ケリーばりに歌って踊るミュージカルシーンなど50年代映画ファンとしては
堪らないところだ。

全体として、映画への愛情に満ち溢れている反面、ハリウッドの内情をおちょくり、暴露し
小気味いい出来となっている。上映時間もちょうどいい。私はコーエンらしいとは何かと
いうことも含め、本作はコーエン兄弟の中でも好きな作品になるであろう。

この映画の詳細はこちらまで。
by jazzyoba0083 | 2016-06-05 13:30 | 洋画=は行 | Trackback | Comments(0)