グローリー/明日への行進 Selma

●「グローリー/明日への行進 Selma」
2014 アメリカ Cloud Eight Films and more.128min.
監督:エヴァ・デュヴァネイ
出演:デヴィッド・オイェロウォ、トム・ウィルキンソン、カーメン・イジョゴ、ジョヴァンニ・リビシ、ティム・ロス他
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<評価:★★★★★★★★☆☆>
<感想>

シネコンで上映せず、単館上映を逃した話題作をWOWOWが放映し、これを鑑賞。主題歌はオスカーを
獲った。
黒人公民権運動を象徴する「セルマの大行進」を横軸に、これを指導したマーチン・ルーサー・キング・
ジュニア牧師の葛藤と苦悩を縦軸に、たかだか50年くらい前のアメリカに実質的に選挙権が無かった黒人の
自由の獲得に向けた闘争を描く。

一番心を動かされたのは、キング牧師の呼びかけに応え、行進に加わろうと集まってきた国民に影響を与えた
のはNew York Timesであり、CBSニュースの正しい報道であった事。マスメディアの正しい報道がいかに政治や
国民の行動に影響があるかを改めて感じた。当時テレビ報道が国民生活や政治に多大な影響を持ち始めた頃で
その辺りも含んでみると、更におもしろいのではないか。今のマスメディアはネットの発達で当時ほどではないに
しろ、一定の影響はある。

本国では大ヒットした映画であるが、やはり黒人の自由民権運動を肌身で感じているアメリカ国民と、どうしても
傍観者になってしまう日本人とは感じ方が変わるだろう。変わって当然だと思う。アメリカ人が観れば
私達よりも、より深く重く辛い感動を呼び起こすのではないか。有名な事件ではあるが、改めてきちんと提示され
るとやはり、キング牧師らの存在の大きさを再確認できるだろう。国民の祝日になっている人物だけのことはある。
ジェファーソンやケネディの祝日は無くてもキング牧師の祝日はあるわけだから。(この日の制定には未亡人が
多大な努力をしたようだ。映画のラストでその旨字幕表示される)何故今この映画か、といえば、黒人の
待遇が当時と大きくは変わっていない、ということ、白人の警官に丸腰の黒人が射殺されるという事件が多発する
のに象徴されるように。そのことが今アメリカの大きな問題に(また)なっているからだ。

有名な事件だけに物語をどう構成するか、が問題で、大行進に山を置き、イベント毎に時間を入れた字幕を出す、
という進め方を取った。イベントの字幕が時系列かどうかは確認出来なかったが、これはあまり効果的では
なかったと感じた。途中にジョンソン大統領、フーバーFBI長官、ウォレスアラバマ州知事ら知られた人物と
その言動を散りばめることにより、また師の妻コレッタとの事も挿入することにより、観ている人を飽きさせず
作品に厚みを持たせることが出来たと感じた。個人的にはケネディ暗殺で棚ボタ式に大統領の座に付いた
リンドン・ジョンソン大統領は、ベトナムでろくなことをせず、大したことはない、と思っていたのだが、
ことキング牧師との間のこと、そして黒人の選挙権に関して言えば、なかなか良いことをしたんだな、と
理解した。(監督がそう描いただけかもしれないが。)アメリカではそう観ることが一般的なんだろうか。

「セルマの大行進」への参加者が黒人だけでなく、白人やヒスパニックまで広がる中で、ハリー・ベラフォンテや
ジョーン・バエズ、PPMらミュージッシャンらの参加も決まるというシーンはベタであるがキャッチーな
見せ場であった。ベラフォンテ、飛行機をチャーターして一般の人を乗せてきたんだなあ。凄い。
(エンディングで流れる当時のフィルムにはベラフォンテ本人が歩く様子、またサミー・デイヴィス・ジュニアの
姿も確認できた)
マルコムXも出てきたが、本物に似ていたなあ。それにも感心!配役陣はジョンソン大統領を演じた
トム・ウィルキンソン、ウォレス知事を演じたティム・ロス、それにクレジットされないが、黒人に理解を
示す判事を演じたマーティン・シーンの他はあまり知らない俳優陣であったが、破綻なく手堅く演じて
いたと思う。ラスト、暗殺で締めくくらず、キング牧師のモンゴメリーでの有名な演説で終わったのも良い。
39歳の生涯だった。思えば若いリーダーだったな。ケネディもそうだが、時代が回転するときにはこういう
若い人が出てくるのだろう。坂本龍馬もそうであるように。
この映画を観て、キング牧師に感動するだけではいけないだろう。今のアメリカで黒人がどう扱われている
のか、そこに視線を置くことが大事なのではあるまいか。
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<ストーリー>
1965年3月7日、前年にノーベル平和賞を受賞したマーティン・ルーサー・キングJr.牧師(デヴィッド・
オイェロウォ)の指導のもと、差別により黒人の有権者登録が妨害されていることに抗議する600名もの
デモ隊がアラバマ州セルマを出発。しかしこれを白人知事を筆頭に警官隊が暴力を振るい鎮圧。
彼らが進んだ距離はわずか6ブロックだった。この事件のショッキングな模様は『血の日曜日』として
全米で報じられ、公民権運動への賛同者を集めていく。
抗議デモには日に日に参加者が増え、ついに2万5000人にまで到達。やがて彼らの声は大統領や世界を動かし、
歴史を変えていく。(Movie Walker)

この映画の詳細はhttp://www.allcinema.net/prog/show_c.php?num_c=352675#2こちらまで。


by jazzyoba0083 | 2016-08-30 23:20 | 洋画=か行 | Trackback | Comments(0)