ホテル・ニューハンプシャー The Hotel New Hampshire

●「ホテル・ニューハンプシャー The Hotel New Hampshire」
1984 アメリカ Woodfall Film Productions and more.Dist.,Orion Pictures.104min.
監督・脚本:トニー・リチャードソン 原作:ジョン・アーヴィング
出演:ジョディ・フォスター、ロブ・ロウ、ポール・マクレーン、ボー・ブリッジス、ナターシャ・キンスキー他
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<評価:★★★★★★★☆☆☆>
<感想>

「ガープの世界」で知られるアメリカの現代作家ジョン・アーヴィングの原作に依る。
独特の世界観を持つアーヴィングの、アメリカ現代文学の金字塔とまで云われる原作に対し、
映画の方は同じ著者の「ガープ~」に比べると、今ひとつ評判にならなかったのは、作家の
持つニュアンスが映像では上手く言い切れなかったということか。

 突拍子もないアーヴィングの世界に恐れをなして、原作も未読であるが、社会的にも
マイナーな(少数派)存在である人々が繰り広げる不思議な世界観には、やはりついて
行くのは難しかった。途中で挫折しかけたが、それでも最後まで見切れたのは、登場する
人物たちのキャラクター付けと事件のありようが面白かったから、ということになろうか。
 
 アメリカの映画批評サイト、RottenTomatos でも、評論家の評価は高いものの、
一般のひとのそれはあまり高くない。前知識なしで見た人の戸惑いを示しているのでは
ないだろうか。Amazonに掲載されている書評によれば、原作本は極めて高い評価を
受けている。ということは映像化に際し、やはりどこか原作の持つニュアンスを表現し切れて
いなかったということなんだろうと推察できる。原作のダイジェストを読むと、本映画は
原作をかなり忠実にトレースしている。だが、具体的な映像として全体を見ると、それぞれの
キャラクターが明確になり過ぎで、メタファー(隠喩や暗喩)の固まりのようなアーヴィングの
世界をむしろあからさまに表現しすぎた(結果として表現してしまった)ことに難点の
一つがあるか、とも思うのだ。

 アメリカ現代作家がその著作を通して表現しようと試みたことが本作からどう見えるのかは
映画は良く語っていると思う。すなわちアメリカという社会の、マイナーな人たちに対する過酷な
面。それでも生きていかなくてはならない彼らの人生の苦悩、夢を見続けることに必要なエネルギーの
あまりの大きさ、本作に出てくる一家の面々は、ユーモアを持ちつつ苦闘はするのだが、
所詮「人生はお伽話」「それでも人生は続く」のである。
 繰り返すが、それらがジョディー・フォスターの、ロブ・ロウの、ナターシャ・キンスキーなどの
俳優のキャラクターと重なる時、ニュアンスとしてまた別のものが発生しているような気がする。

 それぞれの家族に起きる「突拍子もない」不幸な事件とそれぞれの対応は、現代アメリカが抱える
社会的な問題のメタファーであり、その嵐に対し、何回も建て替えられるホテルは一家の「防空壕」的な
役割をなすのである。母が死に、父も失明、子供たちも自殺し、事故死し、ユーモアがある割には
決して平穏ではない。家族の構成員たちと彼らに起きる事件事故は、アメリカ社会を捉える時に
必要な方程式である。愛犬ソロー(Sorrow=悲しみ)の死さえも。「悲しみの死(!)」
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<ストーリー:物語の全部が記載されています>
第2次大戦前夜の1939年。ハーバード大学入学をめざすウィン・ベリー(ボー・ブリッジス)は、
メイン州アーバスノットのホテルでアルバイト中に、同郷のメアリー(リサ・べインズ)と出会い恋に
おちた。そこはユダヤ人フロイト(ウォーレス・ショーン)と熊の曲芸を売りものにしているホテルだった。

ウィンは、いつしか熊のいるホテルを経営したいと思うようになっていた。メアリーと結婚したウィンは
5人の子供の父親になった。ウィンは、祖父アイオワ・ボプ(ウィルフォード・ブリムリー)がフットボールの
コーチをしている高校で教師をしていたが、家族全員がいっしょにいられることを理由にいよいよホテル経営に
のり出した。
メアリーの母校である女学校を買いとって改築されたホテルは、「ホテル・ニューハンプシャー」と名付けられる。
子供たちは、このホテルで成長していく。同性愛者の長男フランク(ボール・マクレーン)、美しくてしっかり
者の長女フラニー(ジョディ・フォスター)、姉を熱愛する次男のジョン(ロブ・ロウ)、成長のとまった
文学少女の次女リリー(ジェニー・ダンダス)、そして耳の不自由な三男エッグ(セス・グリーン)。

ハロウィンの夜、フラニーは、彼女に好意を寄せていたフットボール部のダブ(マシュー・モディーン)と
その仲間にレイプされる。こうした様々な出来事や青春の悩みに戸惑いながらも、月日は流れていった。

はじめは順調だったホテル経営も祖父の急死の頃から傾き始めた。そんなある日、消息の絶えていたフロイトから、
熊のいるホテルを手に入れたので、ウィーンに来て経営を手伝って欲しいと連絡が入る。こうして一家は
オーストリアに渡ることになった。しかし、メアリーとエッグが途中飛行機事故に遭い死んでしまう。
ウィーンは予想に反してすさんでいた。フロイトはナチの為に盲目になっており、熊のぬいぐるみを着た
内向的な娘スージー(ナスターシャ・キンスキー)は心に深い傷を持っていた。

なじみのない土地でホテルのたて直しに心血を注ぐ一家。だが、第2の「ホテル・ニューハンプシャー」も
軌道にのった頃、ホテルをアジトとしていたエルンスト(マシュー・モディン2役)を中心とするテロリスト
たちが、一家を巻き込んだオペラ座爆破を企んでいた。一家は、すんでのところで事件を未然に防ぐが、
フロイトは命を落とし、ウィンも視力を失った。オペラ座を救った一家として、また同時に、リリーが書いた
一家の物語『大きくなりたくて』がベスト・セラーになったため、一躍有名となった一家はスージーを連れて
アメリカに戻った。

全てが順調に運び、豊かな生活を送る中、フラニーとジョンは、遂に姉弟の一線を超える。しかし、2作目の
小説が成功しなかったリリーは、“大きくなれなくてごめんなさい”という言葉を残してホテルの窓から飛び
降り自殺をしてしまう。多くの愛する者たちを失ったベリー一家は、遂に思い出の地アーバスノットにたどり
着いた。ウィンが抱き続けてきた夢が、ようやく実現したのだ。
フラニーは、一家を何かと助けてくれていた黒人のジョーンズと結婚し、姉への想いをふっきったジョンは、
新たにスージーと愛を育む。彼の愛に支えられ、スージーはようやくぬいぐるみを脱ぎ捨てた。彼らの新しい
人生が新たな「ホテル・ニューハンプシャー」で始まろうとしていた。(Movie Walker)

この映画の詳細はhttp://www.allcinema.net/prog/show_c.php?num_c=21586#1こちらまで。


by jazzyoba0083 | 2016-09-12 23:15 | 洋画=は行 | Trackback | Comments(0)