お早よう

●「お早よう」
1959 日本 松竹映画 94分
監督・(共同)脚本:小津安二郎
出演:佐田啓二、久我美子、笠智衆、三宅邦子、杉村春子、設楽幸嗣、島津雅彦、沢村貞子、東野英治郎
   長岡輝子、三好栄子、大泉滉、泉京子、高橋とよ他
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<評価:★★★★★★★★☆☆>
<感想>

「彼岸花」「秋日和」の姉妹編。タイトルの演出なども含めて、小津監督のなかでは1958、59、60、の
三連作という括りなのだろう。内容は親子の人情ではなく、いわば群像劇ではあるが本作では家にテレビが
欲しい兄弟が狂言回しとして登場、おでこを弾くと「ぴよ~ん」と音が出たり、おならだったり(うんちが
もれちゃう)、コメディ色が強い。林家の弟を演じた島津雅彦は、黒澤映画「天国と地獄」で、三船敏郎の
家の運転手の息子を演じていたんだな。なかなか達者である。「アイ・ラブ・ユー」という掛け声が良い!
私の昭和34年が丁度このくらいの子供だった!

 小津監督が赤の発色が良いからと使ったドイツのアグファフィルムが本作でも使われ、画面の中で、朱色の
存在をさりげなく主張する。それは味の素やキッコーマンの容器の頭部分であったり、住宅の壁に掛けられた
フラフープだったり、兄弟の着るセーターに入ったラインであり、住宅の廊下の消化器や、脚立の天板であり、と
基本的にはどのフレームにも朱色や赤が置かれ、動かない画面の重心を取っているとともに、アクセントにも
なっている。また小津映画の特徴である短いセリフのオウム返しはここでも子役まで含めて健在である。
「いい天気ですねえ」「ほんといい天気」「ほんとにいい天気です」。という具合。タイトルの「おはよう」は
もちろん挨拶であるが、ここでは大人による無駄な言葉の代表選手として登場している。林家の兄弟は
お父さんから「無駄口をたたくな」と叱られ、だんまり作戦に出るが、彼らは大人こそ挨拶など無駄なことを
いってるという。だが佐田啓二は「挨拶が無くては味気ない。そういう言葉は生活の円滑剤だ」と喝破する。
本作の主題がそこにある。

「文化住宅」「14インチの白黒テレビ」「フラフープ」「普段は着物姿の主婦」「55歳定年」「押し売り」
「月賦」などなど昭和半ばの文化史を保存する上でも立派な史料となりうるものとなっている。
 林家の兄弟は中学と小学生なのだが、そのわりには笠智衆がおじいさんのようだと思うのだが、笠智衆、この
映画の時、まさに55歳。昔の人は年取っていたなあ。そしてもう定年なんだな。

引き戸を開ければ同じ間取りの文化住宅というとある街角。奥様同士は近所の噂話に余念がない。子どもたちは
勉強も上の空で、ある家にあるテレビの相撲中継が気になって仕方がない。そのうちの林家の兄弟は家に
テレビがない、「買っておくれよ~」とせがむが、両親はうんと言わない。まだ贅沢品なのだ。
そんな住宅街の人々が織りなす人生模様を「あいさつ」ということをキーワードに纏める。
 河原の土手の道を子供らが「有楽町で逢いましょう」を歌いながら下校してくるところから映画が始まる。
小津映画の特徴である、市井の人々が繰り広げる普通の人生の中に、豊かな人間模様を浮かび上がらせると
いうタッチが本作でも展開される。「家族」というテーマも重要である。男女の仲は「惻隠の情」である。
こうした作品は激しい感情を突き動かすものではないが、悪人が出てこない、ほのぼのとした世界で感じる
情感の豊かさ、を私たちは受け取ることが出来る。これは平成ではなく、やはり昭和の半ばならではのテイストで
あろう。小津作品のいいところが出た佳作である。
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<ストーリー>
東京の郊外--小住宅の並んでいる一角。組長の原田家は、辰造、きく江の夫婦に中学一年の子・幸造、それに
お婆ちゃんのみつ江の四人暮し。原田家の左隣がガス会社に勤務の大久保善之助の家。妻のしげ、中学一年の善一の三人。
大久保家の向い林啓太郎の家は妻の民子と、これも中学一年の実、次男の勇、それに民子の妹有田節子の五人暮し。
林家の左隣・老サラリーマンの富沢汎は妻とよ子と二人暮し。右隣は界隈で唯一軒テレビをもっている丸山家で、
明・みどりの若い夫婦は万事派手好みで近所のヒンシュクを買っている。

そして、この小住宅地から少し離れた所に、子供たちが英語を習いに行っている福井平一郎が、その姉で自動車の
セールスをしている加代子と住んでいる。林家の民子と加代子は女学校時代の同窓で、自然、平一郎と節子も好意を感じ
合っている。
このごろ、ここの子どもたちの間では、オデコを指で押すとオナラをするという妙な遊びがはやっているが、大人たちの
間も、向う三軒両隣、ざっとこんな調子で、日頃ちいさな紛争はあるが和かにやっている。ところで、ここに奥さん
連中が頭を痛める問題が起った。相撲が始まると子供たちが近所のヒンシュクの的・丸山家のテレビにかじりついて
勉強をしないのである。民子が子どもの実と勇を叱ると、子供たちは、そんならテレビを買ってくれと云う。
啓太郎が、子供の癖に余計なことを言うな、と怒鳴ると子供たちは黙るどころか、「大人だってコンチワ、オハヨウ、
イイオテンキデスネ、余計なこと言ってるじゃないか」と反撃に出て正面衝突。ここに子供たちの沈黙戦術が始まった。

子供たちは学校で先生に質問されても口を結んで答えないという徹底ぶり。この子供たちのことを邪推して近所の
大人たちもまた揉める。オヤツをくれと言えなくて腹を空かした実と勇は原っぱにおヒツを持出して御飯を食べようと
したが巡査に見つかって逃げ出し行方不明となった。間もなく子供たちは駅前でテレビを見ているところを、節子の
報せで探しに出た平一郎に見つかった。家へ戻った子供たちは、そこにテレビがおいてあるのを見て躍り上った。
定年退職した富沢が電機器具の外交員になった仕事始めに月賦でいいからと持込んだものだった--。」(Movie Walker)

この映画の詳細はhttp://www.allcinema.net/prog/show_c.php?num_c=138821こちらまで。

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by jazzyoba0083 | 2016-09-23 22:40 | 邦画・旧作 | Trackback | Comments(0)