ハドソン川の奇跡 Sully

●「ハドソン川の奇跡 Sully」
2016 アメリカ Warner Bros.Village Roadshow Pictures,Malpaso Pictures and more.96min.
監督・(共同)製作:クリント・イーストウッド 原作:チェズレイ・“サリー”・サレンバーガー
出演:トム・ハンクス、アーロン・エッカート、ローラ・リニー、アンナ・ガン、オータム・サリー他

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<評価:★★★★★★★★★☆>
<感想>
クリント・イーストウッドに外れなしは今回も。ストーリーはベタだけど、感動の一遍にに仕上げて
しまうイーストウッドの力量は今更ながら、素晴らしい。前作に続いて実話物で、このところこの手の
作品が続いている。やはり事実の持つ重みと感動は、作り物には代えがたいと考えたのだろうか。
フィクションにはフィクションの面白さがあるのではあるけれど、事実の持つ感動性は、一定の下駄を
履けるので有利ではある。本作を単なる(イーストウッド作品なので単なる、という風に考える人は
少なかろうが)航空パニックものと思っていたらとんでもないことなので、ぜひご覧いただきたい感動の
一遍である。1時間半少々に収めたのもネタがべたなのでいいんじゃないだろうか。エンディングに向けて
グイグイと引っ張っていく。また映像というか、視点がいい。アップとロングをリズミカルに組み合わせる
こと、また視点を高く置いて、ベタなネタに緊張感とともに心地の良さを提供している。たとえば機内の
映像、また主人公が戦闘機のパイロット時代だった時の映像など。ズームイン、ドリーイン、トラックイン
などの、たゆたう画面もいい感じだ。またエアバスはもちろんだが、主人公の人生の中に登場してくる
航空機がCGを含め、実写を含め、とても出来がいい。(ハドソン川の着水シーンはもう少し頑張って
欲しかったが)よく知られた事故を事実を丁寧に積み上げて映像も工夫しながら、緊張感を保ちつつ
描いていイーストウッド節には括目する。機長の人間としての勇気、苦悩をトム・ハンクスが熱演
している。

2009年1月のこのハドソン川への奇跡の不時着水は、当時大きく報道されたので私の記憶にも残るが、
このような話があったとはこの映画で知った。もし、全容を知らないのならば、ぜひ知らないままご覧に
なったほうがいい。連邦航空局の諮問の結果が分かっているのとそうでないのでは感動が違うから。

本作の主人公サリーを演じるトム・ハンクス以外はあまり目立ってはいけないのであるから、地味目の
キャティングを行い、トムと物語が浮かび上がるように工夫されていると思う。また乗客の人間模様も
最低限にとどめ、それを逆に感動の素材としている。映画では機械(コンピュータ)とタイミングなどの
人間性(ヒューマンファクター)の比較であり、その中で42年間のパイロットとしての「感」や「決断の
タイミング」などのファクターの存在が、155名の乗員乗客の命を救った男の人生を通して浮き彫りにされる。
また、ハドソン川で多数運行されていたフェリーやNYPD航空隊の存在など、全力で救助に当たった人間性をも
浮かび上がらせる。これは「人間性」の勝利である、と。アメリカ的浪花節ではあるけど、観終えて素直な
感動が残るのだ。蛇足だが、エンディングロールで出てくる本物の乗客のうち何人かは映画本編にも本人が
出ているみたいだ。

事故後、クルーが投宿したホテルの女性マネージャーが、サリーに飛びついてハグしてしまうところ、
ラストシーン、公聴会で一言求められた副操縦士(エッカート)が「次は7月にしたいね」と軽口をたたき、
会場を爆笑に巻き込むところ、まさに「人間性」の提示である。前作「アメリカンスナイパー」ではやり場の
ないやるせなさの内に物語を終えたイーストウッド監督、今回は正統派の全きカタルシスの中でエンディングを
迎えることにさせた。監督の中でも本作がカタルシスになったに違いない。

★半分はイーストウッド監督に敬意を表しての加点としても、全体的に非常に出来のいい作品だと思う。
これは今年度のオスカー作品賞のノミニーは確実であろう。(受賞するかどうかは別ではあるが)
年を取って涙もろくなっている私だが、またまたイーストウッド監督にはやられた。エンディングあたりでは
ほほを流れる涙を禁じえなかったのである。
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<ストーリー>
2009年にニューヨークで旅客機がハドソン川に不時着し、世界中で大きなニュースとなった奇跡の
生還劇に秘められた知られざる実話を、「ミリオンダラー・ベイビー」「アメリカン・スナイパー」の
巨匠クリント・イーストウッド監督がトム・ハンクスを主演に迎えて映画化した感動ドラマ。
離陸直後に両翼のエンジンが止まってしまう非常事態の中、サリー機長が瞬時の冷静な判断と卓越した
操縦テクニックで、乗客乗員155人全員の命を救うまでの緊迫の一部始終と、その後の“英雄”サリーを
待ち受けた過酷な試練の行方を描く。共演はアーロン・エッカート、ローラ・リニー。

 2009年1月15日。乗員乗客155人を乗せた旅客機が、ニューヨークのラガーディア空港を離陸した
直後に鳥が原因のエンジン故障に見舞われ、全エンジンの機能を失ってしまう。機体が急速に高度を
下げる中、管制塔からは近くの空港に着陸するよう指示を受けるが、空港までもたないと判断した
チェズレイ・“サリー”・サレンバーガー機長は、ハドソン川への不時着を決断する。そしてみごと機体を
水面に着水させ、全員の命を守ることに成功する。

この偉業は“ハドソン川の奇跡”と讃えられ、サリーは英雄として人々に迎えられた。ところがその後、
サリーの決断は本当に正しかったのか、その判断に疑義が生じ、英雄から一転、事故調査委員会の
厳しい追及に晒されるサリーだったが…。(allcinema)

この映画の詳細はhttp://www.allcinema.net/prog/show_c.php?num_c=356041こちらまで。



by jazzyoba0083 | 2016-09-24 18:20 | 洋画=は行 | Trackback | Comments(0)