K-19 The Widowmaker

●「K-19 The Widowmaker」
2014 アメリカ・イギリス・ドイツ New Regency Pictures and more.138min.
監督:キャスリン・ビグロー
出演:ハリソン・フォード、リーアム・ニーソン、ピーター・サースガード、クリスチャン・カマルゴ、ピーター・ステッビングス他
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<評価:★★★★★★★☆☆☆>
<感想>

ソ連製原潜にまつわる映像は素晴らしいし、カメラワークも監督のこだわりを感じる。が、ストーリーと
して辻褄が合わないんじゃないか、というか艦長と副長の立場が突然真逆になったりで釈然としなかった。
後に「ハートロッカー」で名を挙げた女流監督ビグロー、コロンビア大学大学院で映画を学んだ才媛っぽい
なかなか硬派な作品に挑戦したが、抑制された重い潜水艦映画となってしまった感が少々する。
ソ連を舞台にした映画であるが、全編英語であるので、ならばとこの際日本語吹き替えで鑑賞。そのほうが
まだ違和感は少ないと思ったからだ。

東西冷戦時代に、祖国に忠誠を尽くし、原発事故に当たって、艦を見捨てるなどとんでもない、と、どこか
精神論重視の大日本帝国軍人を思わせるハリソン・フォード艦長、片や、乗組員と核爆発から世界を守る、という
側面から艦長と対立する人情派リーアム・ニーソン副長。彼らの立場が、乗組員の反乱を機に逆転したように
思えるのだ。
そばにいた警戒中のアメリカの駆逐艦に助けを求めようとする副長が、突然、反乱軍に逮捕され、自分が艦長に
指名された瞬間、艦長を守る立場に付き、反乱チームを鎮圧する。艦長がアメリカ軍に救助を求めようとしたり
そのあたりの一貫性のなさに、鼻白んだわけだ。ソ連で初めて作られたミサイル搭載型原潜の初の軍務において、
乗組員や艦の限界をギリギリまで試そうとする艦長の気持ちは分からない訳ではないが、である。
この物語は事実にもとづいてはいるが、艦内の模様などは相当脚色されているのだろう。
(ひとつ気がついたのだが、新造船というのに内部が相当古ぼけているのは何か理由があるのかな)

それにしても、加圧型原発が冷却水装置の故障からメルトダウンの危険性が出て、それを雨合羽くらいの機能しか
ないものを着けて修理にあたり、ひどい放射線被曝を受ける下りは、フクイチを経験している我々には、正視でき
ないほど痛々しい。原子炉事故を起こしたK-19は味方の潜水艦に曳航されロシアに引き上げるのだが、修理に
当たったクルーは1週間後ほどに全員死亡したという。その他のクルーも相当被爆しただろうが、当然この事実は
秘匿された。
本作には、原潜を追い爆雷を投下する駆逐艦や、雷撃機の襲来もない。ひたすら炉心融解に晒された状態との
戦いが描かれるので、心理的な作品であり、活劇ではない。海の底で繰り広げられる潜水艦映画はこれまでも
沢山作られて来たが、原発と向き合う、という(ソ連が粗悪品を作っているという伏線は冒頭に張られる)地味な
ところに焦点を当てた初めての映画であろう。戦争において、自国民を守る役目の原潜が、クルーどころか
世界中の人たちに厄災をもたらす、という戦争の持つ(軍備の持つ)不条理、人間という愚かな生き物の悲しさ、
という主張(と私は汲んだが)は、ビグロー監督の後の作品「ハートロッカー」や「ゼロ・ダーク・サーティ」に
繋がるもの、と読み取ることが出来た。

重苦しい地味な映画であるが、見応え(上記の辻褄の合わなさを除く)のある作品といえよう。ちなみにこの
K-19は、その後も何回も事故を起こした。それゆえ「未亡人製造機」と呼ばれるのである。
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<ストーリー>
ソ連の原子力潜水艦K-19で1961年に実際に起った放射能事故を基に、「ブルースチール」「ハートブルー」の
キャスリン・ビグローが映画化した骨太のサスペンス。米ソによる核戦争に発展しかねない原潜事故という
最悪のトラブルに命懸けで立ち向かう乗組員たちの姿を緊張感たっぷりに描く。
主演は「エアフォース・ワン」のハリソン・フォード。
 
1961年、米ソ冷戦の最中、ソ連国家首脳部は原子力潜水艦K-19の処女航海の艦長にアレクセイ・
ボストリコフを任命した。副艦長には経験豊富なミハイル・ポレーニンが就き艦は出航。この2人の意見は
しばしば対立するが、K-19は次々にテストを成功させていった。困難なテストを乗り切り乗組員たちは
束の間リラックスする。
しかしその直後、新たな任務の遂行中、艦内の冷却装置のひび割れが判明する。原子炉は過熱し始め、
このままでは炉心の溶融が避けられない。ボストリコフはじめ乗組員は、大惨事をくい止めるべくひとつの
決断を下すのだった。(allcinema)

この映画の詳細はhttp://www.allcinema.net/prog/show_c.php?num_c=239589こちらまで。


by jazzyoba0083 | 2016-12-15 22:10 | 洋画=か行 | Trackback | Comments(0)