キャロル Carol

●「キャロル Carol」
2015 イギリス・アメリカ・フランス The Weinstein Company,Film4.118min.
監督:トッド・ヘインズ 原作:パトリシア・ハイスミス『キャロル』
出演:ケイト・ブランシェット、ルーニー・マーラ、サラ・ポールソン、ジェイク・レイシー、カイル・チャンドラー他
キャロル Carol_e0040938_14523996.jpg
<評価:★★★★★★★★☆☆>
<感想>
「からまる視線の演技」「時代と女性2人の雰囲気を盛り上げる画面の色彩」「時代を演出するための
上等なプロダクションデザイン(美術・特に衣装、ヘアデザイン、クルマ)」そして、なんと言っても主役の
二人の醸し出す香り立つようなキャラクターとその演技に圧倒された2時間だった。冒頭とエンディングの
シークエンスが、本編の展開によって繋がっていく工夫も良かった。

ゴージャスな(実際にお金持ちなのだが)ケイトと、ボーイッシュな風貌ながらも、どこか終始戸惑っている
ようなルーニー・マーラ。目線を強調したカットだけではなく、映画全編において二人の目線は多くを語る。
1952年のNY。(私が生まれた年だ)トッド・ヘインズが目論んだ、まだ同性愛などタブーもタブーだった
時代の再現。戦後7年を経て、街もそれなりの潤い方をしてきたという時代の特性を、衣装やデパートの中、
音楽、映像のカラートーン、意識して使われているとしか思えない当時のクルマなどを複合的に演出し、
そこに二人の女性を配置してみた。トッドは私より10歳ほど若いからリアルタイムでこの当時を知らない。
時代考証はそうとう頑張ったのだろう。それはまんまと当たった。キャスティングはこの二人しかないんじゃ
ないか、と思うくらいだ。「ドラゴン・タトゥーの女」でピアスだらけの男勝りのリスベットを演じた
同じルーニー・マーラとは思えなかった。そのボーイッシュで儚げな気配はどこかオードリー・
ヘップバーンを想起させすらした。それを上回る凄さだったのがケイト・ブランシェット。幼い女の子が
いながら離婚協議を進め、同性がどうしようもなく好きという愛情の持って行きどころを、ルーニーに
求めるという、ちょっと間違うと、タバコ好きなお金持ちの妖艶な有閑マダムになってしまう寸前に確立した
女性像を演じきった。

結婚寸前のボーイフレンドがいながら、ケイトとの同性の恋に落ちていくルーニー。夫婦の冷えた
愛情の果て、自分の本性たる同性へ向かう愛をルーニーに求めたケイト。同性愛者にとっては
厳しい時代の中で、自分の心の声に正直であろうとし、厳しさの中で自分の本当に求める愛に生きようと
する女性の姿がここにはある。そうした物語がアメリカでは一年で一番華やかなクリスマスシーズンを
舞台に展開していく。季節が温もりを求めたい冬、というのも良いのかもしれない。

当時東海岸で生まれ勢いがあったハード・バップ、クールジャズを上手く使った音楽の趣味も誠に宜しい。
ルーニーがケイトに贈ったクリスマスプレゼントはビリー・ホリディとテディ・ウィルソンのアルバム
「イージーリビング」のLPであった。(このアルバム自体の録音は映画の時代から20年ほど前になるが)

この二人、ラストはどう落とし前をつけるんだろうかと思って観ていた。
ラスト近く、一旦はケイトとの間を精算した感じのルーニーだったが、会ってしまうと恋心を押さえる
事が出来なくなる。「テレーズ(ルーニー)、行くな!」と心で叫んでしまったが、そうはならなかったなあ。

とにかく二人の演技と監督の演出に酔った二時間、楽しいひと時だった。

<IMDb=★7.2>
<Rotten Tomatoes=Tomatometer:94% Audience Score:73% >
キャロル Carol_e0040938_14525396.jpg
<ストーリー>

『見知らぬ乗客』『太陽がいっぱい』などで知られる女流ミステリー作家パトリシア・ハイスミスが
52年に別名義で発表した小説を「エデンより彼方に」のトッド・ヘインズ監督が映画化。
エレガントな大人の女性に心奪われた若いヒロインの切なくも美しい禁断の恋の行方を、50年代の
ニューヨークを鮮やかに再現した衣装・美術と素晴らしい映像美で描き出す。
主演は「ドラゴン・タトゥーの女」のルーニー・マーラと「ブルージャスミン」のケイト・ブランシェット。

 1952年、クリスマス目前の活気あふれるニューヨーク。高級百貨店のおもちゃ売り場でアルバイトを
しているテレーズ。フォトグラファーという夢を持ち、恋人のリチャードからは結婚を迫られるなど、
一見充実しているかに思えて、どこか満たされない日々を送っていた。
そんなある日、ゴージャスな毛皮のコートを着た女性キャロルが、娘のクリスマスプレゼントを探しに彼女の
売り場へやって来る。その美しく優雅な佇まいに一瞬で目を奪われ、強い憧れを抱くテレーズ。
後日、ふとした成り行きからキャロルにランチに誘われ、彼女が夫ハージとの愛のない結婚生活に苦しんで
きたこと、そしてついに離婚を決意したことを知るが…。(allcinema)
        
この映画の詳細はhttp://www.allcinema.net/prog/show_c.php?num_c=354600#1こちらまで。



by jazzyoba0083 | 2017-03-01 23:15 | 洋画=か行 | Trackback | Comments(0)