パンズ・ラビリンス Pan's Labyrinth

●「パンズ・ラビリンス Pan's Labyrinth 」
2006 メキシコ・スペイン・アメリカ Estudio Piccaso and more. 119min.
監督・脚本:ギレルモ・デル・トロ
出演:イバナ・バケロ、セルジ・ロペス、マリベル・ベルドゥ、ダグ・ジョーンズ、アレックス・アングロ他
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              <2006年アカデミー賞 撮影賞 美術賞 メイクアップ賞 受賞作品>

<評価:★★★★★★★★★☆>
<感想>

久々の★9。大層面白かった!振り返ってみればこの監督の作品は「パシフィック・リム」を見て
びっくりした以来のこと。もっとこの人の作品を見たいと思った。イリニャトゥといいキュアロンと
いい、メキシコの監督ってこのところ凄いな、と今更ならが驚いた次第。

「ダーク・ファンタジー」とは言うけど、そういうジャンルを超えた面白み、映画が与えてくれる
観客個人の深読みの楽しさを満喫出来る、いわばジャンルレスな作品ということが出来よう。
残酷なシーンも出てくるのでお子様というより、大人の映画である。そこには様々なメタファーが
潜んでいる。それを読む解く面白みは先程書いたとおりだ。

個人的には2つの大きなメタファーを感じる部分が有った。主人公オフェリアは、ある日見つけた妖精に
案内され、牧神パンに出会うが、彼女こそ争いも貧富もない地底の王国の王女であるに違いない、ついては
3つの試練をパスすれば、王女と認め、王国に案内しようと誘われるのだが。
一つ目は、パンに「決して食べてはいけない」と言われた主人公の少女オフェリアは、我慢たまらずブドウを
2粒口にしてしまい。手のひらに目の付いたお化けに追いかけられる。なんとか逃げたが、約束を破ったことに
激怒したパン(所詮、オフェリア王女の下僕であろうに)が激怒し、王国の世界にはもう行けない!!と
オフェリアに告げる所。(ここでは私は、オフェリアのだらしなさを呪った)これは人の欲に対する弱さ、
ひいては人間の弱さの提示。

二つ目は、ラストシークエンス、
王子となるべき異父弟を連れ出してラビリンスに連れて来たのはいいのだが、パンから、王子の血を、と
いわれると拒否するオフェリア。するとそこに後を追ってきた異父の大尉が追いつき、オフェリアを撃つ。
弟は異父の手に。瀕死のオフェリアは地底の国で父や母(異父弟の出産時に死亡)が笑っていて、彼女が
歓迎させるようすが見られた。一瞬、あ、彼女の魂は救われ、王国へ行けたのか、と思うと画面は血を流し
倒れるオフェリアの姿に再び戻る。そして彼女は息を引き取る。(この時は、彼女の見た王国に彼女の魂は
行けたに違いないと思わずにはいられなかった)
地底の王国など存在していたのか?スペインのひどい内戦に疲れた少女の妄想が作り上げたのではないか、
しかし、残酷な戦争を繰り広げるフランコ軍の大尉(オフェリアの義父)は、人間の一方の悪という
メタファーであり、オフェリアと地底の王国は善のメタファーなのだ。これがベースとなり物語が構築され
ている。

だから、悪側の大尉と軍人たちは非道この上なく、捕虜に対する残酷な仕打ち、人の命をへとも思わない
極悪に描いておけば、後のカタルシスがより大きくなることは必定。それにしても残酷さの描き方は
半端ないのでお子様は見てはいけない。ゲリラを支援する大尉付きの女メルセデスの反撃に会い、口を
切り裂かれた大尉は、自分で口裂け女みたいになった口を縫うのだが、痛いよお!!
大尉に対する観客の憎しみを最大化しておいて、ラスト、自分の息子を奪い返し、迷宮を出てくると
待っていたのはレジスタンスたち。大尉「頼みがある。この子に生まれた時間を教えてやってくれ」
(大尉は時間フェチだった)メルセデス「お前の名前すら教えないさ」 メルセデスの弟が銃で
一発!このあたりのカタルシスがすごく生きてくるのだ。この引っ張り方はなかなかだ。
(映画の冒頭からこの大尉はいずれは地獄に落ちる目に合うのだろう、とは分かるのだが、その方法は、
と見ている方の期待値が次第に高まる構造になっているのだ)

過酷なスペイン内戦を舞台とし、そこにファンタジーの要素を入れた「戦争と平和」の構造を作り上げた
監督の脚本に唸る。終わり方も「所詮、現実からの逃避などは人間の頭の中でしかできやしないのだ」と
言われているようで、重い気分にもなる。パンや、安産を祈るための植物みたいなやつや、ナナフシ
みたいな虫など、おおよそ、お子様向けのファンタジーに出てくるような代物ではなく、むしろおどろ
おどろしく作り上げられている。そういう姿をした王国、というものにも意味を感じることが出来るだろう。

見てハッピーになる映画ではない。何か人生の実相を「ダークサイド」から眺めるような、暗さを
感じる。が、映画の出来としては極めて完成度の高いものといえる。
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<ストーリー>
「ブレイド2」「ヘルボーイ」のギレルモ・デル・トロ監督が「デビルズ・バックボーン」に続いて再び
スペイン内戦を背景に描く哀切のダーク・ファンタジー。再婚した母に連れられ、山中でレジスタンス
掃討の指揮をとる冷酷な義父のもとへとやって来た空想好きの少女は、やがて残酷な現実世界から逃避し
森の中の不思議な迷宮へと迷い込んでいくが…。
イマジネーションあふれるヴィジュアルと深いテーマ性が高く評価され、いわゆるジャンル映画であり
ながら数々の映画賞を席巻する活躍で大きな注目を集めた話題作。

 1944年のスペイン。内戦終結後もフランコ政権の圧政に反発する人々がゲリラ闘争を繰り広げる
山間部。内戦で父を亡くした少女オフェリアは、臨月の母カルメンと共にこの山奥へとやって来る。
この地でゲリラの鎮圧にあたるビダル将軍と母が再婚したのだった。冷酷で残忍な義父に恐怖と
憎しみを募らせるオフェリア。
その夜、彼女は昆虫の姿をした不思議な妖精に導かれ、謎めいた迷宮へと足を踏み入れる。
そこでオフェリアを出迎えたパン<牧神>は、彼女が地底の魔法の国のプリンセスの生まれ変わりで、
満月の夜までに3つの試練を乗り越えれば、魔法の国に帰ることが出来ると告げる。オフェリアはその
言葉を信じて、与えられた3つの試練に立ち向かう決意を固めるのだったが…。(allcinema)

<IMDb=★8.2>
<Rotten Tomatoes=Tomatometer:95% Audience Score:91%>


この映画の詳細はhttp://www.allcinema.net/prog/show_c.php?num_c=326294#1こちらまで。


by jazzyoba0083 | 2017-03-20 22:50 | 洋画=は行 | Trackback | Comments(0)