マンチェスター・バイ・ザ・シー Manchester by the Sea

●「マンチェスター・バイ・ザ・シー Manchester by the Sea」
2016 アメリカ Amazon Studios 137min.
監督・脚本:ケネス・ロナーガン
出演:ケイシー・アフレック、ミシェル・ウィリアムズ、カイル・チャンドラー、ルーカス・ヘッジス他
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            <2016年度アカデミー賞脚本賞・主演男優賞受賞作品>
<評価:★★★★★★★★★☆>
<感想>
タイトルのマンチェスター・バイ・ザ・シーというのはアメリカ・マサチューセッツ州に実際に
ある街の名前で、ボストンの北に位置し、人口5000人程度の小さい港町である。
この小さな港町を舞台にした、主人公リー・チャンドラー(ケイシー)とその周辺の人々の
ドラマである。大向うを唸らせるような事件が起こるのでもなし、殺人があるわけでもない。
小さな街のどうってことない一人の男の人生の一コマを切り出してドラマとしている。

なぜこの作品がオスカーの脚本賞を獲ったか、考えてみるとわかるのだが、全く何気ない
いわゆる「everyday people」に起きる小さな(個人にとっては大きな)出来事を体験しつつ
どう人生を送ったか、言い方は悪いかもしれないが、そこらにある「何の変哲もない」、ある
人生をドラマツルギーにまで高めた構成力、作劇力が評価されたのであろう。

ドラマツルギーと言えば、シェイクスピアの「お気に召すまま」に以下の台詞がある。

『全世界は劇場だ。すべての男女は演技者である。人々は出番と退場のときを持っている』

本作でも、リーという男の人生の一コマも切り出しで、観客に人生の有りようとは、こんな
ものもありますが、あなたはどう考えますか?と問うているように感じたのだった。

この作品でオスカーを獲ったケイシー、これまでも割りと覇気のないヘタレな役を演じる
ことが多かったと思うのだが、ここでも、精力に満ちた男ではない。善人なのだが、周りの
人に振り回され、自分というものを確立し得ない。しかし、そこにはかつて自分の過失から
起こした火事で二人の娘を死なせてしまったという大きなトラウマというかグリーフが
大きく影を落としていたのだった。そこへ持ってきての兄の急死。でもこの男、不思議と
悩みを柳に風とばかりに右から左へと受け流していく。強い意志をもっているわけはない
のだが。急死した兄の子高校生のパトリックの後見人をしぶしぶ引き受け、自分の人生を
なんとかしなくてはならないのに、いつも周囲のことに振り回されるというか、気遣って
しまう。(しかし最後まで見れば、彼なりに必死に考えていたことが理解できる)

こうした作品中のリーに対し、観客は知らず知らずに同化していくように思う。ああすれば
いいのに、こうすればいいのに、と思うだろう。これすなわち、主人公の人生を追体験して
いることにほかならない。そして、リーに対し、応援しているのではないか。私はそうだった。
二人の娘の死、兄の急逝、そしてその息子の後見人の役割と、その中で、なんとか自分の
暮らしを立て直さなくてはならないリーに対し、私たちは静かに応援をしたくなるのだ。
最後に、兄の息子に対し、自分なりに決断したこれからのことを説明するリーは、これまでの
リーとは違うな、と思わせたとき、私達はそこにカタルシスを感じることができるのであろう。

どこにでもいる人々のどこにでもある出来事が、観客を巻き込みつつどういう顛末になるかという
物語に仕立てた、そのドラマツルギーの見事さに尽きる。そしてケイシーの目線の動きを始めとした、
内面をしっかりと演技したその演技力を堪能するに尽きる。もちろん、イングランド地方の風景の
美しさ、切り取られる画の構成、音楽の選曲、登場人物たちのキャラクター設定など、
トータルでよくできた映画といえる。そこらにある話をここまでの映画に高める力、ケネス・
ローガン監督、次作が楽しみである。
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<ストーリー>
アメリカ・ボストン郊外でアパートの便利屋として働くリー・チャンドラー(ケイシー・アフレック)。
ある日、一本の電話で、故郷のマンチェスター・バイ・ザ・シーにいる兄のジョー(カイル・
チャンドラー)が倒れたことを知る。リーは車を飛ばして病院に到着するが、ジョーは1時間前に息を
引き取っていた。冷たくなった兄の遺体を抱き締めお別れをしたリーは、医師や友人ジョージと共に
今後の相談をする。ジョーの16歳の息子で、リーの甥にあたるパトリック(ルーカス・ヘッジズ)にも
父親の死を知らせるため、ホッケーの練習をしている彼を迎えに行く。見知った街並みを横目に車を
走らせながら、リーの脳裏に仲間や家族と笑い合って過ごした日々や、美しい思い出の数々が浮かび
上がる。
リーは兄の遺言を聞くため、パトリックを連れて弁護士の元を訪れる。ジョーがパトリックの後見人に
リーを指名していたことを知ったリーは絶句する。弁護士は遺言の内容をリーが知らなかったことに
驚きつつ、この町に移り住んでほしいと告げる。弁護士の言葉でこの町で過ごした記憶が鮮明によみがえり、
リーは過去の悲劇と向き合わなくてはならなくなる。なぜリーはこの町を出ていったのか? なぜ誰にも
心を開かずに孤独に生きるのか? リーはこの町で、パトリックと共に新たな一歩を踏み出すことができ
るのだろうか?(Movie Walker)

<IMDb=★7.9>
<Rotten Tomatoes=Tomatometer:96% Audience Score:78%>






by jazzyoba0083 | 2017-06-10 15:10 | 洋画=ま行 | Trackback | Comments(0)