パターソン Paterson

●「パターソン Paterson」
2016 アメリカ K5 International,Amazon Studios.118min.
監督・脚本:ジム・ジャームッシュ
出演:アダム・ドライバー、ゴルシフテ・ファラハニ、バリー・シャバカ・ヘンリー、永瀬正敏他
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<評価:★★★★★★★★★☆>
<感想>
個人的に、鑑賞する映画のジャンルとして、ジャームッシュのような系統(大きく言えばカンヌ系と
でもいうか)の作品はあまり多く接しない。が、決して嫌いではない。何を受け取ったらいいの?
という形而上的な世界に、どちらかというとエンタメを求める私としては敬遠気味であるということだ。
またこういう映画は名古屋近辺ではシネコンにかからないので、ネットで座席がとれない小屋にいかなくては
いけないというめんどくささも腰を重くしていた。

しかし、本作、姉が「いいから一度観てみなさい」と強力に推薦してくれ、本日、午後の部の上映に
行ってみた。あと1週間で上映が終わってしまうので焦ったという面もある。館内は三分の一ほどの
入りで若い女性が多かった。

エンドロールが終わり、外へ出ようと歩いているとこみ上げてくる、なんだろう、この心地の良さは。
意味を探そうとして今見た映画を反芻してみるが、「心地よかった」としか出てこないのだ。
ジャームッシュ監督の主張や何処に?と考えても出てこないのだ。でもややあってそれが正解だ、そう
感じることで良いのだ、と腑に落ちた。普通の生活を普通に切り取って見せてこの心地の良さ。
ハリウッドのブロックバスターもいいが、こういう映画もまたいいもんだなあ、としみじみしてしまったのだ。
ありふれた愛情あふれる生活を切り取った映画を観て感じる「心地の良さ」。もちろん大作にも「心地の
良さ」はある。銃撃もカーチェイスも大恋愛も、家族の揉め事もない、普通の生活が描かれているものが
こんなに「心地良い」ものだとは。さすが、ジャームッシュ、ということになるのだろう。

映画自体は、アメリカはニュージャージー州パターソン(NYCにごく近い)でバスを運転手をしながら
詩を書く、市の名前と同じパターソン氏(ドライバー)の一週間を描くもの。パターソン氏は、ローラという
中東系の奥さんがいて、愛犬のブルドッグ、マーヴィンと暮らしている。

毎朝6時10分から30分に起きて、丸いシリアルを食べ、日がなバスを運転し、定刻に退社し、妻の夕食を
食べ、犬を散歩させ、途中で馴染みのバーによってビールを一杯だけのみ、地下室でその日の感想や乗客の
おしゃべりからインスパアされた詩をノートに書き留めるという生活を繰り返している。

中東系の妻ローラは芸術家肌で、カントリー歌手になりたいとか言って通販でギターを買ったりしている。
専業主婦らしい。でもカップケーキを作るのが好きで、また部屋の模様替えも好きである。彼女の変わって
いるのがとにかくモノクロと黒の円形やドットが好きなのだ。来ている服もパターソン氏の飲むマグカップの
デザインも。買ったギターさえ。犬もそう言えばモノクロだな。

毎日同じような生活が繰り返されるが、妻も不満は一切言わない。というか映画全体でいらつくような
シーンが全く出てこない。遅刻じゃないのか?という時間に起きる曜日も、特に上司が出てくるわけでも
ない。行きつけのバーで黒人のカップルが別れるの別れないのでおもちゃの銃で男が自殺をしてみせようと
して一悶着あったり、パターソン氏の運転するバスが電気系のトラブルで途中で止まっちゃったりする事件は
起きるが、誰も怒らない。パターソン氏もローラの夕食がまずくても文句は云わない。
最大の事件は彼が書き留めた詩のノートを愛犬が噛み切ってボロボロにしてしまったことだった。妻は落ち
込むパターソン氏を慰めるが、さすがにガッカリはするが、パターソン氏はめげたり嘆いたり、犬に当たり
散らしたりはしない。

ローラが屋外のイベントで売ったカップケーキが300ドル近くの売上を出して二人して外食して映画を
観る。パターソン氏は、「君を誇りに思うよ」と褒めてあげる(ローラの選ぶ映画がこれまたモノクロ
なんだな) みんな心穏やか。彼が綴る散文詩も、極めて穏やかなものだ。誰かを批判したり嘆いたりする
ものではない。映画の本質を突いている詩といえよう。

妻のキャラクターに主張があるのか、愛犬が何かのメタファーなのか、詩が監督の訴えたいことなのか、
と観終わっていろいろと考えてしまったが、そうではなく、パターソン氏の日常の争いのない平和な
詩を愛することが出来る世界の「幸せ」を感じればいいのだ、と腹に落ちたのだった。(夜に愛犬を
散歩させていると大きな音楽を流した黒人4人のオープンカーが停まって、ヨ~、それブルドッグだろ、
愛犬を盗むやつがいるから気をつけな、と言って去る。その直後パターソン氏は愛犬をバーの外に繋いで
一杯やるのだが、あ、これ犬が連れ去られる、と観客は思うだろう。でも何も起きない。見ている人は
偏見を持っていたのだなと分かる。そんな演出もニクいものがある)ラストに出てくる日本人詩人
(永瀬正敏)は、映画全体を締めるピリオドのような印象を持った。

「ストレンジャー・ザン・パラダイス」を見たときのようなオフビート感(独特のセリフの間とかも)は
ジャームッシュだなあ、と思うが、オフビートと一言だけで言い表せない「心地よい幸せ」がこの
映画にはある。キャストのアダム・ドライバーとゴルシフテ・ファラハニもピッタリ合っていてとても良い。
なんか、今のアメリカのトランプ的な世界観のアンチテーゼとして提示されているような気もした。

流れていく日々すら愛おしい・・・
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<ストーリー>
ニュージャージー州パターソン。街と同じ名前を持つバス運転手のパターソン(アダム・ドライバー)の
1日は朝、隣に眠る妻ローラ(ゴルシフテ・ファラハニ)にキスをして始まる。いつものように仕事に
向かい、決まったルートを走り、フロントガラス越しに通りを眺め、乗客の会話に耳を澄ます。
乗務をこなすなか、心に浮かぶ詩を秘密のノートに書きとめていくパターソン。一方、ユニークな感性の
持ち主であるローラは、料理やインテリアに日々趣向を凝らしている。
帰宅後、パターソンは妻と夕食をとり、愛犬マーヴィンと夜の散歩、いつものバーへ立ち寄り、1杯だけ
飲んで帰宅。そしてローラの隣で眠りにつく。そんな一見代わり映えのしない日常。だがパターソンに
とってそれは美しさと愛しさに溢れた、かけがえのない日々なのであった……。(Movie Walker)

<IMDb=★7.4>
<Rotten Tomatoes=Tomatometer:96% Audience Score:71%>



by jazzyoba0083 | 2017-09-28 17:35 | 洋画=は行 | Trackback | Comments(0)