消えた声が、その名を呼ぶ The Cut

●「消えた声が、その名を呼ぶ The Cut」
2014 ドイツ、イタリア、フランス、ロシア、ポーランド、トルコ 138min.
監督・(共同)製作・脚本:ファティ・アキン
出演:タハール・ラヒム、シモン・アブカリアン、マクラム・J・フーリ、モーリッツ・ブライブトロイ他
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<評価:★★★★★★☆☆☆☆>
<感想>
★は6.5。オスマン帝国崩壊に至る中で起きたアルメニア人大虐殺事件を
モチーフに作り上げた大河ドラマ。現在のISが跋扈しているエリアなので、現在に
思いが通じて胸が痛んだが、いささかちょっとメリハリに欠け冗長に感じられた
のが残念だった。

オスマン・トルコの腕のいいアルメニア人鍛冶職人ナザレット(キリストが産まれた
土地から名付けられているようにキリスト教徒)一家が巻き込まれる一大悲劇を
ナザレットを主人公として、別れた双子の娘を探し、ヨルダン~キューバ~アメリカは
ミネアポリス~ノースダコタまで旅をする壮大なドラマ。そこには過酷な運命をたどるに
至った残酷性と、彼を支えてくれる親切な人々との出会いがあり、そうした人間との
触れ合いからドラマが綴られていく。

第一次世界大戦前後のオスマン・トルコ帝国崩壊が絡んだ映画は数多く作られており、
「アラビアのローレンス」もその流れの中にある。本作のストーリーでも重要な
ファクターとなっているが、結局バルカン半島は西欧列強の陣取り合戦に巻き込まれ
イギリスの「三枚舌外交」が決定的になり、現在まで続くパレスチナ、イスラエル
紛争のきっかけを作ったのだ。そのバルカンのぶん取り合いをした国々とトルコが
製作国に名を連ねているのがなんとも皮肉だ。(最悪のイギリスはいないけど)

ナザレット、家族と引き剥がされトルコ側に強制労働に駆り出され、用済みとなると
集団で喉を掻き切られて殺される。だがナザレットに手を掛けた男の気が弱いと
いうか善の心がまだ少しあったため傷が浅く、生き残るが声を失う。そこから
彼は無謀とも思える家族との再会のための長い長い旅にでることになるのだ。

綴られるエピソードはダイナミックであるが、例えばヨルダンからキューバへ
向かう際、船員として雇われたようだが、口が聞けなくてよく大丈夫だったな、とか
一つ一つのエピソードに微妙な突っ込みどころがある。そのあたりが本作の
パワーを少し減じていたような気がした。基本、出会う人々に悪いヤツらより
善人が多いのが救いだ。(一方で映画の弱さかもしれない)チャプリンの映画を
見るシーンがあるのだが、そこでは親子が再会出来る、そのシーンを観て涙して
いるナザレット・・・いいシーンだった。

とはいうものの、肉親(娘)に会いたい、という父親の命を掛けた強い思いには
胸を打たれずにはいられない。戦争~引き裂かれた家族~長い過酷な旅路~
劇的な再会という典型的な流れではあるが、この手のドラマがお好きな方には
オススメだ。舞台がオスマン帝国というのがテーマとして今日的でもあるので
いいのかも。アレッポも出てきますよ。
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<ストーリー>
「愛より強く」「そして、私たちは愛に帰る」のトルコ系ドイツ人監督ファティ・
アキンが、トルコのアルメニア人大虐殺をモチーフに、虐殺を生き延びた男が、
生き別れた2人の娘を捜して繰り広げる壮大な旅の行方を描いたドラマ。
主演は「預言者」「ある過去の行方」のタハール・ラヒム。

 1915年オスマン・トルコの街マルディン。アルメニア人鍛冶職人のナザレットは、
妻と双子の娘ルシネ、アルシネと幸せに暮らしていた。
そんなある日、憲兵がいきなり押しかけ、ナザレットは妻子と引き離され強制連行
されてしまう。
灼熱の砂漠で、同じように連行された男たちとともに奴隷のように働かされるナザレット。
そしてある朝、ナザレットたちは処刑を宣告され、次々とナイフによって首を掻き
切られる。数時間後、ナザレットは意識を取り戻す。彼の処刑を命じられた男が
首を浅く切ったために致命傷にはならず、声を失ったものの奇跡的に一命を取り
とめたのだ。この時から、家族の消息を求めるナザレットの遥かなる旅路が始まる
のだったが…。(allcinema)

<IMDb=★6.3>
<Rotten Tomatoes=Tomatometer:58% Audience Score:67% >




by jazzyoba0083 | 2017-10-01 23:40 | 洋画=か行 | Trackback | Comments(0)