永遠のジャンゴ Django

●「永遠のジャンゴ Django」
2017 フランス Fidélité Films  117min.
監督:エチエンヌ・コマール
出演:レダ・カテブ、セシル・ドゥ・フランス、ベアタ・パーリャ、ビンバム・メルシュタインほか
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<評価:★★★★★★★☆☆☆>
<感想>
まずはこの映画を作ったことを称揚したい。欧州の映画のチカラはいろんな意味で強い!

ジョー・パスの名盤「ジャンゴ」に代表されるように、モダンジャズやロックギタリストたちに大きな
影響を与えたジプシー(ロマ)のギタリスト、ジャンゴ・ラインハルト。左手に火傷を負い、人差し指と
中指(と親指)の2(あるいは3)本の指で火を吹くような超絶技巧のパッセージを奏でたジャンゴ。
ジャズギター大好きな私は、何はともあれ見なくては、と行ってきた。

ジャンゴの生き様と、ナチによるジプシー(ロマ)の迫害が半ばして描かれる感じの仕上がりだった。
とにかくレダ・カテブという俳優さんの、指使い(あてぶり)が見事。実際は現代ジプシー・ジャズの
最高峰ローゼンバーグ・トリオの、ジャンゴもかくやという演奏を聞かせているのだが、雰囲気も出ていて
作品の性格上も、しっかり聞かせるということもあり、長い時間の演奏が鑑賞できる。レダさん、
大変だっただろうなあ。実際のジャンゴの方がもう少しふっくらとしていたけどね。本作では大戦中の話なので
ジャンゴの生い立ちは説明されない。(火傷で左手の薬指と小指が曲がったまま、というのが出てくる程度)

映画は、森の中のロマの人々がナチに追われるシーンから始まり、パリのフランス・ホット・クラブ五重奏団の
長い演奏へと繋がる。(ジャンゴは酒を飲みながら釣りに行っていて大遅刻なんだけど)ホールいっぱいに
入った客の中にはナチの軍服も見られる。若い将校は敵性音楽であるジャズのスウィングに体を揺らし
笑顔である。いい音楽は万国共通だ、と思わせる一コマである。
しかし、ジャンゴがドイツに行って演奏することになると監視する将校から、以下の様なことを言われる。
「スィングという演奏は20%。ブルース、ブレイクは禁止。シンコペーションは全体の5%。
アドリブは5秒以内、足を鳴らして調子を取ることは禁止」と。ならジャンゴに演奏なんかさせなければ
いいのにね。でも1940年に出した「雲」は10万枚以上売り上げた、というから当時凄い人気者だったのだ
ろう。アーリア人らしいというかドイツのクラッシックしか音楽と認めない、というナチの偏狭ぶりが
分かるというものだ。その将校から「お前は音楽を知っているのか」とかいわれるのだが、ジャンゴは
「音楽が俺を知っている」と返す。なかなか言えないセリフだ。

ボヘミアンなジャンゴだが、ナチのユダヤやロマに対する迫害は日に日に苛烈になっていく。恋人のススメで
スイスに逃避することになるのだが、その顛末に胸が痛む。もともと領土意識が所有意識も薄いことから
戦争というものをしない民族であるロマは、流浪の、放浪の、と賤民の代表のように言われる。それは誰が
決めたことなのか。国家という世界観が出来上がった歴史のなかで弾き出された、世界中にある領土意識の
ない民族の不幸が大きく横たわる。

本作でのハイライトとでも言える湖畔の貴族の邸宅で開かれたナチとシンパのパーティーで、演奏を
担当したジャンゴの楽団は、禁止されていたにも関わらず、ヒートアップし、しかし、パーティーの参加者も
演奏に突き動かされるようにダンスを始めてしまうのだ。見張りの兵隊も覗き込みに来る。(これが狙いで
その背後で傷ついた英兵をボートでスイスに運んでいたのだが)
しかし、一番エライ少将が、あまりの浮かれ方に激怒し、演奏を中止させる。そこにレジスタンスが列車を
転覆させたというバイクの兵士のもたらした一報が。

雪に穴をほってナチの追跡を逃れたジャンゴの姿が1945年5月のパリの教会にあった。そこには母も
一児の母となった夫人も仲間もいた。そこではジャンゴは指揮にたち、パイプオルガンをメインにして
コーラスも入ったレクイエムが流れた。ギターを持たない彼の姿と流れる音楽は、ジャンゴが戦争を経て
体験したことの大きさを語っていた。

ジャンゴの奏でるジャズは、よくスイングするが、アコースティックギターの独特の音色はどこか
哀愁を帯びているように聞こえる。それはロマである彼の根っこのようなものなのからくるのかも
しれない。

本作はジャンゴの生涯のほんの短い時間を描いたに過ぎないが、ジャンゴにとっても歴史的に濃い時間を
抽出し、彼の生き方、音楽への情熱、そして民族迫害をまるで濃縮ジュースのように切って見せた。
フィクションも入っているようだが、それにしてもジャンゴという人物の何かを変えるものではないで
あろう。その人生においても(映画に描かれなかった戦後も含め)こんなに凄い人がいたのだ、という
ことを歴史を含めて知ることが出来るのは本作の長所である。
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<ストーリー>
ジプシーの血を引く伝説的ジャズギタリスト、ジャンゴ・ラインハルトの真実に迫る人間ドラマ。
1943年、ドイツ軍占領下のフランス。ホールを連日満員にしていたジャンゴの人気に目をつけたナチスは、
彼をプロパガンダに利用しようとドイツでの公演を画策する。
出演は「孤独の暗殺者 スナイパー」のレダ・カテブ、「少年と自転車」のセシル・ドゥ・フランス。
撮影は「美女と野獣(2014)」のクリストフ・ボーカルヌ。
「大統領の料理人」「チャップリンからの贈り物」の脚本家エチエンヌ・コマールの監督デビュー作。

1943年、ナチス・ドイツ占領下のフランス。ジプシー出身のギタリスト、ジャンゴ・ラインハルト
(レダ・カテブ)は、パリでもっとも華やかなミュージックホール、フォリー・ベルジェールに出演、
その華麗なパフォーマンスで満員の観客を沸かせていた。
会場にはジャンゴの愛人ルイーズ(セシル・ドゥ・フランス)の姿もあった。そんななか、彼の才能に惚れ
込んだナチス官僚がドイツでの公演話を持ちかけてくる。ベルリンのコンサートには宣伝相のゲッベルスが
来場し、ヒトラー総統も来るかもしれないという。自分がナチスのプロパガンダに利用されようとしている
ことも意に介さないジャンゴは「俺たちジプシーは戦争などしない。俺はミュージシャンで演奏するだけだ」と
うそぶくが、ドイツ軍の動向に精通しているルイーズは、フランスの国内外でジプシーへの弾圧が行われて
いる事実を伝え、家族全員でスイスへ逃亡するよう促す。

ルイーズの説得によって事の重大さを知ったジャンゴは、年老いた母親ネグロス妊娠中の妻ナギーヌを伴い
スイスと国境を接するトノン=レ=バンに移り住む。
レマン湖畔の空き家を借りたジャンゴ一家は、近くにあるジプシーのキャンプで親戚に歓待され、心安らぐ
ひとときを過ごすが、この地もドイツ軍の支配下にあった。船でスイスに渡る計画は先送りされ、
ジャンゴは過酷な現実に直面する。
ドイツ軍と警察によってジプシーの活動は厳しく制限、食料などの生活物資も乏しい。やむなくジャンゴは
食いぶちを稼ぐために即席バンドを結成し、素性を隠して地元のバーで演奏を始めるが、ずっと可愛がって
いた猿のジョコが何者かに殺されてしまう。さらにドイツ軍に住みかを徴収され、ジプシーのキャンプに
身を寄せるはめになる。

そんな折、バーでドイツ軍の取り締まりを受けたジャンゴは司令部に連行され、近々催されるナチス官僚が
集う晩餐会での演奏を命じられる。ジャンゴの身を案じてやってきたルイーズも「お願いだから弾いて。
逆らえないわ」と告げるのだった。警察から公道の往来とキャンプを禁じる通達が出され、ジプシーへの
迫害が激しさを増すなか、ひとりの神父と知り合ったジャンゴは、彼の勧めに従い、教会のパイプオルガンを
使って作曲に勤しむ。そこでジャンゴが奏でる音色には、理不尽に虐げられるジプシーの苦悩と哀しみが
色濃くにじんでいた。やがてジャンゴはレジスタンスの男女から、晩餐会の夜、負傷したイギリス人兵士を
こっそりスイスへ逃がすよう依頼される。ドイツ軍の目を逸らすため、ジャンゴに晩餐会で演奏を行って
ほしいという……。(Movie Walker)

<IMDb=★6.3>
<Rotten Tomatoes=Tomatometer:63% Audience Score:92% >



by jazzyoba0083 | 2018-01-09 15:40 | 洋画=あ行 | Trackback | Comments(0)