博士の愛した数式

●「博士の愛した数式」
2005 日本 “博士の愛した数式製作委員会” アスミックエース 117分
監督・脚本:小泉尭史  原作:小川洋子「博士の愛した数式」
撮影:上田正治、北澤弘之
出演:寺尾聰、深津絵里、齋藤隆成、吉岡秀隆、浅丘ルリ子ほか。
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「雨あがる」「阿弥陀堂だより」の小泉尭史監督がメガフォンを取った、またまた
心温まる好編。
交通事故の後遺症で短期記憶障害(80分以上記憶を保てない)になった初老の
数学博士と、家政婦として通う母子の、静かに流れる時間、暖かい時間を堪能できる。
心、幸せになれる佳作だと感じた。

春から初夏に移る長野の風景も、アングルが計算されていて非常に美しい。
何気ないカットも計算尽くされているカメラワークも、心和む、作品をプッシュする。
小泉作品の常連となった寺尾だが、相変わらず飄々として自然体の中に観客に
静かに迫ってくる。また、深津絵里がとてもよい。この人の自然体演技も定評が
あるところだが、ナイスキャスティングだと感じた。
数学嫌いの方は敬遠しそうな映画だが、決してそうではなく、論理的な数学と
思われ勝ちだが、数学が神秘的で、人間に何かを語りかけてくる様子が好ましく
描かれている。

物語は、ルートとあだ名された高校の数学教師(吉岡)が、春の新学期にある
クラスの数学を受け持つに当たって、自分が何故数学が好きになったかを
生徒に語り始めることから始まる。

ルートが小学生の頃、母の杏子は家政婦として、難しい家に仕事に行くことに
なった。交通事故の後遺症で記憶が80分しか持たない初老の数学博士の世話をする
ことになったのだ。
依頼人は、義姉(浅丘)。離れで暮らす義弟の世話をして欲しいとの依頼だが、
離れのトラブルを決して母屋に持ち込まないように命令された。

毎日通っても、毎日が初対面。
「こんにちは!家政婦です!」「君の靴のサイズはいくつかね」「24です」
「4の階乗。実に端正な数字だね」、そんな会話が繰り返されるのだ。

博士(寺尾)は、温厚な紳士。杏子に数学や数列の美しさ、宇宙に繋がる神秘性など
を、判りやすく教えていく。約数の合計がお互いに同じになる異なる整数(友愛数)
1と自分自身でしか割り切れない素数などの、ルート記号の面白さ、約数を足すと
もとの数に一致する完全数など・・・。
最初は博士の扱いに苦労していた杏子だったが、博士の純朴さと数式の面白さ
に、博士の元に通うことが面白くなる。やがて、規則違反だが、博士の要望で
杏子の10歳の息子も、毎日学校帰りに寄るようになる。
野球をしている息子、大の阪神ファンの博士、二人は仲良しになるが、やはり
翌日には、「そうか君には息子がいたのか」と訪ねるのだった。

邪念のない純粋な心の持ち主である博士の数学に基づいた言葉には星のような
きらめきがあり、美しい。中でも、直線を描いてみなさい、と杏子に指示し、
杏子が紙に線を引くと、「この線には始まりと終わりがあるね。ということは
これは2点を結ぶ線分ということになる。本当の直線、始まりも終わりもない
直線とはどこにあるのだろうか?それは誰にも判らない。答えはここに(心)に
あるんだよ。真実というものは目に見えないものだ。
だから、心で見るんだよ。心で見るから時間は流れない。今、この時間を大切に
しなければならないんだよ」という言葉。

ルートの少年時代に博士に教わった色々な数式を生徒に、黒板を使って
優しく説明してく、大人になったルート。これが交互に現れる。
ルートマイナス1=i(虚数)、π(パイ)、e()。e(πi)+1=0というオイラーの
公式が博士が一番好きだった数式だったという。
この世にないものを乗じて1を足すと無になる、というこの数式は、この映画
そのものを物語っているようだった。

実は、義姉と義弟の間には、秘密があり、何故浅丘が博士の面倒を独身で
見守っているか、とか、少年ルートの野球応援に出かけたり、ルートの
誕生日を祝うシーンとか、、心温まるシーンは数々でてくる。

映画を観ていて激情に流されるとか、興奮するとか、全くない。暴力もない。
ただ淡々と数式を通して、人々の心のつながり、愛情がひたすら静かに
描かれ、人を引き付けていく。そして、モノクロに転じるラストシーン。
浅丘と深津の見守る海辺で、江夏の背番号の入ったウインドブレイカーを着た
博士に、帽子を取ってお辞儀をする大人になったルート。まるでお父さんに
敬意を払うように・・・。
小泉監督、次は何を見せてくれるのだろうか。楽しみである。
尚この映画の詳しい情報は

こちら
まで。
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by jazzyoba0083 | 2007-06-04 23:10 | 邦画・新作 | Trackback(3) | Comments(0)