カポーティ Capote

●「カポーティ Capopte」
2005 アメリカ United Artists,A-Line Pictures,Sony Pictures Classic 114min.
監督:ベネット・ミラー 原作:ジェラルド・クラーク 脚本:ダン・ファターマン
出演:フィリップ・シーモア・ホフマン、キャサリン・キーナー、クリフトン・コリンズJr.
クリス・クーパー、ブルース・グリーンウッド他

         <2005年度アカデミー賞主演男優賞受賞作品>
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 先日、「冷血」を観たのは、この映画を観たいための伏線でもあった。トルーマン・カポーティ
(1924~1984)は、ニューオリンズに生まれ、幼い頃から親の愛情に恵まれず、
親戚を転々とさせられ、ほとんど学校にも通わず、読み書きは独学だという。
17歳で雑誌「ニューヨーカー」のスタッフに採用され、19歳のときに同誌に掲載された
「ミリアム」で、オー・ヘンリー賞を受賞した。いわば早熟の天才であったが、独特の口調と
同性愛、低身長で、しかも幼少時代の親の愛を知らないカポーティは、自ら天才と嘯き、
(会話の94%は記憶している、と吹聴する)社交界の中心にいることを好んだ。
(こうした光景は映画の中にも盛んに出てくる)
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裏返せば、孤独であり、愛情に飢えていたともいえるだろう。彼を一躍時代の寵児としたのは
「ティファニーで朝食を」であることは間違いない。これは映画化もされ、そのテーマ音楽の
大ヒットとともに、カポーティーの鼻を高くしたことは確かであろう。彼は更に社交界における
人気者となっていく。
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           マリリン・モンローとトルーマン・カポーティ(本人)
1966年に発表した「冷血」は、ノンフィクションノベルという新しいジャンルの文学の嚆矢と
して注目されたが、この映画にもあるように、実話に基づいたこの小説を6年がかりで
製作する中で、アルコールに依存していた日常もあり、自我が次第に崩壊していく。
映画でもクレジットされているように、「冷血」以降、完成させた小説は無い。
それだけ、この「冷血」の製作は、彼にとって傑作の完成と引き換えに、作家生命も
ほんとの命も失ってしまうことになったのだ。1984年に、アルコール障害に起因すると
思われる心不全で急死している。

映画「カポーティ」は、そんなトルーマンが、アラバマ在住当時の幼馴染、ハーパー・リーの
協力を得て、カンザス州の静かな田舎町で起きた豪農一家4人殺人事件を取材、これを
「冷血」として完成させるまでを描いた。(1959年に起きた事件については下記「冷血」の
内容を参照ください)
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            ハーパー・リー(右)を演じたキャサリン・キーナー
この事件、やがて刑務所にいる仲間からの垂れ込みで比較的早く犯人が逮捕された。
彼らも家庭の愛情を欠いた人物で、ペリー・スミスとディック・ヒコックである。
カポーティーは彼らに接近し、留置場にたびたび通い、インタビューし、小説にしていく。
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しかし、特にペリーと接しているうちに、感情の交流というか、心を取り込まれてしまう。
カポーティーは有能な弁護士をつけてやったりして、彼らの心象を良くし、取材をやりやすい
ように計らう。この計画は奏功し、何回も控訴し、ついに最高裁にまで行く。このことを
ペリーは素直に感謝する。

しかし、カポーティといえば、留置場の中で小ざかしいウソをペリーにつき、何とか
犯行の一部始終を聞き出そうとしていたのだ。小説家を信頼する死刑囚、利用する小説家。
彼が完成させた小説はきっと喝采をもって迎えられるだろうと、カポーティーは計算していた
のに違いない。
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    出版を控えて死刑囚ペリーと写真を撮るカポーティ(なんという俗物!!=映画より)
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何ゆえ、このテーマにカポーティが強く引かれたのか。「一家惨殺」という内容に、家庭の
愛情に劣等感を抱いていた彼が興味を持ったのと、誰からも信頼され愛されていた一家を
殺したのは誰か、という自らに内在するコンプレックスに対する回答を求めたに違いない。
そしてペリーを取材するうちに(3年がかり)、自らが事件の追体験者として取り込まれている
ことに、ペリーが絞首刑になる瞬間まで気がつかない。
死刑が延期されることに、嬉しいと思う半面、いつまでも決着が書けないもどかしさに
気も狂わんばかりとなる。そこに完全に、自我が分裂してしまったカポーティーを見たので
ある。

青空の無い映画。カンザスの秋や冬の寒々しい光景は、カポーティの心象か。そして間の
多い進行。映像は周到に計算されていることが判る。
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死刑執行の待機室にカポーティが入るところから手持ちの揺れるカメラになるのだが、
これも、まさしくカポーティの揺れ動く心象に他ならない。
図らずも死刑執行に立ち会わざるを得なくなる彼が、首にロープが巻かれたペリーの
足元が抜けた瞬間のガターンという音に驚愕し、覚醒するシーンは
彼が、ペリーに対して取ってきた態度がいきなり現実に引き戻された印なのだろう。
天才の悲劇、というのは易しい。が、あるいみカポーティの嫌らしさやスノッブな願望を
描き、砕いたこの映画は、やはり味わい深い。
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                   犯人のペリーとディック(映画より)
この映画でオスカーを獲得したシーモアは、天才と狂気がないまぜになり、名声と真実の
間で崩れていく小説家を演じ見事であったことは確か。

「冷血」の完成を手伝った、ハーパー・リーは後に「アラバマ物語」(原題:モッキンバードを
殺すために)を完成させ、これがグレゴリー・ペック主演で映画化され、ペックはこれで
オスカーを獲得する。そしてハーパー・リーはピュリッツアー賞も獲得する。
「カポーティー」の中で、映画「アラバマ物語」の試写パーティーに参加したカポーティーが
リーがそばから去ったとき、「騒ぐほどの映画じゃないな」と語るシーンがあるのだが、
天才カポーティーと秀才ハーパー・リーの事象の捉え方を示していて大変興味深い。
是非、「アラバマ物語」を映画でも原作でも味わいたくなった。
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    「アラバマ物語」試写会に現れたカポーティ(こういう場が好きだったんだな=映画より)
    このシーンに流されるBGMはジョン・コルトレーンの「Easy To Remember」だったり
    する・・・。
なおこの映画の詳しい情報は

こちら
まで。
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by jazzyoba0083 | 2007-12-23 22:50 | 洋画=か行 | Trackback(2) | Comments(0)