インサイダー The Insider

●「インサイダー The Insider」
1999 アメリカ Touchstone Picures,158min.
監督:マイケル・マン、脚色:エリック・ロス、マイケル・マン
出演:アル・パチーノ、ラッセル・クロウ、クリストファー・プラマー、ダイアン・ヴェノーラ他
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1999年度アカデミー賞で7部門にノミネートされながら無冠に終わった話題作。
「コラテラル」「ラスト・オブ・モヒカン」のマイケル・マンが、実話に基づき作り上げた158分の
長編社会派重厚映画だが、やたら固いか、というとさにあらず、エンタテインメントとしても
成功している。久しぶりに見ごたえのある社会派映画であった。
CBSの名物ドキュメンタリー番組「60 Minutes」のプロデューサー(アル・パチーノ)と
彼に内部告発のインタビューを撮らせる、たばこ会社の元重役(ラッセル・クロー)が
中心となって話は進むが、いくら実話だからといって、実際にあるたばこ会社B&Wや
フィリップ・モリスなどが実名で出てくるし、CBSやニューヨークタイムズのキャスターや
記者も実名で出てくる。このあたりはアメリカらしい。

アル・パチーノはどの映画に出ても、どんな役をやってもハマってしまい存在感を重く感じ
させる俳優さんだが、今回はラッセル・クロウも、心揺れるたばこ会社元重役を上手く演じて
いた。脇を固めるプラマーらの配役もまことによろしい。

CBSの敏腕プロデューサー、バーグマン(アル)の元に分厚いたばこ会社の極秘文書が
送られてきた。内部告発と思われるが、彼では中身が読めない。そこで、アメリカを代表する
たばこ会社B&W社の元重役ワイガンド(ラッセル)に接触、彼にこの文書を読み解いて
くれるように依頼する。
ワイガンドは、会社と対立して首になっていた。子供は小さく喘息の持病を持っており、家族を
養っていかなくてはならない。彼と会社の間には辞めてもなお有効な守秘義務の契約が
ある。しかし、会社が国民の健康を無視してタバコに仕掛けた悪さを告発せずにはいられ
なかった。また、バーグマンは、ワイガンドにインタビューすることで、たばこ会社の議会証言が
嘘であることを告発したかった。二人の思惑は一致し、インタビューは成功、バーグマンと
組んで活躍してきた局の顔ともいえる、著名なキャスター、マイク・ワレスとともに、編集を
仕上げて放送直前までいった。

また、ワイガンドは、ミシシッピ州の裁判所が、法的に証言を禁止したにも関わらず、勇気を
もってたばこ会社の不正を告発したのだった。
ワイガンドは、これまでジョンソン&ジョンソンやファイザーといった健康産業に勤務してきた
化学者であったが、B&W社から破格の待遇でヘッドハンドされたのだが、自分のやっている
仕事に疑問を覚え経営陣と対立、やがて首、告発となったのだ。彼は辞めてから学校で
化学と日本語を教えて生活をしていた。

しかし、放送直前で、CBSの首脳部は放送中止を言い渡す。法律を破る恐れのある放送を
流すことで、買収交渉が進んでいるCBSに不利になるし、最悪の場合B&W社の子会社に
なってしまうかもしれないと言われてしまった。しかし、バーグマンとマイクは、告発者との
約束はジャーナリストとして破れない、と放送を主張するが通らない。

そこでバーグマンは、CBSの経営陣が、たばこ会社の告発のビデオの放送を圧力を加えて
中止させたという中身をニューヨークタイムズの友人に売り込む作戦にでる。

タイムズは、バーグマンの言っていることの裏を取り、1面トップで報道したのたった。
これにより、世論はバーグマンとワイガンドの見方となり、ワイガンドは告発者として守られ、
二人の娘に勇気ある親の姿を見せてやることもできたのだった。

アメリカという国の企業の持つ闇と、ジャーナリストの戦いは見ていて考えさせられるとともに
自分の会社の経営陣に「F○C○ YOU!」と言い放つ、バーグマンやワイガンドの姿勢に
痛快さを覚えた。長い映画ではあったが、アル・パチーノの圧倒的な(最初はだらしなくいい加減だが、仕事はきちんとやるタイプのジャーナリストか、と思ったら、今回は徹頭徹尾、硬派
な報道マンに徹していた。)存在感は、いつものことながら素晴らしい。
この告発でたばこ会社は巨額の賠償金を払うことになったことは、皆さんもご存じだろう。
そしてワイガンドはカリフォルニア州で最も優秀な先生に選出されたりもした。いまでも
健在であるそうだ。バーグマンは会社に楯ついた結果になったので、あっさり会社を辞め、
公共放送で記者をする一方、カリフォルニア大学でジャーナルズムを教えているそうだ。

正義を通し、会社とぶつかり、あっさり辞めて、別の生き方を生きる・・羨ましいな。そして
彼を理解しそっと支える妻の存在も見逃せない。長い分、色んな方面を描けていたし、
それが散漫になっていなかった点も評価できよう。アル・パチーノの役どころがやや左より
だった点がアカデミー会員に嫌われたかも。ちなみにこの年の作品賞は「アメリカン・
ビューティー」だったわけだが、こちらもキリスト教的アメリカ既存道徳概念を淫微に壊して
見せた作品であったのだから、どっちもどっちという感じだけど。やはり芸術としてみれば
アメリカン~に軍配があがるのかなあ。
この映画の情報は

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まで。
by jazzyoba0083 | 2008-09-29 23:20 | 洋画=あ行 | Trackback | Comments(0)