2008年 11月 10日
お茶と同情 Tea and Sympathy
1956 アメリカ MGM 122min.
監督:ヴィンセント・ミネリ
出演:デボラ・カー、ジョン・カー、リーフ・エリクソン、エドワード・アンドリュース他
デボラ・カー没後1週年を記念してWOWOWが特集した彼女の作品の1つを見てみました。
ロバート・アンダーソンの原作・脚本でブロードウェイでヒットしたお芝居を映画化したもの。
人の動きやせりふ回しが舞台劇っぽいが、これをヴィンセント・ミネリが上手く映像化した。
作品中デボラ・カーのセリフが示唆に富んでいるのもそのせいだろう。
2時間を超える映画で最初はタルく、何の話が始まるのか、出ている人たちはどういう人
なのか分かりにくいが、大学1年の寮生トム・リー(ジョン・カー)が、女性っぽくて、他の
寮生からシスターボーイと呼ばれていて、そのことを気にしているのだが、これを母性なのか
愛なのか判然としない態度で接してくる優しい舎監夫人ローラ(デボラ)との話が進行するに
つれて、一気に観切ってしまった。舞台がオリジナルだけに、セリフが多い劇、という感じが
どうしても出てしまうのは仕方のないことか。
deluxeでないMGMオリジナルのカラーが、どこか時代を感じさせる。文芸調の映画には
上手くはまっていた感じだ。タイトルの「お茶と同情」は、原題の直訳だが、これの意味は
舎監というものは寮生との間を「お茶と同情」くらいにしてつかず離れず巻き込まれず、という
態度こそ大事、というルールみたいなもの。
このルールを逸脱して他の寮生から、女性っぽいといってからかわれるトム・リーを過剰に
まで感情を移入してしまう舎監夫人ローラ。彼女は、再婚した舎監の夫が最近冷たいので
その愛情をトムに求めていたのだった。そしてトムもローラに淡い恋心を抱いていたのだ。
トムをかばうルームメイトの悩み、トムを一人前の男にしたいと考え、多少の野蛮なことも
構わないという父親との相克、そしてローラと舎監の夫との間の冷えた愛情などリーを
中心とはしているが、様々な人と人との「男らしさ」に対する感覚や、人を愛することの形、
などを示唆に富んだセリフに埋めて展開する。
「ほろ苦い思い出は人生を味わい深いものにするわ」なんて、若い人には判らんだろうなあ。
友達にそそのかされて酒場の女のアパートに行って自暴自棄になり包丁で自殺を図る
トム。彼をひたすらかばうローラと夫との間の亀裂は決定的になる。
映画は冒頭、大学の同窓会の様子から始まり、トム・リー(今や作家として成功している)も
やってきて(周りのみんなはよく来れたな、なんてまだ言っているが)一人、自分の生活
していた部屋に行ってみた。そこからの回想という形で映画が進んでいく。そして、ラスト、
また現在に戻り、舎監にあいさつに行くと、ローラはもう出て行ってしまっていて、トムに
手紙を残していた。そこには、ローラもトムのことを愛していたことが遠まわしに書かれていた
のだった・・・。
デボラ・カーという女優さんは「地上(ここ)より永遠(とわ)に」や「王様と私」などで知って
いたが、30代なかばの彼女は初めてかな。アメリカ女性でにはないイギリス出自の
気品、歳を経てもお人形さんのような美形。かつてハリウッドの女優とは、彼女のような
人を言ったものだ。主題歌「愛の喜び」はクライスラーのものではもちろん無く、
私の耳にはエルビスの「愛さずにはいられない」に似ているように感じた。
<後述>後で調べたら、上記の「愛の喜び」はフランスの作曲家マルティーニの手になる
有名な歌曲(プレジール・ダムール)で、ユーチューブで、いろいろなバージョンを聞くことが
出来ます。プレスリーの「Can't help falli' love」は、これは下敷きに作曲されたという
ことで、似ているはずだ。