悲愁   Beloved Infidel

●「悲愁 Beloved Infidel」
1959 アメリカ 20th Century Fox Film Co.123min.
監督:ヘンリー・キング 原作:シーラ・グレアム「愛しき背信者」
出演:グレゴリー・ペック、デボラ・カー、エディ・アルバート、フィリップ・オバー他
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「慕情」のヘンリー・キングが、当代の美男美女で製作した、大メロドラマ。ではあるが、
ベースは、フィッツジェラルドの実話であり、彼の最期に立ち会った愛人、シーラ・グレアムの
「愛しき背信者 Beloved Infidel」に基づくセミドキュメンタリー風。

F・スコット・フィッツジェラルドは、むしろ死後評価が定まった作家だロアリングトゥエンティを
代表する、またロスト・エイジとかジャズエイジとかフラッパーとかの代表選手のように
言われるが、実は44歳でその生涯を終えていて、かなりハチャメチャで、悩み深き生活を
送っていた人だった。ナイーブであったということが出来るかも知れない。妻ゼルダの病も
影響したかもしれない。

この映画は「華麗なるギャツビー」「夜はやさし」などでもうすっかり時代の寵児となった
フィッツジェラルドが、次第に没落し、本を書かなくなり、映画の脚本を書いて口に糊し、
また総合失調症で入院中の妻ぜルダと娘を養うため、何でもやっていた「ハリウッド時代」
のお話だ。

ここに登場するのがイギリスからやってきたシーラ・グラハム(デボラ)。彼女は物書きと
称して新聞社への売り込みに成功、あるパーティーで、フィッツジェラルドに出会うところから
始まる。二人はたちまち恋に落ちるが、映画化されるはずのフィッツジェラルドの脚本が
駄目になり、アルコールに頼り始めたころから二人の間に亀裂が入るようになる。
さらに、シーラはイギリスで公爵の婚約者がいる貴族出身としていたが、実は孤児院育ちで
コーラスガール上がり。母に勧めらた結婚から逃げるように渡米し、身分を偽って芸能コラム
ニストを夢見ていたのだった。シーラを愛したフィッツジェラルドは、彼女のすべてを知りたく
なり、しつこく聞く。ついに彼女は自分の本性を打ち明けたのだった。しかし、彼はシーラを
許すのだった。

しかしアルコールに依存したフィッツジェラルドは、彼女が獲得したラジオのハリウッド情報の
リハーサルスタジオに酔って闖入し、シーラの激怒を買ったり、それに反省し、カリフォルニア
のマリブに引っ越し、遺作「ラスト・タイクーン」を書き始めシーラを安心させたが、これも出版社から出版を拒否され、また酒におぼれ、挙句の果てにシーラに暴力を振るったのだ。これにはシーラも頭にきて、縁を切った状態になる。

自分のしたことを痛く反省したフィッツジェラルドはまた酒をやめ、彼女に「君は僕の宝だ」
もう絶対失いたくないからと、「ラスト・タイクーン」の執筆に精を出す。そしていよいよその本が
書店に並ぶことが決まった日。
書きあげたらヨーロッパへ旅行しよう、と束の間の平和の時が訪れていた。しかし、そんな楽しい会話の最中、フィッツジェラルドは心臓発作でたおれ、不帰の人となってしまったのだった。
ラストはマリブの砂浜を一人歩くシーラの姿・・・。
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彼女の自伝がどこまで本当のことを書いてあるのかは知らないが、ここでは、ロマンチックな
大悲恋話に仕立て上げられている。グレゴリー・ペックはフィッツジェラルドのイメージとは
ちょっと違うかな、という感じがした。デボラ・カーは、相変わらず御人形のように美しいが
シーラの屈折した人生からすると、いささか美人にすぎた、かも知れない。

「ラスト・タイクーン」4章までが出版社から拒否されたことで、シーラに暴力を振るった
フィッツジェラルドは、大いに反省し、君を傷つけた自分が許せない、君は自分の幸せを
みつけるべきだ。さようなら、という置手紙に自宅リビングで懊悩するシーンがあるが、私は
ここが彼女のこの映画での最高の演技だと思った。スーツの腰に片手を置き、片手を額に
当てて悩む姿は、1級品だった。時代は1936年の設定で、ロンドンから来た彼女が
北米新聞同盟で売り込みをするシーンでボスの秘書が持ってきてくれるのが瓶入りの
バヤリースであるのが懐かしい。以前の「お茶と同情」にも50年代にネスカフェが出てくる。
そんな生活文化を見とれるのも映画の楽しみであります。
この映画の情報は

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by jazzyoba0083 | 2008-11-17 22:55 | 洋画=は行 | Trackback | Comments(0)