母べえ

●「母べえ」
2007 日本 松竹映画 「母べえ」製作委員会(テレビ朝日系テレビ局他)、132分
監督・脚本:山田洋次
出演:吉永小百合、坂東三津五郎、浅野忠信、檀れい、志田未来、佐藤未来、中村梅之助他
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『黒澤明作品のスクリプターとして知られる野上照代の自伝的小説『父へのレクイエム』
(改題『母べえ』)を、「男はつらいよ」「武士の一分」の山田洋次監督が吉永小百合を主演に
迎えて映画化した感動の反戦ヒューマン・ドラマ。

ある日突然夫が治安維持法で投獄されてしまうという苦境の中で、夫を信じ続け、
つつましくも気高き信念を失わず、残された2人の娘を守るため懸命に生きた一人の
女性の姿を描く。
 昭和15年の東京。野上佳代は、愛する夫・滋と2人の娘、長女の初子と次女の
照美と共に、つましいながらも幸せな毎日を送っていた。互いに“父(とう)べえ”“
母(かあ)べえ”“初べえ”“照べえ”と呼び合い、笑いの絶えない野上家だったが、
ある日、突然の悲劇が一家を襲う。文学者である滋が、反戦を唱えたことを理由に
特高刑事に逮捕されてしまったのだ。
穏やかだった生活は一変し、不安と悲しみを募らせる母と娘たち。そんな中、滋のかつての
教え子・山崎や滋の妹・久子、放埒で型破りな叔父・仙吉らが一家のもとに駆けつけ、佳代と
娘たちを優しく親身に支えていく。』(allcinema)
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これは山田洋次作品としては評価が分かれるだろうな、と思ったら、案の定、allcinemaの
コメントはかなり辛口である。
いわゆる『昭和もの』を山田洋次が作ったらこうなりました、ってところだろうか。明らかに
反戦ムードは漂っているものの(字幕の表記がまず西暦で、昭和はカッコで表示してある
点にも、監督のこだわりを感じた。私ら世代は昭和16年といえば、西暦でいわれなくても、
十分印象深い歳であるわけで)
むしろ吉永小百合の作品であり、ある女の生き方の話であろう。そして、母が母であり、
父が父であり、子が子であり、家族が家族であった時代の、政治的には非常に酷な時代では
あったが、精神的には今よりは豊かであったであろう、昭和が描かれている。

支那事変に反対したことから、投獄されてしまった大学の先生である父べえ。厳しい時代で
なおかつ母べえの父は山口で警察署長をしている立場からしても、嘘でもいいから
転向したようにしてやればいいのに、絶対信念を曲げない。そんな夫を信じて支える母。
そして家族。さらに大学の教え子で、母べえに淡い想いを寄せ、夫のいない野上家を
支える、山ちゃん。加えて、野上の妹で広島から出てきて絵の勉強をしながら、やはり
野上家を支える久子おばさん(檀れい)など、心優しい人びとに支えられながら、母べえは
生きていく。
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昭和15年から終戦までの母べえの生きざまとそれをとりまく人々、また暗い世相を描く。
野上は遂に転向せず、獄死、広島に帰って行ったところで原爆にあって死んでしまう久子
おばさん、耳が悪いのに臨時徴収令状により、徴兵され、南方の海に消えた山ちゃん。
幸せはどんどんと母べえの周りからはぎ取られていく。
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そしてエンディングは、高校の美術教師になった次女照べえ、医者となった長女初べえが
死の床にいる母べえの最期の言葉に耳を傾ける。さよなら、世話になったね、という母に
「もうすぐ父べえや山ちゃんや久子おばさんにあえるものね」というと、母は、「生きている
父べえに会いたかった、死んで会うなんていやだ」と。

昭和10年代後半という近代日本史上最も過酷な時代に生きた野上佳代という女性の半生を
吉永小百合が淡々と演じていく。その間にエピソードがいろいろと配されて。
感動的な映画で、戦争の不条理を訴えかけてくることは判るが、なぜ今、山田洋次が
作らなくちゃいけなかったのか、よく判らない。この手の匂いのする作品はこれまでも
いろいろあったろう。今の作品としては古い感じがする。「母」という存在が、昔は今より
強烈な存在であったのだ、ということを言いたかったのかな。時代設定からしてもそんな
感じだ。話の内容も古い感じだ。実話に基づいたのならきちんと説明してから入る手も
あったのではないか。
吉永小百合の演技は安定感があり流石だが、贅沢かもしれないが、高止まりの感じもする。

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by jazzyoba0083 | 2009-02-14 18:05 | 邦画・新作 | Trackback | Comments(0)