2009年 02月 27日
こわれゆく世界の中で Breaking and Entering
2006 アメリカ Miramax Films,Mirage Enterprises,119min.
監督:アンソニー・ミンゲラ 製作:シドニー・ポラック、アンソニー・ミンゲラ、ティモシー・ブリックネル
出演:ジュード・ロウ、ジュリエット・ビノシュ、ロビン・ライト・ペン、マーティン・フリーマン他
昨年、惜しくも病気により急逝した才人、ミンゲラの作品。「イングリッシュ・ペイシェント」「コールド
マウンテン」など、彼の作風は、「重い味わい」だと思う。この映画も、観ているうちに「味わいある
映画だなあ」と感じるのだが、その味わいは、普通ではないな、と気が付いてくる。そして好悪の別れる
エンディング。本作は、ありふれた生活に潜む愛情のやりとりを、セリフの豊かな感性を通して描いた。
スカッとする映画ではないが、いかにもイギリスの曇り空を背景にした人間のありようは、心に迫るもの
だった。私としては高評価である。
イギリス・ロンドンのキングス・クロス地区。移民も多く住み、犯罪の多発地帯としても知られるところ。
そんなキングス・クロスの大規模再開発に関わる会社の共同経営者にして建築家のウィル(ロウ)は
リヴ(ライト・ペン)という女性と、リヴの連れ子であるビーという少女と同棲してすでに10年が経つ。
最近は会話もなく、心がすれ違う生活。本来芸術家としての仕事をもっているリヴであるが、ビーが
情緒不安定、睡眠障害を持つ障害児であることから、仕事をあきらめ家事に専念している。
そんな折、キングス・クロスに越してきたウィルの設計事務所が、少年を使った窃盗チームに荒らされ、
ウィルは、全てが入ったコンピュータを盗まれてしまった。
犯人の少年の一人がボスニア難民のミロ。2度目に入られたときから、外に止めたクルマの中で不寝番
をしていたウィルの目の前で、事務所に入ろうとする少年を発見、追いかける。そして少年が入って
入ったアパートの部屋を確認して戻ったのだった。
洋服を仕立てなおします、という看板が出ていたそのアパートに、後日ウィルは客を装って行って見る。
着替えに使った息子の部屋に、ジオラマに使っていた日本製のフィギアがあった。母親はアミラ(ビノシュ)
といい、ボスニアからの難民で、夫は戦争で殺されたという。ウィルは、この母親に一目で惚れてしまった。
それからいろんな服を修理に持ち込むウィルであった。ある日、息子が学校から帰ると、部屋にウィルの
会社の名刺があった。息子ミロは、盗みに入り損ねた日、追いかけられてここまでつけられた、と確信し、
あいつはみんな知っているんだよ、と自分の犯行を認め、大事なものらしいコンピュータを返そう、と
言う。アミラは自分があって返してくる、と工事現場のウィルを訪ねるが、ウィルは、アミラの友人の家に
彼女を引っ張り込み、寝てしまう。お互いに純粋な愛情かと思っていたら、アミラは眠ってしまったウィルと
裸で一緒にいる写真を友人に写真に撮らせた。息子を警察に渡させないための武器に使おうというのか。
窃盗の捜査に当たっているブルーノ刑事は、ウィルらの犯行であると睨んでいたが、ウィルに追いかけられ
たとき、手に怪我をしたウィル、その血液のDNA鑑定で犯人と特定され、警察がアパートに乗り込んで
来た。逃げるミロと友人だったが、警察に包囲され逮捕されてしまう。
母親アミラは、ウィルに息子に不利な証言はしないように、刑務所送りにならないようにと懇願するが、
その頃までにはアミラが不貞の写真を撮っていたことをウィルに打ち明け、二人の間にはぎくしゃくした
空気が生まれていたため、ウィルは、アミラの懇願を拒否する。
犯人逮捕の知らせを持ってきたブルーノ刑事ら警察の一行と工事現場で話こんでいいるうちに、現場に
連れてきていた娘のビーが、積み上げたパイプの上に乗って転落、足を骨折してしまう事故が起きた。
自分が不注意だったと責めるウィル、この事件をきっかけにリヴとの関係がいい方向に向かい始める。
そしてウィルは、なんとかリヴとの関係を元に戻したいと、アミラとの関係を打ち明ける。
ミロの審判が始まった。証言を拒否していたウィルだったが、リヴを伴って会場に現れ、パソコンはアミラに
教えようと貸したものを忘れていたのであり、ミロのけがは、会社に遊びに来てくれた時のものであって、
その時リブが手当てをした、とリヴも口裏を合わせてミロの無実を主張する。びっくりするアミラや
共同経営者であったが、刑事はミロはもともとそんなにワルじゃないと見通していたのだった。
審判会場からの帰り道、リヴに、アドリブで口裏を合わせてくれたことに感謝するウィルだったが、リヴは
突然クルマを止めさせ、あなたは全然判ってない!と降りてしまい、もう家にかえらないで!とどなり
散らす。愛しているんだ、と引き留めるウィル、悪かった、と謝るウィル。
結局、二人は別れるだな、これでエンディングか、と思わせておいて、引き留めに来たウィルに飛びついて
抱きしめるリヴであった・・・。ん、なんじゃこれ? 男女の愛情は判らんなあ、あんなに愛していたと
思ったアミラとの関係はさっさと清算しちまうし。
ジュード・ロウ、そして中年女の世間にしがみつかざるを得ない情念と愛情を、文字通り裸でぶつかった
ビノシュ、難しい役柄を淡々とこなしてみせたロビン・ライト・ペン。特に女性陣2人は決して美人でない
ところが、ストーリーに現実味を加えていた、と言えるでしょう。リヴの連れ子ビーの存在が、いい配置で、
不安定な2人の愛情にさらに不安定さを加えて見せている。
ミンゲラの描く独特の男女の愛情の世界。原題は破壊と登場、とかの意味かな、邦題は、いいタイトル
とは思うけど、何か精神の破滅みたいな、あるいはアフガンかイラクの話のように取られなくはない、と
感じた。エンディングはどうでしょう?あのままリヴがウィルと離れていったら普通の話なんでしょうね。
復縁を匂わせて終わって行った方が、男女の愛情の複雑さを一層際立たせることになるのでしょう。
「重い味わいを持った佳作」と言えるでしょう。
この映画の情報はこちらまで。
『愛をこわす―― それは、真実の愛へと至る、唯一の方法。』 コチラの「こわれゆく世界の中で」は、2人の対照的な女性の間で揺れ動く男性をジュード・ロウが演じるPG-12指定のラブ・サスペンスです。 「ベオウルフ 呪われし勇者」でも、書いたけどこの映画でもや...... more