ワルキューレ VALKYRIE

●「ワルキューレ VALKYRIE」
2008 アメリカ MGM Pictures,United Artists,121min.
監督:ブライアン・シンガー
出演:トム・クルーズ、ケネス・ブラナー、ビル・ナイ、トム・ウィルキンソン、カリス・ファン・ハウテン他
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私は戦記ものが好きで、WOWOWでも時々過去の名作を見たりしているのですが、ピーター・
オトゥール主演の「将軍たちの夜」という映画で、本作の「ワルキューレ作戦」というものを知りました。
「将軍たちの夜」は作戦とは関係ない話でしたが。

この映画は若い女性にとってはよほどのトム・クルーズファンか歴史好きでないとむずかしいでしょうね。
今日もエンドロールの時横で泣いていた若い女性は、たぶんトムの大ファンなんでしょう。泣く映画じゃ
無いと思うのだがなあ。よほどの人類愛に満ちた人でないと。

結末の判っている史実をベースにした映画は、ラストが判っているだけに、どういう風にテンションを
保てるかが、脚本家と監督の腕の見せどころでしょう。その点ではこの映画はエンタテインメントと
しては成功していると思う。ただ、ドイツ人の中にもいた正義の人、という側面からみると、全体に底が
浅く、単調な描写に終始した感じだ。ドイツ人がどう見るでしょうかね。アメリカ人の演じた自分の国の
英雄の姿を。

ワルキューレ作戦の首謀者シュタウフェンベルグ大佐(トム)は、ドイツ国民なら知らない人はいない
ほどの国家的英雄であり、通りの名前にまでなっている人物。これまでもワルキューレについては
メディアで取り上げられる機会も多かった。それをどう見せたかったのか。「ユージュアル・サスペクト」
の監督だし、脚本も同作品でオスカーを獲ったクリストファー・マッカリーだし、下手はしまい、と期待して
封切りの日の映画館に足を運んだわけです。
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舞台はまずドイツ語で日記を綴るアフリカ戦線のシュタウフェンベルグ大佐から始まる。自身のナレー
ションがドイツ語からやがて英語に換わり、あとは全編英語で展開される。もちろんヒトラーも英語を
しゃべります。
彼は、祖国を愛しているからこそ、現在のヒトラーの専制政治が気に入らない。なんとかしなければと
思っている。そころのドイツ軍の上層部には、ヒトラーのやり方に不満を持っている将軍や佐官もかなり
存在した。砂漠の部隊の将軍もそうだった。しかしシュタウフェンベルグはイギリス軍の空襲に遭い、
左目、右手、左の指を数本失ってしまう。
本国に帰国したシュタウフェンベルグは、ドイツ国内で反ナチス派によるクーデターが起こった場合、
すべての軍属はいちど階級を解かれ予備役兵が動員されてクーデターを制圧する仕組みを考案し、
「ワルキューレ作戦」と命名して、ヒトラーの承認も得た。実はこれを利用して、ヒトラーを暗殺し、
これを過激な親衛隊の仕業と見せかけ、クーデターを鎮圧する、という目的で全軍を掌握し臨時政府を
うちたてようというものだった。(この辺、ややこしいでしょ??)

ヒトラー暗殺はそれまでにも40回以上も実行されていて、ことごとく失敗している。多くの将軍や上級
将校も加担したこの作戦は、果たしてうまく行くのだろうか。本作のなかでも、飛行機で移動するヒトラー
の爆殺を狙ったトレスコウ少佐の「コアントロー」作戦も描かれている。
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シュタウフェンベルグは、国内予備役参謀長に昇進したことからヒトラーも出る会議に出席する機会も
多くなった。彼はカバンの中に爆薬を忍ばせ、「狼の巣」と呼ばれるヒトラーの会議場に出入りするが、
ヒトラーだけではなく、ヒムラーやゲッペルスも一緒に消したかった。そんな機会はめったになく、
チャンスはなかなか巡ってこない。そして遂に1944年7月20日、会議の席に爆弾入りのカバンを置き、
自分は電話がかかってきたということで、外にでた。
爆発は起こったが、ヒトラーの生死は確認できなかった。(会議の参加者が机の下のカバンを、じゃまだ
ということで移動してしまったのだ)シュタウフェンベルグは、仲間の待つ司令部にヒトラーは死亡したので
「ワルキューレ作戦」を発動させるよう、無線で指示するが、優柔不断な将軍により、行動が遅れる。
一度は予備役で交通要衝とかSS本部などにも、ナチスを逮捕する部隊が向かうが、ヒトラー存命の報は、
たちまち全軍に知られることとなり、シュタウフェンベルグら反乱軍は、逮捕、即日銃刑に処せられる。
処分を命じたフロム上級大将は、ヒトラーの生きて捕らえよ、という命令に従わず勝手に処刑したことを
「口封じ」と見られ逮捕された。彼、フロムこそ、煮え切らない自己保身の塊のような人間で、
シュタウフェンベルグらを右往左往させた張本人だったのだ。彼はのち裁判で死刑になる。
因みに砂漠の鬼と恐れられたロンメル将軍も、この作戦の嫌疑を受け、自殺を強要された。(この件は
映画にはない)

シュタウフェンベルグは、銃殺の際、「神聖なるドイツ万歳!」と叫ぶが、彼の祖国や国民・家族への
思いは最後まで変わることはなかった。

この「ワルキューレ作戦」というものは一口ではなかなか語るには長い話なので、いちど
こちらの
Wikipedia「ヒトラー暗殺計画」を一読されることをお勧めする。

ナチの悪行を暴いたり描いたりする映画は多いが、あの戦争中、ドイツ国民が全員ナチス=ヒトラーに
唯々諾々と従っていたわけではなく、己の良心に従って反抗したドイツ人もいたのだ、という勉強にはなる
と思う。だがなあ、観終わって、作戦実行から失敗までの描写などはテンポよくスリリングだったが、
シュタウフェンベルグの内面とか、妻(「ブラックノート」で主役を演じた女優さん)の気持ちとか、作戦に
関わった主要人物の背景などが描かれると厚みのある映画になったのではないか、と痛切に感じた。
トム・クルーズという人気俳優を使い、この歴史的事実を知らしむることには意義はあると思うし、エンタ
テインメントとしては、まあ許容範囲だが、映画としての完成度はどうなのか。
休日のシネコンの小さめのスクリーンはほぼ満員で、中高年のおじさんが多かったかな。
<観てから1日経過しての感想>
映画を反芻すると、マッカリーの脚本は複雑な「ワルキューレ作戦」とシュタイフェンベルグ周辺の話を
2時間に上手く纏めてあった。そのあたりエンタテインメントとしては上々だろう。ただ、いささが難儀なの
は、たくさん出てくる将軍たちの名前と顔と敵味方の区別が判然としなくなる、ということ、そして作戦を
会話で説明しようとするから、字幕を追うのが忙しい、その中で名前と行動と場所を理解していくには
相当の理解力が必要ではないか?トム・クルーズだが、一部の人は彼のシュタイフェンベルグに嫌悪を
示しているが、私は、良かったんじゃないかと思う。隻眼・ドイツ軍服のトムはカッコイイ。しかし、その
カッコ良さの裏側に、ヒトラー(ナチ)を憎み、自己や家族を犠牲にしても、国を救いたいというクールな
(別の意味では熱い)意思がメタファーとして表出されていたと捉えることが出来た。そのあたりは監督の
ブライシンガーの力量も大きかろう。

この映画の情報はこちらまで。
by jazzyoba0083 | 2009-03-20 12:20 | 洋画=ら~わ行 | Comments(0)