おくりびと

●「おくりびと」
2008 日本 松竹、TBS、セディック、小学館、アミューズ・ソフトほか 130分
監督:滝田洋二郎  脚本:小山薫堂 音楽:久石譲
出演:本木雅弘、広末涼子、山崎努、余貴美子、吉行和子、笹野高史、杉本哲太、峰岸徹(故人)ほか
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<2008年度アカデミー賞外国語映画賞受賞作品>


ついに観ました「おくりびと」!第一印象、こんなに長い映画だとは思いませんでした!が、いい映画
でした!すでに評価の定まった映画に、私ごときが何を言えというのしょうか。3回、のどの奥が熱くなり
殆ど泣きそうでした。特に、笹野さん演じる、火葬場のおじさんが、「私は旅立ちの門番だと思うております。
何人の人の新しい旅立ちを見送らせてもらったことでしょう。声をかけるんです。『また、会おうの』ってね。」
このときは、ほとんど涙が流れました。
そして、納棺に遅れたと叱った喪主(夫)が、亡くなった奥さんの死に顔が山崎努演じるNKエイジェンシー
の佐々木社長の手で、美しくなったとき、「ありがとうございました。今までで一番綺麗でした。本当に
ありがとうございました」と本木と山崎に深々と頭を下げるところも、ほとんど泣きそうでした。
(この場面で、本木演じる小林大悟は、納棺師の仕事の素晴らしさを心から理解できた)
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そして、エンディング。小林が6歳の時、経営していた喫茶店のウエイトレスと家出してしまったオヤジと
30年ぶりで遺体で対面。幼いころ、父親と近所の河原で交換した「石文(いしぶみ)」の、
小林少年が父に握らせた石が、亡くなったオヤジの握りしめた手からポロリと落ちた時も、ほとんど
泣いていました。

極めて日本的なメンタリティーの中で、死に向かいあうことによって生を見つめる、という主張、そして
滝田監督も言うように「だれもが、おくりびと、おくられびと」という、ある種、達観した生死観が判り易く
主張されていく。
納棺師という、映画になりづらい題材を取り上げ、その職業に対する一般的な忌避観も提示しながら、
日本人的な、「死は不浄」という概念を、彼らの仕事を通して拭い去り、死を真正面から取り上げることに
より誰もが避けれれない死にゆくことへの尊厳までをも、表出させている。ラスト、石を妊娠した妻の
腹に当てるシーンは、まさに仏教でいうところの輪廻転生の他ならない。脚本の小山薫堂のペンが
冴えるところだ。

本木の元チェリストで納棺師が、特殊な職業についてしまった男の戸惑いと、その職業に目を開かされて
いく心の動きが、抑え目だがひょうひょうとした中にも感情豊かに演じられていてよかった。
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小生としては、山崎努の演技に感心した。「安らかな旅のおてつだい」という誤植(確信犯?)のチラシを
折込み、それを見た本木を面接、自分の後継に仕立てようとする、納棺の会社の社長佐々木を演じて
いるのだが、演技の確かさ、重み、自然な所作、せりふ回し、どれを取っても、この映画にはなくては
ならない存在だろう。広末涼子という女優を小生はあまり好まないが、ぎりぎりセーフだったかな。
後は、笹野、吉行、杉本という芸達者で脇を固め、演技陣としては盤石だった。
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小生のオヤジが亡くなった時も、こういう人が来られましたね。美容院の人が着るような白衣を着ていらした
が。それと、本木のような格式のある所作はなかったですね。

雄大な山形の自然と、人間の生と死というテーマとを溶け込ませた映像の美しさもまた、この納棺師という
職業を描く映画にとって大きな味方になっているだろう。

ストーリーはごく簡単で、一線級とは言い難いチェリスト、小林はやっとのことで東京のオーケストラに採用
された。奮発して1800万円もするチェロを買ったものの、早々にオーケストラは解散。小林は自分の
能力にも限界を感じ、故郷山形に帰って、他の職を探すという。妻の美香(広末)も、夫の行動に賛成し
夫の生れ故郷に帰ることに賛成する。
2人が落ち着いたのは、父が始めたものの、ウエイトレスと家を出てしまったため、母親が一人で経営して
いた喫茶店。その母も2年前に他界していた。
職を探す小林の目に留まったのが、「安らかな旅のおてつだい」というチラシ。さっそく面接に行くと、
出てきた社長(山崎)から一発で採用の決定が。月50万でどうだ、と言われびっくり。で、何を・・・と尋ねる
小林に、「遺体をお棺に納める納棺師だよ」と説明する。

手付金で山形牛を買ってきて、お祝を、と思った小林だが、妻に本当のことを言えない・・・。そのまま
小林の納棺師としての訓練?が始まる。社長佐々木の遺体に接する態度、そして遺族から喜ばれる様を
観ているうちに、納棺師の素晴らしさを肌身で感じていく小林であった。
しかし、やがて妻美香も彼の仕事を知るところとなり、「さわらないでよ、汚らわしい」などといわれ、実家に
帰られてしまう。小林は一人でも、もくもくと社長の見習いを続け、遂に独り立ちの日が来た。(冒頭の
シーン)
やがて美香も妊娠したことから帰ってきたが、「子供に言える職業に就いて」「一生涯の仕事なの」とか
まだ言っている。そうしたある日、古くからの付き合いだった銭湯のおかみさん(吉行)が亡くなる。
美香を伴って銭湯に行き、始めて、夫の納棺の儀式を見た美香は、亡くなった方をいとうしみ、最高の
旅立ちのお手伝いをする夫の姿に、はじめて彼の仕事への思いを理解したのだった。
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そして、ある日、6歳の時以来行き別れていたオヤジが亡くなったので、遺体を引き取りに来てほしいという
電報が届く。自分を捨てた父親の納棺になんて行きたくない!と言っていた小林だが、佐々木の会社の
女事務員(余)にぜひ行って、私も6歳の子供を北海道において出てきたの、だから・・・・と。
美香にも態度でうがなされ、美香を伴い、社長からもらった高級のお棺をワゴンの後ろに積んで、港町に
向かったのだった。そこには、女と逃げたけど、すぐに一人になってそれ以来独り身で生活してきた
70歳を超えた父親の亡骸があった。小林は、駆け付けた葬儀社のおざなりな納棺を拒否し、自分の手で
納棺の儀式を執り行ってあげたのだ。そして、父親の手から、小林が子供のころ河原で交換した小石が
こぼれ落ちた・・・

メインの話の外側を彩る、山崎、笹野、吉行、余、らの話題もそれぞれ生死観に繋がるものだ。
この手の映画は、時に価値観の押し売りになりがちだが、それをギリギリのところで抑え、なお日本人の
メンタリティーにフィットするように演出した滝田監督の力量も素晴らしい。遺体を直接触る納棺師という
仕事を、河原の石とかサボテンの花とか、白子料理とか、山形の四季などのメタファー的要素を加える
ことにより、映画に正しい厚みを付けることに成功した映画ということができるだろう。
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by jazzyoba0083 | 2009-03-23 23:20 | 邦画・新作 | Comments(0)