2017年 10月 31日 ( 1 )

婚約者の友人 Frantz

●「婚約者の友人 Frantz」
2016 フランス・ドイツ Mandarin Films.113min.
監督・脚本:フランソワ・オゾン  オリジナル脚本:エルンスト・ルビッチ
出演:ピエール・ニネ、パウラ・ベーア、エルンスト・シュトッツナー、マリー・グルーバー、ヨハン・フォン・
   ビューロー他
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<評価:★★★★★★★★☆☆>
<感想:とことんネタバレしています>
オゾンという監督さんの作品は今から11年前に「スイミング・プール」を観ただけで、当時のブログを
読むと、「良くわからない」と書いてあった。この監督の持ち味らしい。翻って本作、オリジナルが
有るとは言え、オゾン流にサスペンスという通奏低音をベースに、戦争で失った愛情の行方を、結構
「分かり易く」描いたものだ。欧州映画をたくさん見ているわけではないが、持つ味わいがやはりハリウッド製
にはないセンスを感じる。
ラストシーン。主人公アンナの覚悟がラストのマネの「自殺」という絵画を見ている姿を観て、本作が言いたい
ことが透けて見えるようだ。そこを観ている人がどう思うか、そのシーンがモノクロからカラー(色彩付き)
画面となるのをどう思うか、が本作を観る人の感想を決めるだろう。
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アンナが第一次世界大戦で婚約者を失い、自分の心の半分以上を失ってしまった人間になりかけたところ、
「婚約者の友人」フランス人のアドリアンが現れ、敵国の彼が何故婚約者の墓にフランスからわざわざ花を
手向けに来て涙を流しているのか。アンナが声を掛けると、彼はフランツとパリで出会い、バイオリニストである
アドリアンがフランツにバイオリンを教えたり、二人でルーブルに出かけたり、友情を深めた、と、嘘を言って
しまう。しかし、これにはアンナもフランツの両親も、息子や婚約者を殺した敵国の男とは言え、真の友情を
育ててくれた(と思い込んだのだが)アドリアンを好ましく思うようになった。
しかし、アドリアンは嘘に耐えきれず、自分こそ、フランツを殺したのだ、とアンナに告白する。

婚約者を塹壕で殺した人物そのものがアドリアンであったことに大きなショックを受けるのだが、彼もまた
アンナの婚約者フランツを射殺したことに耐えきれず人間としての心の大きな部分を失っていたのだ。
殺さなければ殺される、塹壕で出くわした相手をどちらが殺すか殺されるか、という戦争の持つ残忍な必然性
なのだが、アドリアンは自分を許すことが出来ず、ドイツまで許しを乞うために訪れたのだ。
アドリアンの気持ちを理解し始めたアンナは少しずつアドリアンに恋心を抱くようになる。

アドリアンはフランツの両親にも真実を告げたい、と主張するが、アンナは「私から伝えておくわ」と
いい、実は本当のことを両親には告げなかった。アンナは神父さんに懺悔を告白するが、神父も「言わずに
おいたほうがいい嘘もある。いまさら両親に真実を告げてどうなる。キリストが磔をした男たちを許した
ようにあなたも許されるであろう」と言ってくれた。

アドリアンはフランツの両親に好かれたまま。アンナはある日パリに帰ったアドリアンに手紙を出すが
住所がないとして戻ってきてしまう。その頃、フランツの両親はアンナにアドリアンをどうか、と考え始めて
いたのだった。(フランツの両親はアンナを実の娘のように可愛がっていた)そこで両親はアンナにパリに
行ってアドリアンを探しておいで、と送り出す。かすかな情報を手に探すがなかなかアドリアンの足跡が
掴めない。やがてフランツの叔母を探し当て、シャトーに住む貴族のような暮らしをしているアドリアンに
行き着く。驚き喜ぶアドリアンだったが、そばには両親が決めたという婚約者の姿があった。

アンナは、アドリアンの仕方がないとは言え本心を見た思いで、ドイツに帰ることにする。アドリアンに
「鈍感!」とかいうニュアンスを叩きつけて。だが別れの駅頭で二人はしっかりキスを交わすのだった。
アドリアンにも親の定めた結婚(とは言え婚約者は良い女性)だが、自分の削れた半身を救ってくれた
アンナに深い愛情を覚えていたに違いない。でも二人は結ばれることはないのだが。

さて、パリのアンナからドイツのフランツの両親に手紙が来た。アドリアンと合った、パリの管弦楽団で活躍して
いた、ルーブルへも、フランツの好きだったマネの「自殺」を観に行きました、と嘘をつき続ける。
しかし、一人でルーブルの「自殺」の絵の前に来たアンナ、そこのシーンではカラーとなり、彼女の顔が
笑顔に変わる。
「自殺」とは縁起が悪い画であるが、アンナは過去の自分をこの「自殺」の中に閉じ込めて、(過去の自分を
「自殺」させ、)新しい自分の人生を歩もうと決心をしたのだろう、と私には思えた。
(ちなみにこの「自殺」は現在はチューリッヒの印象派美術館・ビューエルコレクションに所蔵されている)
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                 <「自殺」エドゥアール・マネ 1880年>
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この映画のキーになっているマネの「自殺」という画は、見る人に多様な想いを抱かせる画だ。一体この
男は何が理由でピストルで自らの胸を射なければならなかったのか、そこに理由を探す人、いや、観ている
人によっては「現在の自分を殺し、再生のステップとする」と見る人もいるだろう。アドリアンの好きだった
この画に、アンナは「再生」を見出したのだ。嘘で作り出す幸せだって時と場合によっては、ある、と。

フライヤーにもいろんな有名人が書いているが、映像が美しい。独特の空間を取った映像が不思議な落ち着きを
映画に与える。モノクロとカラーの使い分けは、観ようによっては、あざとくなるのだが、本作でカラーに
なるのは、ごく少ない。思いあぐねているシーン、リアリズムに欠けるシーンはモノクロ。アンナの心に動きが
あったり、誰かの心に重要な動きがあるとカラーになる。そのあたりの使い分けは、オシャレかつインパクトが
あった。また全体の構造をサスペンス風に描くことにより、観客を一層主題に取り込むことに成功している。
それにしても、いかにもベネチアやセザール賞にフィットする作品だ。
「スイミング・プール」もう一度観てみようかな。
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<ストーリー>
エルンスト・ルビッチ監督が1932年に「私の殺した男」として映画化したモーリス・ロスタンの戯曲を
「彼は秘密の女ともだち」のフランソワ・オゾン監督が大胆に翻案。20世紀初頭ドイツを舞台に、戦死した男の
謎めいた友人と残された婚約者が織り成す交流を綴る。
出演は「イヴ・サンローラン」のピエール・ニネ、本作で第73回ヴェネツィア国際映画祭マルチェロ・マストロ
ヤンニ賞(新人俳優賞)を受賞した「ルートヴィヒ」のパウラ・ベーア。

1919年、戦争の傷跡に苦しむドイツ。アンナ(パウラ・ベーア)は、婚約者のフランツをフランスとの戦いで亡くし、
悲しみの日々を送っていた。そんなある日、アンナがフランツの墓参りに行くと、見知らぬ男が花を手向けて泣いている。
アドリアン(ピエール・ニネ)と名乗るその男は、戦前にパリでフランツと知り合ったという。
アンナとフランツの両親は、彼とフランツの友情に感動し、心を癒される。やがて、アンナはアドリアンに“婚約者の友人
以上の想いを抱き始めるが、そんな折、アドリアンが自らの正体を告白。
だがそれは、次々と現れる謎の幕開けに過ぎなかった……。

<IMDb=★7.5>
<Rottentomatoes=Tomatometer:90% Audience Score:85%>



by jazzyoba0083 | 2017-10-31 14:00 | 洋画=か行 | Trackback | Comments(0)