●「アイヒマンを追え! ナチスが最も畏れた男 Der Staat gegen Fritz Bauer」
2015 ドイツ Zero One Film. 105min.
監督・(共同)脚本:ラウス・クラウメ
出演:ブルクハルト・クラウスナー、ロナルト・ツェアフェルト、リリト・シュタンゲンベルク、ミハエル・シェンク
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<評価:★★★★★★★☆☆☆>
<感想>
本作はアルゼンチンに潜伏中、イスラエルの諜報機関モサドに誘拐され、イスラエルで裁判にかけられ
死刑に処せられた、ユダヤ人殲滅作戦移送指示責任者アドルフ・アイヒマンにまつわる話ではあるが、
その顛末をアクションぽく描く映画ではない。その作戦の影にあり、むしろ作戦の根回しをし成功させた
フリッツ・バウアーの人間ドラマと言える。原題が示すように「国家対フリッツ・バウアー」という構図で
描かれた映画だ。

冒頭、実写の本人が出て来る。映画の最後に説明されるが、アイヒマン誘拐作戦の裏にバウアーがいたことは
彼の死後10年経ってから明らかになったのだそうだ。モサドに誘拐させて、イスラエルにドイツでの裁判を
要求するという段取りがだめになったため、バウアーは国家反逆罪になってしまうところだった。
他の検事からは「ユダヤ人の復讐」と言われることもあるが、バウアーにとって過去と向き合い、ドイツが犯した
負を精算しなくてはならないという正義感は燃えるように強かった。冒頭の本人のセリフで曰く、
若い世代が過去の真実に向き合うことが可能であるが、親世代はそれが出来ないのだ、と。

フランクフルトがあるドイツ・ヘッセン州の検事総長バウアー博士。ユダヤ人でもある彼の1959年当時の
活躍が描かれていく。冒頭は酒と睡眠薬を飲んで風呂に入り意識を失いあやうく溺死するところから
スタート。これは後に彼を面白く思わない存在の伏線になっている。(彼らの犯行というわけではない)

部下たちにナチの戦争犯罪者の捜査を指揮する立場ではあるのだが、州政府、連邦政府の要路には、ナチの
残党が巧みにその位置をしめていて、捜査が筒抜けになる。事実自分のデスクから書類が消えるという
始末。しかし州政府の首相もバウアーの味方だったことも心強かった。

戦後日本でも公職追放が解けた後の政治家や高級官僚を見ても戦争指揮者たちが紛れ込んでいたことと
同じか、よりひどい状況がドイツにあったのだ。ナチに協力していた政治家が主要なポジションにいたり
して、もしアイヒマンのような大物が捕まり裁判になれば、芋づる式に自分たちの名前が出てきてしまう
恐れがある。故にバウアーの捜査に対しても妨害や無視が酷かった。しかしバウアーは負けない。

アイヒマンがアルゼンチンに偽名を使って潜伏しているとの情報が寄せられたのだが、これを連邦政府に
上げればたちまち逃してしまうことになると感じていたバウアーは、イスラエルに飛び、モサドに誘拐を
持ちかける。その間にも、州政府内でもバウアーの失脚を狙った動きが耐えなかった。

アイヒマンは中東に潜伏しているというニセの情報をわざわざ記者会見して流しておくという陽動作戦の
元、モサドは約束通り、アイヒマンを誘拐してイスラエルに連れてくることに成功する。
世界は大騒ぎとなる。バウアーは州首相に働きかけて、正式なルートでイスラエルに対しアイヒマンを
ドイツで裁判にかけたいから移送してほしいという要望を出させようとしたが、連邦法務省から
却下されてしまった。結局アイヒマンはイスラエルで裁判にかけられ死刑となった。

この映画がバウアーの人間ドラマである所以は、彼の全生活がナチの犯罪を許さず、ドイツで裁き、かつ
後世に伝えるとう熱意が映画から伝わったこと。また一緒に行動するアンガーマンが同性愛者であり、
バウアーの忠告(バウアーも同性愛者でありかつて逮捕された過去を持つ)にもかかわらず愛人(男)に
会いに行ってしまい、そこをバウアーの足を引っ張ろうとしている側に写真撮影されてしまうのだが、
アンガーマンは家族もいるが、バウアーの立場を守ろうと、自首していく。(対立派はアンガーマンに
バウアーがアイヒマン誘拐に関わっていたと証言すれば同性愛事件は大目に見ると条件をだす)アンガーマンに
そうした行動を取らせるバウアーの意思の強さ。結局ドイツでの裁判は実現しなかったが、後に彼の手に
より「アイシュビッツ裁判」が展開され、ドイツはナチの負の遺産と向き合うことになる。
バウアーはアイヒマンがイスラエルで裁判にかけられ「ユダヤ人がどういう目にあったか」が明らかに
されることより、ドイツで裁判を受けさせ「ドイツ人が何をしたか」を明白にしたかったのだ。
自分がユダヤ人であったこと、それにより逃亡生活を余儀なくされていたことなども下地にあったのだ
ろうけど、バウアーがいなければ、と思うと今のドイツがどうなっていたのかいささか恐ろしくなる。
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<ストーリー>
ナチスの最重要戦犯アドルフ・アイヒマン捕獲作戦の影の功労者フリッツ・バウアーにスポットを当てた
実録ドラマ。1950年代後半のドイツ・フランクフルト。検事長フリッツ・バウアーのもとに、逃亡中の
ナチス親衛隊中佐アイヒマン潜伏に関する手紙が届く。
出演は、「ヒトラー暗殺、13分の誤算」のブルクハルト・クラウスナー、「あの日のように抱きしめて」の
ロナルト・ツェアフェルト。監督・脚本は、「コマーシャル★マン」のラース・クラウメ。

1950年代後半、ドイツ・フランクフルト。検事長フリッツ・バウアー(ブルクハルト・クラウスナー)は、
ナチス戦犯の告発に執念を燃やしていた。そんな彼のもとに、逃亡中のナチス親衛隊中佐アドルフ・
アイヒマンがアルゼンチンに潜伏しているという重大な情報を記した手紙が届く。
バウアーはアイヒマンの罪をドイツの法廷で裁くため、国家反逆罪に問われかねない危険も顧みず、
その極秘情報をモサド(イスラエル諜報特務庁)に提供する。しかしドイツ国内に巣食うナチス残党に
よる妨害や圧力にさらされ、孤立無援の苦闘を強いられていく。(Movie Walker)

<IMDb=★7.1>
<Rotten Tomatoes=Tomatometer:85% Audience Score:76% >





by jazzyoba0083 | 2017-12-07 22:55 | 洋画=あ行 | Trackback | Comments(0)