2018年 01月 03日 ( 1 )

●「ミニヴァー夫人 Mrs. Miniver」
1942 アメリカ Metro-Goldwyn-Mayer 134min.
監督:ウィリアム・ワイラー
出演:グリア・ガーソン、ウォルター・ピジョン、テレサ・ライト、デイム・メイ・ウィッティ他
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<評価:★★★★★★★☆☆☆>
<感想>
日本が真珠湾を攻撃した翌年、アメリカに於いて、1939年のイギリス・ロンドン郊外の人々の
暮らしを描きつつ作られた所謂「戦意高揚映画」。映画のラストには「戦時国債を買おう!」という
呼びかけの字幕が出て来る。
なぜハリウッドでイギリスの中産階級の戦時下の暮らしを描いたか、といえば、米国民に対して
英国を応援しよう、という気持ちを高めさせる意味があったからだ。アメリカは1941年3月の「武器貸与法」
から実質的に欧州戦線にも参戦していて、時のセオドア・ルーズベルト大統領にしてみれば、
自由主義が脅威にさらされる、領土も危ないという状況に黙っていられなくなったわけだ。
故にこの映画ではイギリス人の日常に入っている深刻な戦争というものを理解してもらい、連合軍を
よりいっそう応援させようとする狙いがあったものと見られる。

ここで描かれるミニヴァー夫人一家は、中流階級とされるが、デパートで高級な帽子を買ったり、
建築家の旦那は高級な大型スポーツカーを衝動買いする、家もかなりの大きさでメイドを雇っている。
そう観ると、所謂庶民階級ではなく、ブルジョワジー(資本家階層)の人々であろう。
映画の冒頭では先に書いたように夫婦で衝動買いしてしまい、その言い訳をしあうという微笑ましい
ところから入り、やがて大学を卒業してきた長男が空軍に入る、旦那の持っているボートがダイナモ作戦に
徴用され、ダンケルクからの英兵らの脱出を手伝う、そのうちに空襲が始まる。軍の飛行場に近かい
ミニヴァー家も至近弾を受けるようになってくる、と次第に戦況の悪化が示される。

そうした戦争の推移の他に、長男ヴィンが、家のある辺りの貴族ベルドン家の孫娘キャロルと恋仲となり、
やがて婚約、しかしヴィンには空軍に行かなくてなならず、キャロルは万一の事態に心の準備をする。
一方、村の駅長は自分が育てたバラに「ミニヴァー夫人」と名前を付けて、品評会に出そうとする。
片や、品評会でバラの一位をずっと取り続けてきたのは他ならぬ主催者であり地主のベルドン家の当主
ベルドン夫人であった。
そんな逸話も横軸に入れながら、話を上手に重層的にし、戦争戦争とだけしていないところがこの映画の
「上手い戦意高揚」手法なのだろう。こうしたストレートに戦意を高揚させるより、戦場以外の話を
きっかけとして多くの戦意高揚映画は作らえていった。イギリスでのそれらの内幕は昨年末公開された
「人生はシネマティック」で題材として取り上げられている。

およそ戦争と対比的なところにある田舎ののんびりした暮らしも、戦火にさらされるときが来る。
墜落したドイツ機のケガをしたパイロットがミニヴァー家の庭で気絶していて、気がついた彼は
夫人を銃で脅して、食料を求めるも、ケガが重くてダウン。夫人は警察に引き渡す。(その時旦那は
ダンケルクで留守)
ついには、緊急呼集のヴィンを飛行場に送った帰り、ミニヴァー夫人と新妻キャロルの乗ったスポーツカーが
機銃掃射を受け、なんとキャロルは死んでしまう。あんなに夫の身を案じていたキャロルだったのに。

そしてその葬儀が屋根が爆撃で飛んでしまった教会で執り行われた。バラを作っていたあの駅長も犠牲に
なった。牧師が言う。「この戦いは戦場だけで戦われているのではない。私達ひとりひとりがこの戦争に
向き合うことが大切だ」とか言う、日本でもよく聞かれた、「全国民一丸となって敵を殲滅せん!」と
いう演説をぶつのだ。教会の天井の抜けてしまった空には英軍機が編隊を作って進軍してく・・・。

人間の心の綾を描いて上手いワイラー監督のまとまりの良い演出で、ストーリーを理解しつつ観ることが
出来る。軍関係からも色々と言われたのだろう、そういう無理筋の演出も上手く取り込んでこなし、
「映画」としてキチンと出来上がっている。ミニヴァー夫人を演じたグリア・ガーソンは毅然とした表情は
良かったが、戦時中の奥様としては、ちょっと妖艶重厚すぎるんじゃないかなあ。
過ぎたかな、という印象。ヴィンは軽かった。ベルドン夫人のデイム・メイ・ウィッティの円熟した存在と、
新妻役で悲劇的な最後を遂げるキャロルのテレサ・ライトが儚げで良かった。また冒頭のクレーンショットを
始めとするキャメラも美しい。

本作はこの年のアカデミー賞で作品、監督、脚色、撮影、主演女優、助演女優、と6つの賞を独占したが、
裏を読めば、この映画の評判を上げることにより狙える更なる「戦意高揚」という狙いがあったのではないか、
と読みたくなる。しかしながら名匠ワイラーの手法により映画としてのまとまりは非常にいいものに仕上がった
といえるだろう。彼が戦後直ぐに戦争から引き上げてきた男たちを描いた「我等の生涯最良の日」を製作した
ことを思うとまた感慨深い。
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<ストーリー:結末まで書かれています>
ロンドンから程遠くないイングランドの小さい町ベルハムに、ミニヴァー夫妻は幸福な家庭をもっていた。
ナチが始めた戦争にいつ英国も加わらねばならぬか分からないが、ベルハムは平和で、駅長バラードも
バラの花を展覧会に出そうと丹精している。

ミニヴァー夫人がロンドンで帽子を買って帰ると、駅長はバラの花に『ミニヴァ夫人』と命名させてくれと
頼むのだ。その日クレム・ミニヴァーも身分不相応な自動車を買い、帽子にぜい沢した夫人と共にテレるので
あった。ミニヴァー家には小さいトピーとジューディのほか、オクスフォード在学中の長男ヴィンがあった。

駅長がバラを出品すると発表したために町は騒ぎ立った。というのは毎年1等賞は町のお邸の老夫人レイディ・
ベルドンが取る習慣だからである。翌日、老夫人の孫娘キャロルはミニヴァー夫人を訪れ、祖母を失望させないで
頂きたいと頼み込む。大学から帰宅していたヴィンは、下層勤労者階級の生活権について大学研究している折
でもあり、ベルドン夫人の封建性を避難して、キャロルと議論したのであるが、それが縁で2人は心をひかれ
合う。

ダンス会のあった翌日、教会では牧師が英国の参戦と国民の覚悟について説教した。ミニヴァー家のお手伝い
グラディスは早速看護婦に志望して出征する。ヴィンも空軍に志願を決意し、キャロルにその事を告げ、
愛を告白する。ベルリドン老夫人は孫が中流の平民の息子と親しくするのを好まなかったくらいだったが、
戦争は老夫人の心持ちを変えたとみえ、キャロルとヴィンの婚約が発表される。
その夜ヴィンには召集令が来た。クレムはダンケルクの危機の報を聞くと、町の人々と共にモーター・ボートで
テームズ河を下り、ダンケルク撤退の英兵救出に力添えをした。夫がダンケルクへ行っている留守、不時着して
傷ついたナチの飛行士が台所に逃げ込んでいるのに、ミニヴァー夫人は驚いたが、沈着に事を処理して彼女は
男を警察に渡す。賜暇で帰ったヴィンはキャロルと結婚し、新婚旅行から帰ると花の展覧会が開かれたところで、
ベルドン夫人は1等賞を与えられたが、夫人はそれを駅長に贈った。空襲警報が鳴りヴィンは飛行場へかけつけ、
ミニヴァー夫人とキャロルは帰宅の途中、空襲にあった。キャロルは重傷を受け、ミニヴァー邸も倒壊した。
ヴィンが帰って来た時にはキャロルは死んでいた。半壊した教会で牧師は、勇気をもって戦えと説くのであった。

<IMDb=★7.6>





by jazzyoba0083 | 2018-01-03 22:30 | 洋画=ま行 | Trackback | Comments(0)