●「ゴジラ-1.0  Godzilla Minus One」(再見)
2023 東宝 TOHOスタジオ、ROBOT 125分
監督・脚本:山崎貴
出演:神木隆之介、浜辺美波、山田裕貴、吉岡秀隆、青木崇高、安藤サクラ、佐々木蔵之介他
                  
                  ~祝!第96回アカデミー賞視覚効果賞受賞~

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<評価:★★★★★★★★★☆>
<感想>
昨年の11月に観て、この度、見事に第96回アカデミー賞視覚効果賞をアジア勢としては、というか
ILM以外では初めて獲得した本作を、その面白さを味わいたく、また視覚効果を確認したくて
記念上映が始まっているシネコンに行ってきた。一番大きな小屋が月曜の昼過ぎで結構の入り。
ウィークデイなのでリタイア族が多いのは仕方がないが、やはりアカデミー賞効果が出ている。

さて、配信系の3時間が普通となった上映時間を、本作は王道の2時間少々に押さえ、緊張と物語の
分かりやすさを追求した構成はお見事だと再確認。初見の時にも感じたようにやはり時代設定が
絶妙だ。個の物語に収斂させた脚本も映画の魅力となっているだろう。
(大筋の感想は初見と変わっていないのでその時の投稿は下に貼っておきます)

山崎監督がオスカー受賞後に語っていたが、VFXのうち水の質感が良かったと。今回それを意識し
観てみたが、おっしゃるとおりゴジラが海にいる時の、また船の航行シーンなど水中も含めて水の
質感は確かにナチュラルで上手く仕上がっていたと感じた。

ラストシーンはいかにも日本製と感じる「浪花節」的ハッピーエンドだが、それもまた分かりやすくて
いいんじゃないかと感じた。観念的内省的に社会を批判するのもいいけど、こういう分かりやすい
描き方、私は好きだ。

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ストーリーと、評価サイトの評価は初見のリンクからご覧ください。



# by jazzyoba0083 | 2024-03-18 12:05 | 洋画=か行 | Trackback | Comments(0)

ゴッドマザー La daronne

●「ゴッドマザー La daronne」
2019 フランス Les Films du Lendemain. 104min.
監督・(共同)脚本:ジャン=ポール・サロメ
出演:イザベル・ユペール、イポリット・ジラルド、ヤン・サンベール他

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<評価:★★★★★★★☆☆☆>
真面目半分コメディ半分という感じで、フランス映画らしいといえばそうだが、普通に観られる
エンタメ。イザベル・ユペールだから持ったといってもいい映画だ。

パリで暗躍するアラブ人麻薬取引団を捜査するパリ警察のアラビア語通訳というのがパシャンス
(ユペール)の役柄。なかなかに面白い視点だと思った。この捜査の司令官とも言うべき刑事とは
付き合いはあるのだが、男の方ほど熱はない。彼女の夫は34歳でオマーンのマスカットで急死して
いるフランス名を持っているがアラビア人だったのかな?成人した2人の娘はどこかアラビア風な
面立ちもある。で、パシャンスが介護施設で面倒をみているのが母親ということなのだが、
アラビア語を話し、顔つきもアラビア人だ。パシャンスは実の母の介護をしているのか、義理の
母の介護をしているのか、分かりづらかった。父親は相当羽振りが良かったらしいが、その経緯は
省かれる。

高額な老人ホームの支払いも滞りがちになり出ていってほしいと言われるし、家賃は2ヶ月分滞納
している。お金が欲しいのは事実。でパシャンスは通訳をしているうちに高純度の大麻の取引の
情報を掴み、隠し場所を特定し(それにお役御免となった麻薬犬を保護して使うというのは恐れ
いったアイデアだ)それを警察に内緒でトラックに積んでアパルトマンの個人用地下倉庫に保管。
売人に少しずつ売りさばき、大金を手に入れる。 

一方自称恋人?の刑事はビッグマザーと名付けれた謎の女性を必死で追いかける。しかし、なかなか
尻尾が掴めない。刑事は変装した女がパシャンスにそっくりなので一応は疑うのだが、とにかく
パシャンスにお熱なのでチカラが入らない。

やがて組織の手はパシャンスに迫り、警察の動きも厳しくなってきた。そこでアパルトマンオーナー
の中国人(これが曰く因縁のある女性)で、パシャンスの麻薬を預かってくれることになる。
その内に母親は亡くなり、ひとまず麻薬の取引からは手を引き、夫の墓があるマスカットを訪ねる。
そこで映画は終わる。プロットを構成するいくつかの面白い点、例えば母の介護をするアラビア人の
女性=パシャンスがガメた大麻を運んだ男が息子=の絡みとか、麻薬犬、アパルトマンオーナーの
チャイニーズマフィア臭プンプンの謎の女、おとぼけのアラブ人2人、母の遺灰をギャラリー・
ラファイエットと思しきデパートで娘と母の好きだったブランド店の前で撒く、そして恐らくは
自分の恋人?がゴッドマザーであることが分かっていた刑事、面白い個々の状況はあるのだが、これら
がどうも有機的に結びついていなくて、結局何が言いたいのか良くわからないままに映画は終わって
しまった。先に書いたように家庭の事情がパシャンス本人の心境にどういう影響を与えたのかが
うまく結びついているとは思えなかった。登場人物がみんな曰く因縁のある人物で、それぞれは面白い
キャラなのだが、大筋にどう影響したのかが分かりづらいんだな。で、結局、なーんとなく面白い
映画止まりとなった。
本作はおそらく日本で劇場公開されていないんじゃなかな。私はWOWOWで鑑賞。
因みにイザベル・ユペールは本当にアラビア語を話しているという。(吹き替えではない)

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<ストーリー>
フランスの警察の麻薬捜査班でアラビア語の通訳をしているパシャンスは、老いた母親の面倒を
女性介護士に見てもらっている。
ある麻薬密輸組織の摘発を手伝う仕事でパシャンスは、組織の一員が介護士の若い息子だと気付く。
パシャンスは彼女の息子が逮捕されないよう、組織が隠した麻薬を警察より先に見つけることに成功
するが、ついでにそれを売りさばこうと決心。だがそのせいで麻薬密輸組織から追われるはめになって
しまい……。(WOWOW)

<IMDb=★6.3>
<Metascore=58>
<Rotten Tomatoes=Tomatometer:79% Audience Score:52%>
<Filmarks=3.2/5>



# by jazzyoba0083 | 2024-03-14 23:10 | 洋画=か行 | Trackback | Comments(0)

●「第96回 アカデミー賞授賞式 96th The Oscars」
2024年3月10日(日曜) カリフォルニア州ロサンゼルス市ハリウッド・ドルビー・シアター
司会=ジミー・キンメル 制作・放送=ABC 
日本=WOWOW(司会:ジョン・カビラ、宇垣美里。スタジオゲスト:中島健人、町山智浩他)

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■全体・・・日本勢の大躍進・やっぱり強かった「オッペンハイマー」

今年のオスカーはせっかくコロナ禍から脱したものの脚本家や俳優のストがあり、製作に足かせと
なった。しかし、ノミネート作品を見ると、配信系が踏ん張って、メジャーも堪えてなんとか
このところのハリウッドらしい多様性に満ちた作品が並んだ。

何と言っても日本の映画が3本もノミネートされ、メイクアップアーティストのカズ・ヒロを
加えれば5部門で感激が味わえる舞台だったのが凄かった。結果的に宮崎駿「君たちはどう生きるか」
(Boys and the Heron)が長編アニメ賞を、「ゴジラ-1.0」がアジア勢としては初の「視覚効果賞」
を獲得するという快挙を打ち立てた。国際長編語映画は「関心領域」という強敵の存在がヴィム・
ヴェンダース、役所広司らの「Perfect Days」にとってはアンラッキーだったといえるだろう。
「君たちは~」には受賞者が登場しなかったが、誰か行けなかったのかなあ。ジブリでも配給の東宝
でも一人でも良いから受賞に出てくれば良かったのになあ。

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日本勢の視覚効果賞獲得はハリウッドのビッグプロダクションを相手にしての「白組」で、掛ける費用と
人数に打ち勝ったのは大きい。題材とマッチすれば日本のVFXだって十分通用するということを証明
してみせた。山崎監督が「オッペンハイマー」のアンサー作品を作らねば、と言っていたが、楽しみだ。
一方「君たちは~」は欧米人に分かったのかなあ。私は3回観て、宮崎駿の高畑勲に対する想いの
表出だという結論に至ったのだが、元来内省的な宮崎作品の中にあっても意図が一番抽出し辛い作品
受賞は嬉しいけど。

あとは13部門にノミネートされ作品、監督、主演男優など主なところを持っていった「オッペンハイマー」
が去年の「エブエブ」並に強力だった。日本での公開は3月下旬なので、観ていない映画が称揚されても
今ひとつピンとこなかったのが正直なところ。ゲストコメンテーターで今年は東京のスタジオに来ていた
町山智浩氏は6回観てようやく少し映画の言わんとするところが分かった、と言っていたが、3時間の
映画を6回も観なくちゃ分からんような難しい映画なのか? まあ、クリストファー・ノーランの作品
というのは具体的なようでいて、主張は結構観念的だったりするのでねえ。でも監督賞受賞は異論の無い
ところだ。
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一方、日本公開を見送ったことについて大手配給会社は主にSNSでの「バーベンハイマー」コラージュ炎上
に過剰に反応し、公開を見送った。また「オッペンハイマー」について広島、長崎の被災者の苦悩が描かれ
ていないことに批判的な批評家や学者の意見も少なくない。広島での試写では市長は原爆の悲惨さが描かれ
ていないとはっきり本作について辛い評価をしている。私たち日本人が観た後でオスカーが決まるのなら
その評価も少し代わったかも知れない。日本で核兵器否定派から本作に明確な否定的メッセージが出されると
興行成績に響くことは間違いないからだし、マスコミなどの論調もオスカー会員に影響を与えただろう。

■俳優たち・・・未見の映画から選ばれる歯がゆさ

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主演男優賞はキリアン・マーフィーとなったが、観ていないけど個人的にはポール・ジアマッティ
獲って欲しかった。主演女優は予想通り難しい映画に体当たりで臨んだエマ・ストーンが「ラ・ラ・
ランド」に次いで2回目のオスカーに輝いた。下馬評では初の先住民女優としてノミネートされた
「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」リリー・グラッドストーンだったが、エマ・ストーンの
受賞に文句はない。「落下の解剖学」「関心領域」のザンドラ・ヒュラー、「ナイアド」アネット・
ベニングも良かったけどなあ。

助演男優では観た中ではマーク・ラファロだろうと思っていたのだが。「オッペンハイマー」の
ロバート・ダウニー・ジュニアがどのくらい素晴らしいのか、期待したい。
助演女優賞ダヴァイン・ジョイ・ランドルフが出演していた「ホールドオーバーズ」も日本未公開
なので、何故この女優さんが受賞したのかが語れないのが残念だ。

■脚本・脚色・・・予想通り

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「落下の解剖学」は脚本の良さが決めてのような作品。脚本賞をとって欲しいと思っていたところ
その通りとなり、個人的には大満足。受賞した2人は夫婦なので、映画自体にリアルな匂いがして
しまう。
脚色賞は「アメリカン・フィクション」で監督も努めたコード・ジェファーソンの手に。アマプラで
観られる作品なので、鑑賞済みだったが、日本人には考えオチになりがちなんだけどアメリカ受けは
するだろうという感じは理解出来る。それにしてもこの部門はどれがとっても不思議ではない作品が
並んでいた。

■短編実写映画賞のウェス・アンダーソン

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ノミニーを全部見た訳では無いが、観念的な作風で私なんかには何を言いたいのか良くわからない
ウェス・アンダーソンだが、今回の「ヘンリー・シュガーのワンダフルな物語」はウェスの世界観が
短い間に良く表されていて良く出来た短編だった。これは受賞するだろうと確信したくらい。
本人はドイツで自作を製作中で授賞式には出席出来なかったが、嬉しい、とあとからコメントしている。
彼には長編でとって欲しいけど、難しい映画になるんだろうなあ。「グランド・ブタペスト・ホテル」
くらいにしておいて貰わないと。

■パフォーマンス・・・地味め

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このところパターン化している歌曲賞ノミネート曲の紹介だった。中でもハリウッドらしい演出
で派手だったのがライアン・ゴズリングが歌った「バービー」の挿入歌「I'm just Ken」だった。
ギターにヴァン・ヘイレンが出てきたのにはびっくり。オスカーのステージらしい演出だった。
結局受賞したのもビリー・アイリッシュが歌った「バービー」の主題歌だった。

■司会とステージ進行

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司会は去年に続いてジミー・キンメル。相変わらずのユーモアの冴えがいい。特に終わりがけに
トランプのSNSを紹介し、痛烈に皮肉ったのはリベラルが多いハリウッドらしい雰囲気が出ていた。
俳優に関する賞は過去に受賞した5人が登場し、今年のノミニーを一人一人紹介し、昨年の
受賞者が封筒を開けて「and the Oscar goes to…」とやるのだが、この演出は上手かったと思う。
そして、作品賞のノミニーは各賞の間の幕間に紹介され、最後にプレゼンターとして登場した
アル・パチーノ(ゴッドファーザー50周年記念もあり)は、作品名を挙げずいきなり開封した。
「オッペンハイマー」のチームが気がつくまでに少し間があった。これはテレビの視聴者を繋ぎ
止めるため全体の時間を圧縮し、興味があるところは盛り上げ、効率化を図って視聴率を稼ごうと
する意図だったのだろう。全体的にコンパクトな感じだった。WOWOWで午後9時から放送した
字幕版(CM時間抜き)の放送では11時30分頃には終わっていたから、「オッペンハイマー」の
上映時間より短かったということだ。ww

ハプニング・・・

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生の長時間のステージにはハプニングがつきものである。今回は主演女優賞エマ・ストーンの
ドレスの背中のジッパーが壊れたこと、そして未だに騒がれているロバート・ダウニー・ジュニアが
キー・ホイ・クァンを無視したとか、エマ・ストーンがミシェル・ヨーを無視したとかでアジア系を
軽く観ているのではないか、との批判が起きている。その時の映像を見ると、5人がいるステージで
トロフィーを持っている人から受け取るのが礼儀だとは思うが、嬉しさに舞い上がるということも
あろう。アジア系を無視している、という気分が普段は見せない深いところには内在されていると
したら残念だが、私はそうではなく、舞い上がっていただけ、と信じたい。

■戦争の影・・・

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ナワリヌイの映像が流れた。短編アニメではショーン・オノ・レノンの「War is Over!」が受賞し、
総じて眺めると「オッペンハイマー」「ゴジラ-1.0」も「関心領域」も長編ドキュメンタリー
の「実録マリウポリの20日間」も、全て根っこには戦争がある。そうした世界の情勢に映画の世界も
敏感に反応していたと感じた。

■配信系を無視出来ない世界へと・・・

これはもう誰でも感じたことだろう。

人種的な多様性、VFXの進化、AIの登場と映画を囲む状況は常に変化している。これまでもそうした
変化を映画人たちは自らのものにしていい映画を作ってきた。来年も多くの傑作、佳作、問題作、
話題作の登場に期待したい。
(この項、了)

# by jazzyoba0083 | 2024-03-14 16:10 | アカデミー賞 | Trackback | Comments(0)

ヴィル Wil

●「ヴィル Wil」
2023 ベルギー・オランダ・ポーランド Lecter Scripted Media and more.114min. Netflix
監督・(共同)脚本:ティム・ミーランツ
出演:ステフ・アールツ、アンネローネ・クロレット、マッテモ・シモーニ、ケヴィン・ヤンセンス他

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<評価:★★★★★★☆☆☆☆+α>
<感想>
ベルギー北部で使われるフラマン語の映画を観たのは初めてかも知れない。全編太陽がない暗ーい、
そして話も重くて暗ーい映画だ。人間の本質を問いかけてくるので胸が痛む。Netflix配信映画。

ドイツ占領下のベルギー・アントワープの警察に奉職した2人の若者の、ユダヤ人に対する感情の
揺れを描く。ナチスに協力するのか、レジスタンスを応援するのか、はたまた傍観を決め込むのか。
人間、生きていく上でどんな時代のどんな人生でも遭遇する選択だと思う。

恐らくアントワープの街で、ナチが来るまでは平和に暮らしていたユダヤ人とフラマン人たち。
しかしナチの占領でナチの方針に従わなくてはならなくなった現地警察。彼らはとにかく見て見ぬ
ふりをすることに徹していたのだ。ある日、ヴィルとロードという若い警官(親友同士でもある)が
ドイツ憲兵の手伝いでユダヤ人狩りにアパートに乗り込む。(憲兵の目的は金だったりするのだが)
憲兵は金目のものがないとなると家族を連行した。(どこかで射殺しようとしていたかも)家族に
振るう憲兵の暴力を見かねたロードが憲兵の頭を置いてあった鉄の杭にしたたかに打ち付け、憲兵は
絶命。これがバレるとエライことになるので、彼らは死体をマンホールに隠して逃げた。

映画はここから始まる。ロードの姉に熱を上げるナチの将校(後からこれは作戦だったと分かる)
やら、警察署長やら、レジスタンスの仲間やらが登場するのだが、大掛かりの夜間のユダヤ人狩りの
情報を仕入れたヴィルはレジスタンスにこれを告げ、ユダヤ人を救おうとするが、ナチはそのまた
裏をかく。結局、夜間のユダヤ人狩りを手伝う羽目になったヴィル。結果的にはユダヤ人をトラック
に収容する役目をヤケクソ?で実行する。遠目で見ていた恋人が去っていく。追いかけるヴィル。
しかし恋人は列車操車場で列車に轢かれて自殺してしまう。

映画としては「結局、大勢のナチの前でヴィルが何を出来るのか、出来たのか」を問うている。
それは戦争の場面でなくても現代の日常でも常に起きている事態だ。特に日本は同調圧力が強い
ので、この映画は見ていられない人もいるだろう。では一体何をすればいいのか。ヴィルは
どちらかというとヘタレな男だ。レジスタンスに身を投じようとは思わない。そういう一般市民に
ユダヤ人狩りを止めることなど出来るのか。ましてや彼は警官だ。

人間とは罪で辛い存在だ・・・。そんなことを考えさせる画面も物語も暗ーい作品だった。
見終わって元気になる作品ではないことは確実なので、体調を考えて鑑賞しましょう

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<ストーリー>
舞台は第二次世界大戦中のアントワープ。ナチス占領下の街を生きる2人の若き警察官は、協力と
抵抗という2つの道の狭間で苦悩する。(Netflix ホームページ)

<IMDb=★6.9>
<Metascore=No Data>
<Rotten Tomatoes=No Data>
<KINENOTE=No Dta>
<映画com=No Data>
<Filmarks=3.4/5>






# by jazzyoba0083 | 2024-03-13 23:30 | 洋画=は行 | Trackback | Comments(0)

●「極北のナヌーク : Nanook of the North」
1922 アメリカ Les Frères Revillon. 87min. (B/W)
監督・製作・撮影:ロバート・J・フラハティ

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<評価>★★★★★★★★★☆>
<感想>
本作は全くドキュメンタリー映画の勉強として鑑賞した。私は現役時代テレビでドキュメンタリーを
制作する立場にいたので、大変興味を持ったのだった。
「月旅行」も「大列車強盗」も「イントレランス」も「國民の創生」も未見の私には、恐らく人生で
一番古い映画鑑賞となった。もちろんサイレント。
音楽は後に付けられたものだ。 放送大学231オーディトリアムでの講義。

Wikipediaには「映画史」の項に以下のような記載がある。
「1922年、世界初のドキュメンタリー映画とされる『極北のナヌーク』が公開される。カナダ北部で
暮らすイヌイットの文化・習俗を収めた作品で、映画というものが記録・啓蒙にきわめて大きな役割を
果たしうると考えていたイギリスの映画プロデューサージョン・グリアソンが、その批評の中で
「ドキュメンタリー」という言葉を初めて用いたことが始まり」

というように本作を持ってドキュメンタリーの嚆矢とする、というのが定説のようだ。
今ではコンプライアンスとかで「やらせ」は厳禁だ。一方、本作はナヌークという名前も本名では
ないし、奥さんの名前も違う。大体この一家は本物の一家ではない。観ていると分かるが
「やってみて?」と製作側が頼んでやらせているシーンが沢山ある。当時はそれがあたりまえだったし、
イヌイットの生活の後を黙って付け回しているわけにもいかないし、彼らの暮らしに嘘があるわけでも
ないので、これをして果たして「やらせ」というのか、という感じがする。レコード盤を齧っている
のは彼らが本当に不思議に思ったのだろう。

この講義の中でゲストで出演していた人類学者である大村敬一教授は、カメラを通してドキュメン
タリーを作るということはフレーミングやアングル、などで現実を意図的に切り取っているわけで、
カメラを通して「現実を再構築」していると指摘する。誠にその通りで、現場で暮らしている人でない
「製作者」が対象者の行動や考えを切り取って(トーキーになれば音の編集もあるだろう)製作者は
再び編集という作業を通して違う世界を作り直しているとみるのが妥当なのだ。
フラハティはそれを良く分かって、本作を撮影している。

また大村敬一教授は「民俗誌」的アプローチから観ると対象者、人類学者(フィールドワーカー)と読者が
三つ巴に出会って生成されるものだと指摘し、しかも「未来に向けて投げかけられるヴィジョン」
(今は未だ無き、ありうべき現実)として構成されていて、フラハティの本作は映像の世界で初めて
その構造を成立させ映像化した作品と呼べるとした。

普通の暮らしをしている人々にとって北極圏に近いカナダの地でのイヌイットの暮らしなど知る
べくもなく、流氷の上を飛び歩く様、雪の塊で家を作る様子、アザラシやセイウチをモリ一本で
捕らえる様子は目を瞠るものだっただろう。
大量のホッキョクギツネの毛皮、シロクマの毛皮、また雪の家の中で裸で毛皮を被って寝る姿。
(風呂は入らないだろうし、生肉ばかり食べて野菜や果物は食べないわけで壊血病にならない
だろうか、髪の毛や爪はどうやって切るんだろうかとか)
また今や民俗学的にも貴重な映像となっているのはもちろんだ。

先にも書いた通り、ナヌーク一家はカメラの前で「演技している」ともいえる。が、それは
「やらせ」だろうか。カメラで切り取ることに既に演出が入っている状況なのに。

冒頭の画面でフラハティはこの映画のサブタイトルを「本当の北極の生活と愛の物語」
(A Story of life and love in the actual arctic)としているように、カメラで切り取られた世界で
初のドキュメンタリー映画はイヌイットの厳しい気候の中にも生き生きとした生活ぶりが
見られ、厳しい自然の中で生きるために狩りをし、食うために生きている、衣食住全部自前で
あつらえる生活。人間の原初的幸福のあり方を見事に提示して見せている。物質的に豊かになり、
過多な情報に囲まれた現代の私たちが観ると、感じることは多いのではないか。

この撮影はエイクリーカメラが使われた。1915年に米国人で探検家のポメロイ・イーストマン・
エイクリーがアフリカの猛獣狩りの撮影のために作った厳しい自然の中での使用が可能であるものだ
った。

87分にまとめられた(極寒の地で、撮影隊も大変だっただろう)この映画は、生き生きと「人生を
生きる」人間の生き様が生き生きと描いた秀作だ。しかしフラハティは最後のシーンで暴風雪の
中で雪に埋まるハスキー犬の様子を捉えつつ、「北国の憂鬱な精神  the melancoly spirit of the
Notrth」と締めている。なぜフラハティはそう締めくくったのか。
その意味するところを考察してみるのも興味深いだろう。

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<プロダクションノート>
ドキュメンタリー映画の先駆的作品。その後の映像ドキュメンタリー作家に多大な影響を与えた。
ロバート・フラハティの名を、一躍有名にした作品でもある。
雪と氷の大平原を背景に、極地のイヌイット一家が生きるために苛酷な自然と闘っていく様を迫真
せまる映像で描く。フ
ラハティは探検家、人類学者でイヌイットを生涯にわたるテーマとしていた人物。
1939年にアメリカでサウンドトラック入りのヴァージョンが製作されている。
デジタル・リマスターされたサイレント(音楽付き)の78分版が2018年9月15日より特別上映。
他、55分版、65分版がある。別題「極北の怪異」

<IMDb=★7.6>
<Rotten Tomatoes=Tomatometer:100% Audience Score:80%>
<KINENOTE=78.0点>
<映画com=3.6/5>
<Filmarks=3.7/5>





# by jazzyoba0083 | 2024-03-12 16:25 | 洋画=か行 | Trackback | Comments(0)