2009年 08月 19日
さよなら。いつかわかること。 Grace Is Gone
2007 アメリカ The Weinstein Company,Plum Pictures,85min.
監督・脚本:ジェームズ・E・ストラウス
出演:ジョン・キューザック、シェラン・オキーフ、グレイシー・ベドナルジク、アレッサンドラ・ニヴェロ他
原題のGraceというのは、主人公の奥さんで、イラク戦争で命を落とす母親の名前。ジョニーは戦場へ
いった、みたいな感じか。1時間半の掌編だが、静かに戦争の不条理、不幸を訴えかけてきて、ラスト
近くには、涙がこぼれそうになった。12歳の女の子と妹という子供がいて、長女がまた、大人になりかけ
の多感な時期にさしかかり、微妙なこころの動きを上手く表現していて、一層痛々しい。
スタンレーは日用雑貨のスーパーに勤めている。彼は軍隊のブートキャンプ中に知り合ったグレイスと
いう職業軍人の妻がいる。最初はスタンレーが入隊したが、ごまかした視力検査がばれて除隊となり、
グレースがイラクに派遣されたのだ。
しかし、グレースは戦闘中に死亡する。幸せな家庭に突如もたらされる最愛のママの悲劇。
スタンレーは茫然となり、子供たちに知らせることもできず、妹がいつか行きたいといっていたフロリダの
「魔法の庭」というテーマパークに小旅行に出かけることにした。姉のハイディと妹のドーンを連れて、
まず、弟の住む(実の母の住む)家に。肉親でさえ、この悲しみを本当には判らない。
一家はさらにフロリダに向かう。学校には当然姉妹の母親の戦死が報告されていて、二人が休んでいて
も、なんら苦情を言うわけでもない。むしろ心の傷をいやすにはそれなりの時間がかかるだろう、という
ことで宿題を出して、やってきてくれればいい、と姉には説明するが、姉は、学校が母が亡くなったとは
絶対に言わないので、なぜそんなに優しいのかを訝るのだった。
スタンレーは、いつ母親の死について話そうか、悩みに悩み、自宅の留守電の応答の声がグレースで
あったことから、留守電相手に、どうすればいいのか、吹き込んだりしていた。
姉は、その留守番電話をホテルから聞くことになり、うすうす事態を知り始めていたようだった。
一家はついにフロリダの「魔法の庭」につき、一日中、いろんな乗り物に乗って、遊びに遊んだ。
肝心のことを言えないまま、最終目的を果たしてしまったスタンリーは、帰路についたクルマを海岸に
止め、いよいよ、"I have to tell you something"と口火を切るが、なかなか、ストレートには言え
ない。ママもパパもお前たちを世界で一番愛しているよ、ママが戦場にいったとき、万一のことは
話したよね、ママは戦場で怪我をした。とても重いケガだ。「でも、ケガなんでしょ?」と姉。
しかし、兵士は戦場で死ぬこともある、ママは帰らないんだ、勇気とあふれ出る悲しさを振り切って二人に
告げた。波の寄せる夕暮れの浜辺で抱き合う3人。
ママは一度も画面に出てこないが(写真でちょっと姿が見える程度)、家族に愛されていた素敵なママで
あったことはよく解る。スタンリーとも深い愛で結ばれていたことも良く解る。
愛する人を奪って行った戦争。本当に姉妹は「いつかわかること」なのだろうか。テレビでこの戦争は
意味がない、と報道しているのを聴いた姉はスタンリーに戦争の大義を尋ねるが、「テレビのいうことを
全部信じちゃいけないよ」と逃げるのが精いっぱいだった。
一つの家庭に襲った戦争の悲劇を、淡々と描いているが故に、逆に悲しさ、むなしさは募る。掌編で
粛々と仕上げているのも良かった。ジョン・キューザックは製作にも名を連ねているので、この手の
作品を作りたかったのだろうな。彼の、次第に無精ひげが伸び放題になっていく様、茫然としたり
突如感情を爆発させたりするする、悲劇の主人公を、上手く演じていたと思う。
音楽をクリント・イーストウッドが担当し、エンディングテーマ"Grace Is Gone"は、キャロル・セイヤー
ベイガーによって歌われるが、どこかイーストウッドの"Grantrino"を思い出させるメロディーラインは
また、切なくさせるのだ。
子役もいい年頃の設定で、好演していた。
この映画の情報はこちらまで。
『笑うとき 目覚めるとき 眠るとき 海を眺めるとき 必ずママを思い出します イラクから突然届いた母の戦死。悲嘆に暮れる父親が、娘に真実を告げる時を迎える』 コチラの「さよなら。いつかわかること」は、サンダンス映画祭で観客賞&脚本賞を受賞し、4/26公開....... more