2011年 10月 31日
キャタピラー
2010 日本 スコーレ、若松プロダクション、84分
監督:若松孝二
出演:寺嶋しのぶ、大西信満、吉澤健、粕谷佳五、増田恵美、河原さぶ、篠原勝之ほか。

<評価:★★★★★★☆☆☆☆>
<感想とストーリー>
若松監督の作品は、「浅間~」に次いでの鑑賞で、昨年寺嶋がベルリンで銀熊賞を
獲ったということもあり、観てみようかと。
重暗い作品だろう、ということは覚悟していたが、ここまでとは・・・。
皆さん指摘の通り、反戦爺さんの撮った反戦アジ映画、というところか。
話はシンプルで訴える趣旨も判りやすいのだが、さらに言いたいことを重ねる
ために、最後に「首をくくられお国にご奉仕」と、BC級戦犯の絞首刑の
シーンを実写で見せるところあたりから、あれあれ、という感じになり、広島、長崎の
原爆になり、元ちとせの歌が入ってきてトドメを刺すわけだが、いらないんじゃ
ないか、と感じた。久蔵が土間に転がって、自分がシナでしてきた悪行を思い
泣くシーンも微妙に長かった。全体としてつくりが古いなあと思った。
要は、DV夫とはいえ、夫が戦地から「芋虫」(キャタピラー)のようになって、
しかも声・聴覚も失って帰ってきた妻が、「軍神」さんを抱えて何を思いながら
生きたか、を描けば、それだけで、反戦は貫けると思うのだが、まあ若松監督の手法
だから仕方ないけど。夫が戦地でレイプや無用な殺しをしてきたことなど知らないのだが
妻が自分の上に来るとフラッシュバックされ気が狂うように苛まれる、その夫の
背景をもう少し描きこむと、良かったかな、と残念に思う。映像は綺麗だし、
アングルも凝っていて、時間も短く(低予算だからかもしれないが)テンポも
いいのに。
賞を獲った寺嶋の吹っ切れた演技はさすがだし、「芋虫夫」を演じた大西も
セリフもない傷痍軍人を良く演じていたと思う。ヨーロッパの映画賞好みの
作品だ。

四肢と声を奪われ、顔にも酷いやけどを負った男が、食欲、性欲、排泄欲しか
なくなり人間性が失われた中で、何を生に求めていたのか。自分の活躍を
報じた新聞を時折眺めることしか生きている意義を見つけられない。敗戦し、
自分の軍神としての価値が無いと感じた夫は、シナでしてきた悪行のことも
あり、這い出して池に入水自殺する。その前に浮かんでいる毛虫が印象的だ。
一方、そうした夫を迎えた妻は、村人に夫を軍神さんとして披露することでしか
自分たちのアイデンティティを見出せない。覚悟を決めて必死に生きるが、心の
中は戦争なんて、と思っている。当時の婦人たちと同様自分の人生なんかない
女性の、絶望的な人生が描かれているが、終戦の時に田んぼで見せた妻の
笑顔は、夫自殺後の彼女の人生が暗くないことを示唆しているようだ。
この夫婦を取り巻く村の戦時の暮らしを描くことで若松監督はさらに戦争の
馬鹿馬鹿しさを重ねている。
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