愛・アムール

●「愛・アムール Amour」
2012 フランス・ドイツ・オーストリア Les Films du Losange,ano others.127min.
監督・脚本:ミヒャエル・ハネケ
出演:ジャン=ルイ・トランティニャン、エマニュエル・エヴァ、イザベル・ユベール、アレクサンドル・タロー他
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<2012年度アカデミー賞外国語映画賞受賞作品>

<評価:★★★★★★★★☆☆>
<感想>
この年のオスカー主演女優賞にエマミュエル・エヴァが史上最高齢でノミネートされたり
カンヌでパルムドールを獲ったほか、主要な映画賞を総なめにした作品なのだが、今まで
見てこなかったのは、ハネケの作品だから、ということがあった。いや、ハネケの作品は
観たことはないのだが、「破滅や暴力を淡々と描写し、後味が悪く不快感を誘う作風が
特徴的だが、人間の内面に潜む本質を鋭く抉り出す独特の手腕は秀逸。」(allcinema)
という、個人的には引いてしまうような演出ぶりが先入観としてあったから。

だいたい、私はカンヌ系の観念的映画があまり得意でない、というのもあった。
本作も観念的であるし、終わり方も感想を観客に任せるタイプなので、易しそうで
難しい映画だった。映画を観終わって、何を思えばいいのかなあ・・・(直感的に
男女の愛情とか老々介護とかのありようをみんなで考えてね、ということではないとは
判るのだが)と考えていて、思い付いた言葉が「人生の実相」ということだった。

つまり、どこにでもありうることを淡々と描き、まるでドキュメンタリーを観ているような
中に、だれにでも訪れる「老い」「病気」「死」「離別」という不可避な出来事を埋め込み
何を以て「愛」というのか、という問いを投げかけられていると思ったのだ。

実は私の父母がまさにこういう状況であった(殺しはしませんよ)し、年齢的に身につまされる
内容だったので、観ている最中、そして観終わった後も、気持ちはず~んと重かった。

ハネケの目論見とは「身につまされる」ということでいいんじゃないか、と思った。若い人には
若い人なりの捉えかたもあるだろうが、2番目の看護師が、その扱いのひどさに腹を立てた
老夫に出ていけ、「お前が将来同じような扱いを受けるように祈るよ」ということばに
「身につまされて」欲しいと感じた。

冒頭のコンサートホール以外は、老夫婦が住むアパート以外にシーンが無く、観客の
シンパシーと共振したいシーンは非常に長回しとなっている。しかし、それらが決して
映画の完成度を下げるどころか、逆に効果的になっていて、行き場のない思いを観客に
醸成させていると思うのだ。

私としては、ラスト近く、部屋に飛び込んできた鳩を、離してやる、というところにこの映画の
本質を観た気がするのだ。 老夫婦を演じた二人の演技は、これはもう素晴らしい。特に
老妻を演じたエヴァは、実際にこういう状況の人を相当観察したに違いない、と思うような
演技であった。 タイトルは「愛」であるが、「人生の実相」は、愛とは時に残酷であり、
残酷に見えることが実は深い愛なのかもしれない、と言っていると思えたのだ。

結果が冒頭に来るが、ラスト、さて、老夫は妻の幻影に導かれ、どこへ行ったのだろうか。
それは言うまでもないこと、なのだろう。観終わって、やはりタイプの映画じゃないなあ、とは
思ったが、作品としての完成度の高さは認めざるを得ない優秀な作品であることは確かだ。
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<ストーリー>
パリ都心部の風格あるアパルトマンに暮らすジョルジュ(ジャン=ルイ・トランティニャン)と
アンヌ(エマニュエル・リヴァ)は、ともに音楽家の老夫婦。
その日、ふたりはアンヌの愛弟子のピアニスト、アレクサンドル(アレクサンドル・タロー)の
演奏会へ赴き、満ちたりた一夜を過ごす。翌日、いつものように朝食を摂っている最中、
アンヌに小さな異変が起こる。突然、人形のように動きを止めた彼女の症状は、病による
発作であることが判明、手術も失敗に終わり、アンヌは不自由な暮らしを余儀なくされる。

医者嫌いの彼女の切なる願いを聞き入れ、ジョルジュは車椅子生活となった妻とともに
暮らすことを決意。穏やかな時間が過ぎる中、誇りを失わず、アンヌはこれまで通りの
暮らし方を毅然と貫き、ジョルジュもそれを支えていく。
離れて暮らす一人娘のエヴァ(イザベル・ユペール)も、階下に住む管理人夫妻もそんな
彼らの在り方を尊重し、敬意をもって見守っていた。だが思い通りにならない体に苦悩し、
ときに「もう終わりにしたい」と漏らすアンヌ。

そんなある日、ジョルジュにアルバムを持ってこさせたアンヌは、過ぎた日々を愛おしむように
ページをめくり、一葉一葉の写真に見入るのだった。アンヌの病状は確実に悪化し、
心身は徐々に常の状態から遠ざかっていく。
母の変化に動揺を深めるエヴァであったが、ジョルジュは献身的に世話を続ける。
しかし、看護師に加えて雇ったヘルパーに心ない仕打ちを受けた二人は、次第に家族からも
世の中からも孤立していき、やがてジョルジュとアンヌは二人きりになってしまう。
終末の翳りが忍び寄る部屋で、ジョルジュはうつろな意識のアンヌに向かって、懐かしい
日々の思い出を語り出すのだった……。」(Movie Walker)

この映画の詳細はこちらまで。
by jazzyoba0083 | 2014-04-20 23:15 | 洋画=あ行 | Trackback | Comments(0)