イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密 The Imitation Game

●「イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密 The Imitation Game」
2014 イギリス・アメリカ Black Bear Pictures,Bristol Automotive.115min.
監督:モルテン・ティルドム 脚本:グレアム・ムーア 原作:アンドリュー・ホッジェス
出演:ベネディクト・カンバーバッチ、キーラ・ナイトレイ、マシュー・グード、ロリー・キニア、アレン・リーチ他
イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密 The Imitation Game_e0040938_15432284.jpg

<2014年度アカデミー賞脚色賞受賞作品>

<評価:★★★★★★★★☆☆>
<感想>
ドイツ軍が1910年代後半に作った難攻不落の暗号作成機「エニグマ」。これに纏わる
小説や映画はこれまでも数多く作られてきた。何故このテーマが魅力的なのか、というと
絶対解読不可能といわれた暗号機を、一人の奇人とも言える天才数学者が解読、その間の
人間模様がとても面白い(というと語弊があるな)、興味深いからだ。

エニグマの解読に着いては、ポーランド人らによっていち早く進められていたが、ドイツ軍は
そのたびにに難解なシステムにアップグレードしていく。 ナチスドイツの快進撃に全欧州が
飲み込まれてしまうのではないか、と思われ、さらに大西洋はUボートが跋扈し、アメリカなど
からの物資は輸送船ごとことごとく海の藻屑となり、イギリスの命運も尽きるのか、という
きわどい戦況であったのだ。
そんな折に、イギリス全土からエニグマ解読チームが集められ、解読に挑戦するのだった。
その中に、アラン・チューリングという天才数学者(大学教授)がいた。本作は彼とエニグマとの
戦いと数奇な人生を描いたものだが、実はイギリスは大戦中はもちろん、戦後もずっとこの
エニグマ解読チームのことを秘密にしていた。2009年になってやっと当時のブラウン首相が
当時のチューリングに対する扱いの非礼を公式に詫び、英国王室も名誉の回復を宣言した
というくらい知られていない話だったのだ。

チューリングの存在自体はその理論から、スティーブ・ジョブスやビル・ゲイツも尊敬せざるを
得ない、現在私達がコンピュータとよんでいるものの理論を作り上げた人物として知られている
のだそうで、エニグマを解読した装置から生まれた「チューリングマシン」がその後、コンピュータの
原型となったと、映画の最後に字幕で示されるが、思わず鳥肌が立った!

私も、その名も「エニグマ」という映画も観たことがあるし、その存在は知ってはいたが、その
背後に、こんなドラマがあったとは初めて知った。多くの人がそうであろう。そのドラマを描いた
本作の出来は、実に素晴らしく、まあ、純粋な文系人間の私にはついていけない理論ではあるが
チューリングという人間が実に良く描けていたと思う。彼は天才ではあるが、人間としては完全では
なく、ある意味奇形であり、さらに同性愛者であった。(映画ではホモセクシャルという言葉を使って
いる)当時、同性愛者は刑罰の対象であったのだ。人と付き合うのが苦手、同性愛者、ある種の
奇人という存在が、難敵であるエニグマを解読するわけだが、得てして、普通の人の人知を超えた
業績を残す天才は、一般人とは違っていることが多く、その特異性というか多様性に対し寛容な
社会こそ、人々を幸せにするに違いないと強く思う映画だった。そのチューリングを演じた
カンバーバッチが素晴らしい。もうこの人しかいないんじゃないか、と思うくらいの存在感だ。
オスカーにノミネートされるのは当然と思える。

またナイトレイを始めとする、エニグマ解析チームの面々、その上司たちなど周囲を固める
キャスティングも良く出来ている。カンバーバッチの充実した演技から、チューリングの人生の
悲哀、奇人的天才としての悲しみ(同性愛者としても)、愛していながら別れる決意をした
(その辺りのきっぱり度は流石は理系だなあと、文系の私なんかは思う)、一度は婚約までした
ジョーンとの愛情のやりとりは、心に染み入るものだ。

エニグマ解析チームがはかばかしい成果を上げること出来ないことを責められ、スパイの
容疑まで掛けられたチューリングが、「あなたには絶対理解できない!私がしていることの
重要性が!」と叫ぶのだが、正しく、天才数学者をもって自認するチューリングの魂の叫び
だったのだ。天才を正当に評価する社会のシステムが大事なんだなあとつくづく思える瞬間だ。

隘路に入ったか、と思わていた時、思わぬヒントからエニグマの全貌を解読出来ることになる
のだが、イギリスは、ドイツに暗号が解読されたと感付かれることを恐れ、これを徹底的に秘密にし
時には、連合軍が攻撃に合うことが分かっていても助けなかったことすらある。
しかし、終戦までナチス・ドイツはついにエニグマが解読されていることを知らず、このために
戦争が2年早く終わり、1200万人の市民が助かった、という説もあるくらいだという。これだけの
功績を上げたチームだが、戦争終了と共に解散、その秘密は絶対死守とされた。

本作はイギリスのエニグマ解読チームが解読に成功するまでのスリリングな展開ももちろん
あるのだが、やはり、カンバーバッチ演じるチューリングの人間性の描写の見事さに尽きる。
ラスト近くになると、チューリングが自らの解析器になぜ「クリストファー」と名づけたかが理解
できる仕組みなのだが、その背景にも悲しいものがあるのだ。

天才の頭のなかを、心のなかを推し量るのは至難の業ではあるが、人類の幸福のために
社会がこれを包み、良い方向に持っていくことをしなくては。
イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密 The Imitation Game_e0040938_15435749.jpg

<ストーリー>
ベネディクト・カンバーバッチが実在の天才数学者を演じ、その数奇な運命を描く人間ドラマ。
第二次世界大戦時、解読不可能と言われたドイツ軍の暗号“エニグマ”の解読に挑んだ英国人
数学者アラン・チューリング。戦争時の機密事項のため、英国政府が50年間も隠し続けていた
チューリングの知られざる人物像が明らかになる。

1939年、英国がヒトラー率いるドイツに宣戦布告し、第二次世界大戦が始まる。ケンブリッジ
大学特別研究員で、27歳の天才数学者アラン・チューリング(ベネディクト・カンバーバッチ)は、
英国政府ために独軍の誇る難攻不落の暗号エニグマ解読に挑むことになる。
英国海軍のデニストン中佐(チャールズ・ダンス)は6人の精鋭を解読チームとしてブレッチリー・
パークに集めるが、チューリングは一人で仕事をしたいと訴える。
MI6のスチュアート・ミンギス(マーク・ストロング)はチーム一丸となることを求めるが、
チューリングにとって暗号解読は自分の能力を試すゲームに過ぎなかった。

リーダーのヒュー・アレグザンダー(マシュー・グード)のもと奇襲作戦やUボート情報の暗号文を
分析するチームを尻目に、チューリングは一人でマシンを作り始める。製作費を却下されると、
チャーチル首相に手紙で直訴し、首相から責任者に任命される。そして、二人の同僚を
「無能だ」とクビにしてしまう。子供の頃から孤立し、唯一の親友とも悲しい別れをした
チューリングには、他人との交流など不要だった。1940年、解読は一向に進まず、メンバーの
苛立ちはチューリングに向けられる。

そんな中、目的を伏せた試験でチューリングより早くクロスワードパズルを解いてチームに
加わったジョーン・クラーク(キーラ・ナイトレイ)が、チューリングの心を少しずつ開いていく。
マシンに見切りをつけた中佐にクビを宣告されたときも、仲間が助けてくれた。
中佐から1カ月の猶予を引き出したチームは、遂にエニグマを解読する。しかし、解読した
ことが敵にばれれば、エニグマの構造を変えられてしまう。ヒトラーから世界を救うため、
チューリングとMI6は新たな極秘作戦を計画する。それはチューリングの人生、仲間との
絆をも危険に晒し、さらにソ連スパイ疑惑まで向けられる。そしてチューリングの大きな
秘密が重なり、彼の人生は思わぬ方向へ進んでいく……。」(Movie Walker)


この映画の詳細はこちらまで。
by jazzyoba0083 | 2015-03-15 15:40 | 洋画=あ行 | Trackback | Comments(0)