ある過去の行方 Le passé

●「ある過去の行方 Le passé」
2013 フランス・イタリア・イラン Memento Film Productions.130min.
監督・脚本: アスガー・アルファディ
出演:ベレニス・ベジョ、タハール・ラヒム、アリ・モサファ、ポリーヌ・ビュルレ、サブリナ・ウアザリ他
ある過去の行方 Le passé_e0040938_11251342.jpg

<評価:★★★★★★★★☆☆>
<感想>
人間関係が複雑に入り組んだ上に、サスペンス的な要素もあり、よく構造が分からない点も
あるのだが、その仕上がりの良さには拍手を送らざるを得ない出来だ。
男女の愛憎、それに絡む(というか振り回される)子供ら。ある意味、みんな身勝手なんだ、
個人的には、子供を除き、出てくる主人公群の男女は、好きになれないタイプの「奴ら」だった。

4年前にイランに帰ってしまった(なぜかは分からない)アーマド(イラン人だな)、離婚裁判の
ためにフランスに帰ってくる。元妻ということになるマリー=アンヌは映画上では説明は無いが、
3回めの結婚相手と既に同棲中であり、そのことをアーマドに言ってかなかったので、アーマドは
当然面白くない。マリー=アンヌは何回もメールを出した、というが一通も受け取ってないという、
アーマド。真相は結局わからない。で、既に同棲を始めていた相手が街のクリーニング店主の
サミール。その小さい息子も既に一緒に住んでいた。一番最初の旦那(ブリュッセル在住)との
娘リュシーは、この再婚に反対していた。学校にもろくに行かず、家にも寄り付かない。しかし
アーマドにはなついているのだ。

こうした、構図の中に、いろいろなことが分かってくるのががそれが物語として面白い。
再再婚しようとしているクリーニング店主サミールには植物状態になった妻が居る。離婚も
していない状況では再婚は出来ない。その植物状態になったのは妻の自殺未遂。
客とシミを付けたのはそっちだこっちだ、と大ゲンカとなった。絶対に店で付けたシミじゃないと
言い張る妻、使用人の女性も、自分はミスしたことがないと言う。間に入ったサミールは、
客に非を認め、弁償すると言って謝る。さらに使用人のイラン人女性の味方をして、妻の方に
出て行け、と言うのだ。その次の日、妻は家族の前で洗剤を飲んで自殺を図った。一命は
取り留めたが植物状態となってしまったのだ。

さらに離婚が成立する調停の日に、マリー=アンヌは、アーマドに自分が妊娠していることを
告げる。リュシーが言うには、再婚に反対した彼女が、マリー=アンヌとサミールとのメールを
サミールの妻に転送した、というのだ。これで浮気がバレてしまい、妻は自殺を図ったと。
これをアーマドに打ち明ける。アーマドは、秘密にしては置けないだろう、お前が一生苦しむ、と
いい、リュシーは、マリー=アンヌにそのことを伝える。当然激怒するマリー=アンヌ、リュシーに
出て行け、という。メアドはクリーニング店の使用人の女性から聞き出したらしい。そこで
サミールは、使用人に聞きただす。どうして教えたのだ、と。すると使用人の口からは意外な
ことが。つまり、妻は、サミールの浮気を疑っていて、その相手は使用人の女だと思っていた
のだ。そこでそうではないことを主張するために、リュシーにアドレスを教えたと。

当然、サミールは激怒、クビにしてしまう。だが、追いかけたサミールに、使用人は奥様は
メールを開けていない、という。愕然として、使用人を呼ぶが彼女は去っていった。

事態はサミールの妻の自殺の原因を巡ってぐちゃぐちゃの様相。離婚が成立したアーマドは
再びイランに戻っていく。リュシーに出て行け、と言ったマリー=アンヌは、自分が出てくわ、と
行って家から去る。しかし、サミールはどうやらマリー=アンヌを単なる浮気相手としか見て
いなかったようで、腹の子を始末してくれ、という。サミールがまだ妻を愛していることを確信した
マリー=アンヌ、サミールもいけしゃあしゃあと「気が付かなかったか」といったりする。
リュシーは、ブリュッセルの実父の元に行く。そして皆がバラバラになったのだが、
ラスト、植物状態の妻に自分がつけていた香水などかがせて刺激するといいかも、という医師の
指摘で、家から香水を持って行くが、効き目はなかった。一旦は諦めて、病室を後にするサミール
だったが、自分のコロンを嗅がせてみようと、戻る。そして自分のクビの周りにコロンをふりかけ
妻の顔に近づけ「匂いが分かったら、手を握ってくれ」というと、彼女は、彼の手を握り返した
のだった。そこでストップモーション。エンドロールと。

話が複雑に交錯している割には緊張して展開、それぞれの身勝手さが表現される。特に
マリー=アンヌの(悪い人ではないのだが)自分のことしか考えない人生は、最後には
うっちゃられ、クリーニング店主は妻の元に帰っていく。妻の自殺の真相は分からないまま
だが、みんな自分のいいように考え、他人を思わない様がある種の群像ドラマとして
面白く見ることが出来た。アーマドがなぜ4年前にイランに帰ったか、教えるよ、と言っても
聞く耳を持たない。女子高生リュシーやら、クリーニング店主の息子など子役も良かったし
カンヌで女優賞を獲ったベレニス・ベジョの手の付けられないキャラクターも良かった。
見終えてすっきりする映画ではないが、(いかにもカンヌ向き?)よく出来た構成を持った
よく出来た映画だということは出来る。薄皮を剥がすように次第に全体が見えてくる構造が
スリリングであり、人間の感情を上手く物語れていると思う。
ある過去の行方 Le passé_e0040938_11253352.jpg

<ストーリーなど>
この映画の詳細は前作「別離」でアカデミー賞外国語映画賞を獲得したイランの俊英アスガー・
ファルハディ監督が、「アーティスト」のベレニス・ベジョを主演に迎えて贈るミステリー・ドラマ。

パリを舞台に、再婚を予定している子連れカップルの思いもよらぬ過去の秘密が少しずつ
明らかになっていくさまと、彼らを軸に複雑に絡まり合う愛と哀しみの人間模様が赤裸々かつ
サスペンスフルに綴られていく。
共演は「預言者」のタハール・ラヒムとイラン人俳優アリ・モサファ。
 別れたフランス人の妻マリー=アンヌと正式な離婚手続きをとるため、テヘランから4年ぶりに
パリに戻ってきたイラン人男性、アーマド。空港でマリー=アンヌに出迎えられ、一緒に家へと
向かう。彼はそこで、マリー=アンヌがすでに新しい恋人サミールと暮らしていることを知る。
しかし、そんな2人の交際に反発するのがマリー=アンヌの上の娘リュシー。彼女はアーマドに
対し、サミールには昏睡状態の奥さんがいると告白するのだが…。」(allcinema)

この映画の詳細はこちらまで。
by jazzyoba0083 | 2015-05-18 23:20 | 洋画=あ行 | Trackback | Comments(0)