誰よりも狙われた男 A Most Wanted Man

●「誰よりも狙われた男 A Most Wanted Man」
2013 アメリカ・イギリス・ドイツ Lionsgate,Film4,Demarest Films.122min.
監督:アントン・コルベイン   原作: ジョン・ル・カレ 『誰よりも狙われた男』(早川書房刊)
出演:フィリップ・シーモア・ホフマン、レイチェル・マクアダムス、ウィレム・デフォー、ロビン・ライト他
誰よりも狙われた男 A Most Wanted Man_e0040938_1145438.jpg

<評価:★★★★★★★☆☆☆>
<感想>
フィリップ・シーモア・ホフマンの遺作となった(といわれる)作品。終わり方が悲劇的で
好みではないが、お話としてはよく出来ていたと思う。9,11以降のテロ対策について
見解の違う2つの勢力が、一人のチェチェン人青年を巡り、対立していく様子を
静かに、しかも問題を含みつつ描いていく。そしてラストは何ともやりきれない終わり方だ。

ドイツは、9,11の首謀者アタ容疑者をハンブルグで逮捕できなかったことを悔いており、
テロリストの摘発には力を入れていた。その中心人物がギュンター(ホフマン)であった。
彼は世間的には存在していないドイツ政府の対テロスパイチームのボスであり、アフリカで
一度失敗していることから、ことを慎重に運び、裏の裏にいる巨悪をあぶり出す作戦。

方やドイツ警察や公安当局は、青年を危険なテロリストとして一刻も早く摘発したい。
そこに調子のいい漁夫の利を目論むCIAが一枚噛むことで事態を不幸な方向に押しやって
しまう。このチェチェンの青年を助けようとするのが人権保護団体NPOの弁護士アナベル
(レイチェル)。彼女は、青年を何とかしようと思いつつ、ギュンターらの方針を理解しつつ
ギュンターに協力する。

イッサ・カルポフという名前はアラブ、苗字はロシアというチェチェンの青年は、ハンブルグ港に
密航してきた。彼は父親の手紙を持ち、あるブルー(デフォー)なる銀行家との接触を
図ってきた。イッサが言うには彼のチェチェン人の母は14歳でロシア人の父に犯され、
自分を産んで死亡。汚いことをしてチェチェン人から巻き上げた大金を母国の病院や学校に
寄付したいとのことだった。ギュンターはイッサを泳がせることで彼の背後にいる組織を
炙りだそうとしていた。それは、アブドゥラ博士というイスラム系の男で、彼の慈善の送金の
一部が過激派の武器を運ぶ海運会社に回っている疑惑がある、というのだ。

一方、ドイツ公安やCIAは、イッサをすぐに捕らえろ、と主張する。ギュンターの努力で
アブドゥラ博士と銀行家ブルーの接触が実り、アブドゥラ博士はイッサの父が遺した大金を
希望するリストに送ることに同意した。しかし、サインをしている途中で「この中の1つの
寄付先を変更したい」と言い出す。これだ!と外のワゴンで盗聴していたギュンターたち
チームは小躍りした。無事にテロリスト支援会社への送金を見届け、後は身柄を確保する
だけ。ギュンターがタクシー運転手に化けて寄付の手続きを終えた銀行前に。アブドゥラと
乗り込もうとしたとき、タクシーは待ち構えていたクルマにぶつけられ、ギュンターが気を
失っているうちに、アブドラ博士とイッサは、公安当局(CIAの援護を受けている)に、
拉致されてしまった。

今一歩でアブドゥラ博士の背後にいる組織まで手を伸ばせたのに、公安とCIAはメチャクチャに
したのだ。徒労感にうなだれたギュンターは、街に消えていったのだった。

静かなスパイ映画だが、過去の失敗から学んだギュンターが、アナベルを通じてイッサを懐柔し、
味方に付けて、彼の奥にある組織をあぶりだそうと慎重にことを進め、成功一歩手前で
公安当局とCIAが急襲し、台無しにしてしまう。
ギュンターの悔しさを思うとやりきれない。
ヘビースモーカーで、殆どアル中、腹の突き出たホフマンはおよそ対テロ対策員とは思えない
要望だが、抑えた演技はさすがであり、また裏金取引をやっているが故に弱みのある銀行家
ブルーのデフォーも、人権派弁護士のレイチェルも良かった。ストーリーの骨格が面白いのは
原作によるところが大きいとは思うが、この沈み込むような挫折感、徒労感をこの監督と
キャストは上手く表出できていたとおもう。
誰よりも狙われた男 A Most Wanted Man_e0040938_1145241.png

<ストーリー>
14年2月に急逝したオスカー俳優、フィリップ・シーモア・ホフマン主演のサスペンス・ドラマ。
『裏切りのサーカス』などで知られるスパイ小説の大家、ジョン・ル・カレの同名作を基に、
現代のスパイによる諜報合戦が描かれる。
ウィレム・デフォー、レイチェル・マクアダムスといった名優たちによる演技合戦にも注目。

ドイツのハンブルグで諜報機関のテロ対策チームを指揮するバッハマン(フィリップ・シーモア・
ホフマン)は、密入国した青年イッサをマークする。イスラム過激派として国際指名手配されて
いるイッサは、人権団体の女性弁護士アナベル(レイチェル・マクアダムス)を通して
イギリス人の銀行家ブルー(ウィレム・デフォー)と接触。
ブルーの銀行にテロ組織の資金源である秘密口座の存在が疑われるため、バッハマンは
その動向を監視していた。ドイツの諜報機関やCIAがイッサの逮捕に動き出す中、彼を
泳がせることでテロ組織への資金援助に関わる大物を狙うバッハマン。だが、思いがけない
事態が次々と巻き起こる……。(Movie Walker)

この映画の詳細はこちらまで。
by jazzyoba0083 | 2015-08-20 23:15 | 洋画=た行 | Trackback | Comments(0)