上意討ち 拝領妻始末

●「上意討ち 拝領妻始末」
1967 日本 東宝・三船プロダクション 128分
監督:小林正樹 脚本:橋本忍 音楽:武満徹
出演:三船敏郎、仲代達矢、加藤剛、司葉子、神山繁、松村達雄、山形勲、三島雅夫、市原悦子、大塚道子他
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<評価:★★★★★★★★☆☆>
<感想>

傑作「切腹」から4年。製作会社を松竹から東宝に変え、さらに三船プロが加わった座組となり、
「切腹」がもつ独特の緊張感と武家社会のおぞましさに比すと、いささか「情感」とかエンタメ方向に
振った感じを受けた。
原作となった滝口康彦の物語性は、あいかわらず尋常ではないに冒頭から引き込まれていく。さらに
橋本忍の脚本が相変わらず見事。カメラがやや「切腹」に比べると弱いが、神山繁のやりすぎ感もある
目の周りのメイク、照明、そして大道具小道具の美術も総じて完成度は高い。

会津藩の話なのだが、結果、悪行を極めた殿様になんの御咎めがないのが、観終わって釈然としないところだ。
三船の情が篭ったラストのセリフも、言っていることは正しいが、そこまで観てきた人が感じたいカタルシスの
レベルを示せていない。後半、隠居となった三船が、息子もその嫁も亡くしてしまい、残された孫を抱えて
「情」の表現部分が多くなるのだが、個人的には、もっとハードボイルドであっても良かったと感じた。

城下の剣術使いとして三船と並び称される仲代の役どころも、いささか中途半端。殿様の悪行を江戸表に
伝え、大目付から、殿様に対し、蟄居、所領替えなどの罰が降りるとすっきりしたんだが。
「切腹」のラストもそうだったが、結局は火縄銃でやられるのであるが、ならば追手は最初から鉄砲を使え、
と突っ込みたくなる。そのあたりの緊迫感の薄い剣戟も、後半の三船のクサいセリフと並び、残念な部分であった。
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殿様が、正式の世継ぎになにかあった場合、家を継ぐものがいなけれがお家断絶という時代、それを避けるため、
所謂スタンバイ要員としての世継ぎを産ませるため、お市という妾を、奥に入れた。お市は男児を産むが、
しかし殿の寵愛はすぐに若い妾に移り、市は気に入らないと手放された。
そして馬廻り300石の井原伊三郎が倅、与五郎に下しおかれると側用人からの伝言。その妾も実は婚約者が
いたのを引き剥がされたのだ。殿といっても50歳過ぎの爺である。聞けばお市はすこぶる性格が悪いという。

与五郎は一旦は断るが、藩主の命である、とのことで、お市(司葉子)を嫁に取ることにする。
お市は性格が悪いのではなく、正義の人で気が強いだけ、よく出来た嫁であった。2人には女の子が誕生、
与五郎は市を深く愛し、義父の伊三郎も大変気に入っていた。幸せな生活であった。

だが、江戸表のお世継ぎが急逝するという事態になる。お市が産んだ男の子が俄然世継ぎとなり、井原家に
お市を、お世継ぎ様のご母堂となるのだから大奥に戻せ、と命が下る。
ここに及んで、伊三郎、与五郎親子は、まるで人形のように女性をやり取りする殿様の所業に激怒。
絶対にお市を大奥には戻さない、と言い張る。しかし上役や親戚らは、井原家が取り潰され、2人は切腹と
なるぞ、と脅される。市も大奥には絶対に戻らない、と心に決めていた。しかし、与五郎の弟文蔵に
騙され、お市は大奥に拉致されてしまう。

事態がここまで至ったので、井原親子は腹を決め、井原家断絶も構わないからと家を砦として、籠城し、
一戦構え、上役共に一泡吹かせ、またこの凶状を江戸の大目付に訴えようと決めた。
藩の上役の中でも腹黒い側用人高橋外記(神山繁)は、井原家にお市の方を伴って現れ、お市自身が
井原と縁を切り、大奥に戻るといえば、井原一族の咎めは軽くなるであろう、一方、あくまでも井原の
嫁だ、と言い募るのなら、この場で2人は斬り殺さなくてはならない、と迫る。市の返事は否であった。
市も与五郎を深く愛していたのだ。彼女は幼い娘を残し、そばにいた用人の槍を自分に突き立てて果てた。
もう自分を理由に井原家を争いに巻き込みたくないと、覚悟を決めたのだった。そばに駆けつけた
与五郎も、藩の追手の手にかかり絶命。鬼とかした父伊三郎は、居並ぶ追手を全滅させ、高橋外記も
屠った。
そして娘を脇に江戸表にこの非道を訴えに出かけようとしたが、藩の境界で、待っていたのは
剣術の仲間で剣豪の浅野帯刀(仲代)であった。役目として木戸を通すわけには参らぬ、と主張。
浅野と井原の一騎打ちが始まる。浅野は負ける気でいたように思える。激しく斬り結んだ結果、井原が勝ち、
笹の原に置いた幼い娘のところに駆けつけようとしたところ、追手の鉄砲が火を噴く。それでも多くを斬殺し、
必死の応戦をしたがなにせ多勢に無勢。
ついに伊三郎は絶命する。娘に対し「母のようなおなごになれよ、そして父のような婿を見つけろよ」と
声を掛けたのが最後の言葉だった。
娘はかけつけた、乳母(市原悦子)に抱かれて眠るのだった。
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さて、本作をどう捉えるべきか。お家大事、家門大事、武士の名誉大事、という幕藩体制の中で、個人や家族という
単位は、そうした体制の元では、押し殺されていく、という理不尽。片やそれを守り保身を図る(藩の存続を
考えば役目柄やむを得ないというのは「切腹」と同じだ。
 権力の前に、基本的人権などありえない世の中では、権力者の言うことは絶対。嫁を寄越せといえば差し出し、
切腹せよ、と言われればどんな理不尽であっても腹を切らなくてはならないという、武士道の持つ(今から見れば
歪んだ)体制、非道、理不尽と、それに翻弄される特に女性の悲劇に焦点を当てたもの、というべきだのだろうか。

これまで全く観たことが無かった小林正樹作品。「切腹」「上意討ち」の二本は、黒澤、小津に並ぶ私の中の
ベスト映画となった。

この映画の詳細はhttp://www.allcinema.net/prog/show_c.php?num_c=142086#1こちらまで。

by jazzyoba0083 | 2016-12-05 23:10 | 邦画・旧作 | Trackback | Comments(0)