人生はシネマティック Their Finest

●「人生はシネマティック Their Finest」
2016 イギリス BBC Films, The Welsh Government,Pinewood Pictures. 117min.
監督:ロネ・シェルフィグ  原作:リサ・エヴァンス「Their Finest Hour and a Half」
出演:ジェマ・アタートン、サム・フランクリン、ビル・ナイ、ジャック・ヒューストン、ヘレン・マックローリー他
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<評価:★★★★★★★☆☆☆>
<感想>
★は7.5。小ぶりながら、愛すべき掌編、という感じだ。映画を愛する人たちの作品に掛ける思いが
素晴らしい、ことはもちろんそうなのだが、戦時下において一生懸命自分の国、(の人々)のために、
一所懸命生きている、生きようといている主人公カトリンの健気な姿が私には眩しく美しかった。

たまたまノーランの「ダンケルク」を二回も観て、更に原作も読んだ身としては、作中映画に大変興味が
行った。いわゆる「ダイナモ作戦」において、民間女性が参加した、という公的記録はないようだが、
本作の姉妹のように、兵士撤退のためにいてもたってもいられなかった人たちはたくさんいただろう。

さて、本作の魅力は何と言っても主役のジェマ・アタートンの存在。まるで映画のことなど知らない女性が
何とかいい映画を作ろうとするひたむきな姿に心打たれる。加えて、堅物として登場する老男優(若い人は
戦争に行ってしまって映画界も老人しかいない状態)ヒリアード氏(ビル・ナイ)の存在も大きい。そして
含蓄のあるセリフをたくさん吐くんだ。共同で脚本を書き、やがてお互いに愛を感じ合うようになるトムなど
いいも悪いも混ぜ合わせて主人公カトリンの成長の過程が描かれていく。ただ、トムの最後はちょっと
あっけなさ過ぎな感じだ。しかしそれとて、カトリンとトムの会話の中に出てくる「生」と「死」のメタファー
のように感じた。トムは戦争では死ななかったけど、その死の意味は他人が決めること。カトリンは
悲しみの中から立ち上がるのだ。(ちなみに彼女の旦那は足の悪い絵描きで、浮気などかましてくれている)
またドイツの爆撃で犠牲になっていく人たちの姿を間近でみたカトリンの心にも変化が生まれてくる。

ナチス・ドイツとの戦いが苛烈を極めてくる1940年。英国の欧州派遣軍はドイツ軍に押され、ダンケルク
からドーバー海峡を渡って本国に兵士を撤退させる作戦に出た。「ダイナモ作戦」である。これには
ノーランの映画にも描かれている通り、多くの民間の船が参加、中には犠牲になった人々もいたが、結果的に
30万人以上の英仏兵を本土に運ぶことに成功した。イギリスはこれからバトル・オブ・ブリテンやドイツの
V1攻撃など厳しい戦いを強いられていくわけだが、そうした中で、「撤退」を「負け戦」と見せないような
プロパガンダは必要だったのは容易に想像出来、情報局が「ダイナモ作戦」を主題として戦意を鼓舞する
映画を作ろうとしたのだ。同じような事情は日本でもあったわけで。

脚本担当に起用されたのは、映画の素人だった、秘書のカトリン(アタートン)。彼女は脚本家のトムと
取材をし、苦労しながら脚本を書いていく。しかし、そこには軍部からの「あそこはああしろ」という
横槍や、頑固な俳優たちの抵抗などあったわけだが、何とかそれを乗り越えて映画を完成させていく。
観客は、カトリンの一人の女性として、夫を抱えお金も必要、そしてなれない仕事だけど一生懸命に取り組む
姿に共感を覚えるのだ。作っている映画はまあプロパガンダなのでさしたる内容でもないのだが、
カトリンにしてみれば、自分の思いや周囲の思いを込めた作品だったのだ。

そして上映会が開かれる。スクリーンを見つめる観客は涙を流し、あるいは興奮し、映画を楽しんでいた。
その姿と、非業の死を遂げたトムのことなどがその胸に去来したカトリンの目にも涙が浮かぶのだった。

作中映画の作るシーンがなかなか興味深い。ダンケルクの砂浜の兵士はガラスに描かれたんだなあ、とか。
原作は「彼らの輝かしい1時間半」という感じだろうか。みんなで作った映画に吹き込まれた思い、生命と
いったものを感じるタイトルだ。放題とはちょっと方向性が違うかな。

もう一度観てみたい作品だ。
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<ストーリー>
1940年、第二次世界大戦下のロンドンを舞台に、プロパガンダ映画の脚本家に抜擢された女性が、様々な
困難に直面しながらも、映画製作に挑む姿を描く人間ドラマ。『007 慰めの報酬』でボンドガールを務めた
ジェマ・アータートンが執筆経験のない新人脚本家に扮し、周囲の人々に助けられながら成長していく姿が
つづられる。(Movie Walker)

 「17歳の肖像」「ワン・デイ 23年のラブストーリー」のロネ・シェルフィグ監督が、第二次世界
大戦下のロンドンを舞台に、幾多の困難を乗り越え、国民に勇気を与える映画の完成に執念を燃やす一人の
素人女性脚本家と個性豊かな映画人が織りなす愛と情熱の物語を描いた戦時ラブ・コメディ。(←ラブコメディ
ではない=ブログ管理人文責)
主演は「ボヴァリー夫人とパン屋」のジェマ・アータートンと「世界一キライなあなたに」のサム・クラフリン。
共演にビル・ナイ。

 1940年、第二次世界大戦下のロンドン。ドイツ軍の空爆が続く中、政府は国民を鼓舞するプロパガンダ映画の
製作に力を入れていた。その一方、映画界は度重なる徴兵で人手不足。ある日、コピーライターの秘書をして
いたカトリンが、いきなり新作映画の脚本家に大抜擢される。
内容はダンケルクの撤退作戦でイギリス兵の救出に尽力した双子の姉妹の活躍を描く物語。戸惑いつつも、
自分をスカウトした情報省映画局の特別顧問バックリーらと協力して初めての脚本執筆に挑むカトリン。
しかしそんな彼女の前には、無理難題を押し付ける政府側のプレッシャーや、わがまま放題のベテラン役者など、
いくつもの困難が待ち受けていたのだったが…。(allcinema)

<IMDb=★6.8>
<Rotten Tomatoes=Tomatometer:89% Audience Score: 72%>






by jazzyoba0083 | 2017-11-23 11:30 | 洋画=さ行 | Comments(0)